GRヤリスはラリーで勝つために開発された。そのためのエンジンであるG16E-GTSは、高回転までよどみなく回りきる。エンジンの開発の裏側を取材したあと、実際に試乗してGRヤリスを味わってみた。


TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

スカイラインとスカイラインGT-Rがだいぶ違っていたように、ヤリスとGRヤリスもだいぶ違う。どちらもレース参戦を前提に設計されている点が共通しており、エクステリアは迫力満点だ。GRヤリスのいかつさといったらない。ワイドなボディ(ベース車比+110mmの全幅1805mm)に合わせて専用設計されたフロントバンパーには、大きな開口部が設けられ、ハニカム状の隙間から空冷インタークーラーが覗く。バンパーコーナー部にあるフォグランプの内側にも開口部がある。「もしや?」と思って覗き込んでみたら、フロントホイールハウスにつながっていた。スープラで採用しているのと同じ構造で、リフト(揚力)を抑える狙いだろうか。

ボディカラーはプラチナホワイトパールマイカ(3万3000円のオプションカラー)

全長×全幅×全高:3995mm×1805mm×1455mm ホイールベース:2560mm 車重:1280kg

ノーマルのヤリスにはない3ドアハッチバックスタイルをとる。トレッド:F1535mm/R1565mm

「Developed For FIA World Rally Championship」の文字が高らかに掲げられている。

ベースのヤリスは5ドアだが、GRヤリスは3ドアだ。そのおかげもあって、大きく張り出したリヤフェンダーが際立っている。ボンネットフードと左右のドア、それにバックドアはアルミ合金製で軽量化のため。ルーフはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製で、やはり軽量化のためだ。炭素繊維の織物に含浸させた樹脂をオートクレーブ法によって硬化させつつ成形した「カーボン」に見えるが、表面はフイルムである。

ルーフはカットした炭素繊維(チョップドカーボン)を樹脂中に分散させたシート状の材料をプレス成形するC-SMC法で作られている。

一般にイメージするCFRPのように見せるためにフィルムが貼られている。

その下に隠れているカーボンは、カットした炭素繊維(チョップドカーボン)を樹脂中に分散させたシート状の材料をプレス成形するC-SMC法で作ったものだ。そのため、織物のように規則正しい幾何学的な模様とはなっていない。見栄えの観点から、高級そうに見える織物模様のシールを貼ることにしたのだろうか(そのぶん重くなるが)。

はにかむ状の隙間から空冷式インタークーラーが見える。

フロントバンパー側から見るとこう。
フェンダーアーチ前内側に出口がある。空力処理のためだろう。

軽いボンネットフードを開けると、G16E-GTSの名称を持つエンジンが見える。GRヤリスのために開発した専用設計エンジンだ。エンジンルームから12Vバッテリーを追い出し、リヤの荷室床下に配置するようなことができたのも、高い志をもって開発にあたったからだ。排気量は「なぜ1598ccとかではなく1618cc?」の疑問に対する回答は『Motor Fan illustrated Vol.174』の3気筒エンジン特集を参照、と書いて済まそうとも思ったが、それでは意地が悪いので正解を記しておくと、理由はレギュレーションである。

ボンネットフード開くと3気筒エンジンであることを表すエンジンカバーが目に入ってくる。

エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ エンジン型式:G16E-GTS 排気量:1618cc ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm 圧縮比:10.5 最高出力:272ps(200kW)/6500rpm 最大トルク:370Nm/3000-4600rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:DI+PFI 使用燃料:プレミアム

GRヤリスはそもそも、WRC(FIA世界ラリー選手権)で上から2番目に位置するRC2クラスを走るR5(現ラリー2)規定に合致し、勝つクルマにすることを目的に開発された。R5規定が定める最大排気量が1620ccだったので、規定を目一杯使うべく1618ccの排気量としたのである。そこからボア/ストロークに落とし込んでいくわけだが、その前に気筒数だ。1.6ℓに一般的な4気筒ではなく、3気筒を選択した。排気干渉がなく(もしくは少なく)、中低速でのトルクを高めやすいからだ。

3気筒で排気干渉がないのでターボチャージャーはシングルスクロール式。ウェイストゲートは負圧で駆動する電子制御式

出力最大化の視点でシミュレーションを行ない、最適解を導き出した結果が87.5mmのボア径である。ストロークは89.7mmになった(ボア/ストローク比1.03)。R5規定はエンジン最高回転数を7500rpmに規定しており、最高出力を規制するために32mm径の吸気リストリクター装着を義務づけている。あるところで吸入空気量は頭打ちになるので、高回転まで引っ張って使う意味はない。開発陣は実際にラリーの現場におもむき、エンジンの使用状況をリサーチした。その結果、4500-6200rpmを多用していることがわかったという。

トランスミッションは、iMTと呼ぶ新開発の6速MT。

G16E-GTSはだから、その回転域で実力をいかんなく発揮する設計になっている。初号機が載った先行試作車をテストドライブしたモリゾウ氏(豊田章男社長)は、クルマが「言うことを聞かない」とダメを出した。そのダメ出しに対して開発陣は、ターボチャージャーの軸受にボールベアリングを採用してフリクションを低減し、コンプレッサーホイールのチップクリアランスを詰めて効率を高めるため、樹脂系材料のアブレダブルシールを採用した。さらに、モデルベース開発を駆使してウェイストゲートの制御を最適化し、レスポンスを向上させた。

タイヤは225/40R18
ミシュラン・パイロットスポーツ4S
フロントサスペンションはストラット式
リヤはダブルウィッシュボーン式

それでも、モリゾウ氏は満足せず「野性味が足りない」とフィードバックを寄こしたという。「ダイレクト感が足りない」と理解した開発陣は、アクセルペダルの動きに対するリニアなレスポンスを作ることが必要だと判断。ピストン、ピストンピン、コンロッドの重量選別を行なうことにし、3気筒のアンバランスを解消した。また、気筒ごとの圧縮比のばらつきを従来基準の半分にした(ずいぶん説明してしまったが、もっと深くて詳しい内容はMotor Fan illustrated Vol.174でご確認ください)。

というような背景を知ってGRヤリスに初対面し、乗り込んだ。エンジンが始動した瞬間に、もうこのクルマの虜になっている。ただならぬ気配とはこのことだ。まるで、野獣が周囲を威嚇するうなり声のような音が耳に届く。じゃあ、野生動物のように人の言うことを聞かないかというと反応は正反対で、右足の動きに忠実だ。高速コーナーの続くワインディングロードでは、意図的に一段低いギヤを選択した。回転が上昇するさまは、「よどみない」という表現がぴったりくる。アクセルペダルの動きに即応し、一切の引っかかりがなく、シュンと回る。

ギヤ比は1速3.428/2速2.238/3速1.535/4速1.162/5速1.081/6速0.902 後退3.83 最終減速比 フロント[1速〜4速]3.941 [5速〜6速、後退]3.350 リヤ2.277

それに、いい音だ。事前においしい回転域を聞いていたこともあるが、3000rpmから上、もっというと5000rpmから上の回転域は気持ちいい。回転数を意識せず、気持ち良く走っていると自然に、おいしい回転域を多用していることに気づく。「じゃ、もっと上のほうはどうなの?」とレッドゾーンが始まる7000rpmまで引っ張ってみたが、G16E-GTSは苦しげな素振りを見せない。それどころか、もっと上までスムーズに回りそうな雰囲気を残しながら、燃料カットが介入する。競争相手がついてこないと悟るや、ゴール手前で流してフィニッシュするウサイン・ボルトのような余裕っぷりである。

G16E-GTS恐るべし。エンジンとの対話がこんなに楽しいクルマはない。金属部品で組み上がった「エンジン」ではなく、生き物を相手にしているようだ。 

最小回転半径は5.3m 最低地上高:130mm

GRヤリス RZ"High Performance"


全長×全幅×全高:3995mm×1805mm×1455mm


ホイールベース:2560mm


車重:1280kg


サスペンション:Fストラット式/Rダブルウィッシュボーン式


エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ


エンジン型式:G16E-GTS


排気量:1618cc


ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm


圧縮比:10.5


最高出力:272ps(200kW)/6500rpm


最大トルク:370Nm/3000-4600rpm


過給機:ターボチャージャー


燃料供給:DI+PFI


使用燃料:プレミアム


燃料タンク容量:50ℓ


トランスミッション:6速MT(iMT)


駆動方式:AWD


WLTCモード燃費:13.6km/ℓ


 市街地モード10.6km/ℓ


 郊外モード13.8km/ℓ


 高速道路モード15.3km/ℓ




車両価格○456万円


オプション 予防安全パッケージ24万9700円などop込みの価格は494万2250円

情報提供元: MotorFan
記事名:「 トヨタGRヤリス | G16E-GTS恐るべし。エンジンとの対話がこんなに楽しいクルマはない