REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
ホンダGB500TTは「GB400TT」発売の1ヶ月後、「GB400TT MkⅡ」と同日にリリースされた500ccクラスのビッグシングルスポーツモデル。容量17Lのガソリンタンクなどの外装(GB500TTのシートはシングル風を採用)、フレーム、足周り、5速ミッション等は基本的に400cc版のGB400TTと共通だが、空冷4ストロークSOHC単気筒4バルブエンジンは、
・GB400TT......ボア径Φ84.0mm×ストローク長72.0mm=399cc
・GB500TT......ボア径Φ92.0mm×ストローク長75.0mm=498cc
に変更。大口径のシングルキャブレター(VE10)を組み合わせ、低中速域での力強い加速感を実現。ビッグシングルならではの、中低速域での力強い乗り味を調和させた。最高出力と最大トルクの違いは、
・GB400TT......最高出力:34PS/7,500rpm 最大トルク:3.4kgf-m/6,000rpm
・GB500TT......最高出力:40PS/7,000rpm 最大トルク:4.2kgf-m/5,500rpm
シリンダーヘッドの排気ポートは、兄弟車のGB250クラブマンやGB400TT、また「精密機械」と呼ばれた50ccながらDOHC 4バルブエンジンを搭載した「ドリーム50」と同じく、単気筒ながら2つ設置。また、エキパイ2本を装備した2into1マフラーの採用により、ビッグシングルエンジン特有の、低くて小気味良い、趣きのあるエキゾーストノートにアレンジ。
ガソリンタンク、ウインカー、バックミラーの形状、スピードメーター、タコメーターの文字など、細部までシンプルなイメージを演出。ヘッドライトステー、ウインカーベース、ホイールリムなどにはアルミを採用。ハンドルは鍛造のジュラルミン製とし、前後フェンダーやサイドカバーはスチール製。金属素材を多用することで、1960年代の質感を上手く与えている。
GB500TTの正式名称は、GB500ツーリストトロフィー。ツーリストトロフィーとは、「世界のホンダ」に躍進するきっかけとなったイギリスのレース「マン島TT」に由来。“GB”の由来は、由緒ある英国の正式名称である「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(ユナイテッド・キングダム・オヴ・グレイト・ブリテン・アンド・ ノーザン・アイルランド)」の中の「Great Britain」の頭文字から。
ホンダは1983年、GB250クラブマンを発売して人気を獲得。1985年、GB500TTはGBシリーズ最高峰の超ビッグシングルとして発売された。
GB500TTの最大のポイントは、1985年当時、乗車するには極めて取得が困難だった限定解除免許(※注1)が必要だったこと。中型二輪免許で乗れるGB250クラブマンやGB400TTに比べ、そのステータスは極めて高かった。
GB400TTはマイナーチェンジを受け、1988年モデルも登場。しかしGB500TTは、写真の初期モデルが最終モデルとなった。GB500TTが短命に終わった理由は、当時の運転免許制度(※注1)。バイクブームだった1985年当時は、パワーのあるマシン=1番という馬力至上主義の時代。特にバイク市場の中心を担っていた若者は、「せっかく苦労して限定解除したのに、500ccでは物足りない」「限定解除したら、やっぱりパワフルなナナハン(750cc)でしょ!」というユーザーが多かった。
筆者の記憶では、当時GB500TTに乗っていたのは、運転免許改正前にバイク免許を取得した、「10代や20代向けのレーサーレプリカはちょっと......」という30代以上のベテラン層。レーサーレプリカが爆発的な人気を誇った1985年当時、バイク市場の中心を担っていた若者にとって、GB500TTは“マニアックな存在”だったわけだ。
GB500TTは生産終了後、大型二輪免許が取得しやすくなったこと。クラシカルなデザインや空冷4ストSOHC4バルブエンジンが再評価されたこと。500ccビッグシングルモデルの希少価値が高まったことから、次第に人気が上昇。また、欧州などの海外でも人気が高まってたことから、程度の良い車両は現在、お宝モデルとして高値で取引されている。
ヤマハSR500は、1978年にリリースされた500ccクラスのビッグシングルスポーツモデル。空冷4ストロークSOHC単気筒2バルブ499cエンジンは、4ストオフロードモデル「XT500」がベース。
外観、フレーム、足周り、5速ミッション等は基本的に400cc版であるSR400と共通だが、空冷4ストロークSOHC単気筒2バルブエンジンは、
・SR400......ボア径Φ87.0mm×ストローク長67.2mm=399cc
・SR500......ボア径Φ87.0mm×ストローク長84.0mm=499cc
ボア径はΦ87.0mmと同寸だが、SR500はストローク長を67.2mm→84.0mmにロング化して、ビッグシングルならではのトルク感と鼓動感を向上。最高出力と最大トルクの違いは、
・SR400......最高出力:24PS/6,500rpm 最大トルク:2.9kgf-m/3,000rpm(Final Edition Limited)
・SR500......最高出力:32PS/6,500rpm 最大トルク:3.7kgf-m/5,500rpm(1999年の最終モデル)
1978年に発売された初期型は、フロントブレーキにディスク式を採用。しかし1985年のマイナーチェンジでは、フロントブレーキをあえてレトロな外観のドラム式に変更。この仕様は生産終了となった1999年モデルまで変わることはなかった。
SR500はGB500TTと同様、市販時はかなりマニアックな存在だった。しかしGB500TTと違い、約20年間に渡り生産され続けてきた大きな理由は、不動の人気を築いたことはもちろん、人気モデルのSR400の存在があったこと。共通部品が多数であったことにより、生産時のコストダウンが可能だったことが大きな要因だ。弟分のSR400は1999年以降も排ガス規制に対応したが、SR500は排ガス規制をクリアすることなく、1999年モデルをもって生産終了となった。
なお、SR400は2021年モデルをもって生産終了を発表。ヤマハの発表(2021年2月)によれば、「Final Edition」の予約台数は、発表後数日で6000台に到達。この数値は、何と前回の年間国内生産量の2倍を上回るという。
☆注:この免許制度改正により、「改正前に二輪免許を取ろう」とした若者が、教習所や運転免許試験場に殺到したという。
◎注:「オレが教えてやる!」のキャッチフレーズでおなじみだった、戸塚ヨ◯トスクールばりに竹刀を持ってスパルタ指導する、元白バイ警官『鬼の〇川』と呼ばれた名物教官も存在した。なお、昭和時代の教習所には、実際に竹刀を振り回して教習性をしごき上げる教官が多数実在。当時は10代や20代の死亡事故が多かったのも大きな理由。死亡事故を防ぐため、またバイクの正しい運転を身に付けさせるため、教官たちはかなり厳しく指導していた。
【ホンダGB500TT】
全長×全幅×全高:2,100mm×690mm×1,060mm
軸距 :1,405mm
最低地上高:160mm
シート高:775mm
乾燥重量:149kg
最小回転半径:2.8m
タイヤ:F90/90-18(バイアス) R110/90-18(バイアス)
ブレーキ:F油圧式シングルディスクブレーキ R機械式ドラムブレーキ
懸架方式:Fテレスコピック Rユニットスイング
フレーム:セミダブルクレードル
【ヤマハSR500(フロントブレーキがディスク式の1983年モデル)】
全長×全幅×全高:2,105mm×750mm×1,100mm
軸距 :1,410mm
最低地上高:155mm
シート高:805mm
乾燥重量:158kg
最小回転半径:2.4m
タイヤ:F3.50-19(バイアス) R4.00-18(バイアス)
ブレーキ:F油圧式シングルディスクブレーキ R機械式ドラムブレーキ
懸架方式:Fテレスコピック Rユニットスイング
フレーム:セミダブルクレードル
どちらもフロントフォークにブーツカバー、前後スポークホイール、キックスターター、メガホンマフラー、メッキパーツや金属パーツなど、ビンテージムード溢れるアイテムを随所に投入。
全幅はGB500TTが60mm狭いが、全長やホイールベースはほぼ同寸。乾燥重量はGB500TTが9kg軽量だが、最小回転半径はSR500が0.4m小さいのが特徴。
SR500は1983年モデルまで、フロントディスクブレーキ、フロント19インチホイールを採用。1985年モデル以降は、クラシカルムードをさらに高めるべく、フロントブレーキをあえて油圧ディスク式からドラム式に変更。また、フロントホイール径も19インチから18インチに小径化された。
フレームは両車とも、セミダブルクレードルを採用。角張った17Lの大容量ガソリンタンクを装備したGB500に比べ、14L(~1983年モデルは12L)のティアドロップ型ガソリンタンクを採用したSR400は、乾燥重量は9kg重いが、外観的にはスリムなイメージ。
GB500はスポーティなシングル風シートを採用した1人乗り専用で、タンデムは不可。一方、SR500はタンデムシートやタンデムステップ、グリップバーも装備しており、ツーリング時などの積載性も極めて良好だ。
【ホンダGB500TT】
エンジン:空冷4ストロークSOHC単気筒4バルブ
排気量:498cc
ボア×ストローク:Φ92.0mm×75.0mm
圧縮比:8.9
最高出力:40PS/7,000rpm
最大トルク:4.2kgf-m/5,500rpm
燃料タンク容量:17L
変速機形式:5速リターン
始動方式:セルフ式/キック式併用
【ヤマハSR500(1999年の最終モデル)】
エンジン:空冷4ストロークSOHC単気筒2バルブ
排気量:499cc
ボア×ストローク:Φ87.0mm×84.0mm
圧縮比:8.3
最高出力:32PS/6,500rpm
最大トルク:3.7kgf-m/5,500rpm
燃料タンク容量:14L
変速機形式:5速リターン
始動方式:キック式
●デイトナのヤマハSR500改 カスタムメニュー
ベース車両:SR500(1997年式)
ボア×ストローク:Φ91.0mm×84mm
排気量:546cc
シリンダーヘッド:デイトナ製ハイポートヘッドキット(絶版)
シリンダー:デイトナ製(絶版)
ピストン:デイトナ製(絶版)
カムシャフト:デイトナ製ハイカムシャフト(絶版)
キャブレター:京浜FCRΦ41
マフラー:メガホンタイプ(試作)
タイヤ:F100/90-18 R120/90-18
ホイール:F1.85×18 R2.15×18