*本記事は2014年11月に執筆したものです
パリから北西に40kmほど行ったセルジー(Cergy)にヴァレオのパワートレーンのR&Dセンターがある。今回、パリ・モーターショーに先立って、ヴァレオの取材を行なった。取材相手のミシェル・フォリシエ博士に会うのは今回で3回目である。目的は、電動スーパーチャージャー(以下、電動SC)と48Vマイルド・ハイブリッド・システムである。
電動SCは文字通り12Vあるいは48Vで駆動するモーターを使った過給機だ。従来の機械式SCと違ってクランクから動力を取り出すこともないし、エンジン回転数にも依存しない。しかもレスポンスが非常に優れている。ターボのラグが1〜2秒あるのに対して電動SCは250〜350ミリ秒で作動する。だから、ダウンサイジング過給エンジンのラグ解消に効果的だ。......と思っていた。つまりターボにプラスしないと威力が発揮できないデバイスなのだ......と。
それについて博士に聞くと笑顔で答えた。
なるほど。博士に促されてテスト車に乗る。ダウンスピーディングのための電動SCの使い方の例だ。想像以上の効果を体感できた。高温の排ガスに対応する必要があるターボチャージャーと違って電動SCは、素材も構造もシンプル。ターボと比べてコストも低いという。
試乗後に質問を投げかけた。電動SCというアイデア自体は決して新しいものではない。それがいま、注目を集め実際に採用されようとしている。なぜなのですか?と。
「電動SCについては、自動車メーカーも長い間研究してきました。しかし、当時は高度な自動車の電気システムがまだなかったし、エネルギー回収システムもありませんでした。新しいバッテリーも電子制御システムもありませんでした。電動SCの実現には、きっかけがあります。ひとつがアイドルストップ機構の標準化。これでクルマの電気系システムのキャパシティが上がりました。それからバッテリーとエネルギー回収システムの進化。そしてダウンサイジングが本当にトレンドになってきたことです。ダウンサイジング過給の最大の問題はターボラグでした。ダウンサイジング、ダウンスピーディングというニーズが高まったことで、電動SCの可能性は大きく広がりました。130g/kmというCO2規制は従来技術を組み合わせればよかったのですが、今後はそれだけでは間に合いません。フルハイブリッドを使うことももちろん良いのですが、我々ヴァレオはそれ以外の代替案を提案したいのです」
ヴァレオの電動SC。市販化は間もなくだ。最初はドイツから。これはハイパフォーマンスカー向け(注:アウディSQ7で採用)。次はアジアから。これは燃費志向の使い方。これ以外にも日米中欧で19ものプログラムが進んでいるという。電動SCに今後も注目していく必要がありそうだ。