TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
晩秋が好きだ。紅葉を見上げれば、極彩色に染められた光が僕の目に届く。足元は落ち葉に埋め尽くされ、何十年も掛かって織り上げられたペルシャの絨毯のようである。冷たい風が吹くたびに落葉し、静止画のように見えていた景色が、秋だけは僕の息づかいと同じになる。
いつか撮りたいと思っている写真がある。晩秋、湖を埋め尽くす落ち葉。その湖面に舟を浮かべ、カメラを構える。静寂の中、僕は秋の鼓動と一体となりシャッターを切る。
そんな思いもあって数年前、僕はあるカヌー工房にいた。カナディアンカヌーを手作りするつもりだった。そこにはカヌーを作る教室もあり、カヌーのキットも数種類用意されていた。週末を利用して通って来る人達も多く、彼らの制作途中のカヌーも見ることができた。カヌー製作に掛かる30日から40日の工程が一目でわかり、丁重に説明もしていただいた。
その後、クルマや舟、飛行機にも精通した友人の許から、僕の所に、「クレッパー」というドイツ製の組み立て式のカヤック「ファルトボート」がやって来ることになる。船体に布を被せるカヤックだ。カヤックのロールスロイスと呼ばれているクレッパーは、長さが5mを超え、重さも組み上げると30kgでは済まないものだった。また、どうしてもエンジン付きのボートが欲しくなり、小さなゾディアックタイプのゴムボートを手に入れた。安定は抜群だが、エンジンを含めるとやはり40kgは超える。どちらもクルマへの載せ降ろしはひとりではかなり辛い重さだ。
この木製のカナディアンカヌーの重量は20kgにも満たない。ひとりでスズキジムニーのルーフに積める。組み立ても要らずあっという間に湖上へアクセス可能である。スズキ・ジムニーよりも船体は長いのだが、前後ともオーバーするのは30cm未満なので、法律で決まっている赤い布を装着する必要がない。ソフトトップの僕のジムニーはルーフキャリアも必要なく、直に搭載して固定できる。
このカナディアンカヌーは、1918年から続く木造を得意とする造船所が、1984年にカナディアンカヌーの製作を始めた際の、最初の1艇だ。材料も技術も最高のものがつぎ込まれているという。船体はしっかりしているので修復の必要はなく、艶を出すことにした。オーナーの歴史や舟のオリジナルを残しながら、1週間ほど掛けて、丁重に手を加えた。船体中央部にあるストライプも、控えめながら当時と同じように浮き出て見えていると思う。
1986年のスズキ・ジムニーに1984年のカナディアンカヌー。このカナディアンにサイドフロートを装着し、帆も新たに装着して猪苗代湖の縦断ができるかもしれない。
秋の夜長、ストーブに手をかざしながら夜な夜な構想を膨らませている。