PHOTO●神村 聖(KAMIMURA Satoshi)
まずはボディサイズを比べてみましょう。
ご覧の通り、3台ともほぼ同じような数値です。コンパクトに見える208の全長が最も長く、大きく流麗に見えるルーテシアは全長がポロと同じで短く、全幅に至っては最も狭いというのはデザインの妙技でしょうか?
いずれにせよ、それほど大きな違いというわけではなさそうですが、コンパクトカーでは10mmほどの差が取り回しに大きな影響を与える場合もありますから、やはり必ず試乗して、可能であればご自宅での車庫入れも試してみたいところです。
2000年代から10年代にかけて、クラスを問わずボディサイズが拡大し続けた時期がありましたが、今はそれも落ち着き、多くのBセグメント・ハッチバックは上記のサイズに収まっています。
例えばルーテシアなんて、先代比で全長が20mm、全幅が25mmもダウンサイジングされています。
いずれにせよ現代の多くのカスタマーにとって、これら3台のボディサイズがBセグメント・ハッチバックとして適正という認識なのでしょう。
次にインテリアを見てみましょう。こちらはモデルごとにブランドの個性が大きく表れていて、とても面白いですよ。
まずはルーテシアです。どうですかこの上質感! モデル末期まで欧州のセールストップを独走し続けたルーテシアにとって、ユーザーからの数少ない不満の声(と言うほどのものでもなく、実際には「強いて挙げるなら……」という程度のものだったらしいのですが)が、インテリアの質感に関するものだったそうです。
ですので新型ルーテシアの開発に当たってルノーが注力したのがインテリアのクオリティ向上でした。
……なんですけれど、実際に運転席につき、見て触ってみると「ちょっとやり過ぎなんじゃない?」って呆れてしまうほど。これ、完全にCセグメントを通り越してDセグメントに匹敵するクオリティです。
Bセグメントってね、ある種のチープシックな魅力っていうのもあったりするんですよね。でもルーテシアはガチです。言い訳無用です。本当にイイモノ感に溢れています。
ちょっと操作系についてもお話しておきましょう。まずルーテシアはイギリスでもたくさん売れていますので、右ハンドル車のペダルレイアウトが適正です。これは歴代ルーテシアの伝統でして、右側フロントホイールハウスの影響を受けやすいコンパクトカーなのに、ペダルのオフセットが一切ありません。
それと昨今のトレンドに則り、ダッシュボード中央のタッチパネルでさまざまな操作を行なえるのですが、頻繁に使うエアコンの操作系はしっかりダイヤル式です。前方から目をそらさず、ブラインドタッチで操作できる物理的スイッチを堅持したのは好印象です。
ステアリングコラムの右下から生えているオーディオ操作ユニットもルノーオーナーにはお馴染みですね。ステアリングから手を離さずに操作できるので、一度使ってしまったら手放せません。
さて次は208です。もうこちらは、「これぞフランス!」と快哉を叫びたくなるほどに前衛的です。
小径ステアリングを低めにセットし、立体的に虚像が浮かび上がるメーター類をステアリングの上から覗くという「3D i-Cockpit」は、ほかにはないプジョーならではの独特なもの。最初こそ違和感を覚えるかもしれませんが、慣れると妙にしっくりくるという不思議なドライビングポジションです。
シフトノブはこの3台中で208のみがバイワイヤ式のクリックタイプ(操作するごとにノブが元の位置に戻る。ほかの2台は「D」や「R」などの位置に固定されるコンベンショナルなタイプ)です。
考えてみれば、モーターサイクルなんて車種ごとにライディングポジションがまちまちで、それぞれの違いを楽しむのもまたバイクの魅力のひとつであるわけです。そう考えると、コクピットにまで個性を追い求めるプジョーのアグレッシブなアプローチには賛同したいですね。
そしてポロです。こちらはいかにもドイツ的と言いますか、取り立てて目立つところはないものの、カッチリキッチリと仕立てられていて、安心感がこの上なく高いです。地味と言えば地味ですが、安っぽさが微塵も感じられないのはさすがフォルクスワーゲンです。
さらに特筆すべきは、ドライバーの視点から隠れてしまうスイッチがほとんどないということです。ウインカーレバーなどはステアリングの裏にあるので本体が見えないのは当然ですが、ボタン式のスイッチをドライバーが見失うことはないでしょう。
そしてポロも、オーディオのボリュームやエアコンの温度調節などはダイヤル式を採用しています。
クルマにとくにプレミアム性やエンターテイメント性を求めていない方には、まさにポロこそ理想の選択肢です。
どんどん行きましょう。次はラゲッジスペースです。
ルーテシアのラゲッジスペース容量は先代比+61Lの391Lで、クラス最大です。
最も狭い部分の左右幅は960mm、5名乗車時の奥行きは710mm、6:4分割可倒式のリヤシートを倒したときの奥行きは1400mmです(いずれも編集部による実測値)。
208のラゲッジスペース容量は265Lです。
最も狭い部分の左右幅は1000mm、5名乗車時の奥行きは660mm、6:4分割可倒式のリヤシートを倒したときの奥行きは1280mmです(いずれも編集部による実測値)。
特筆すべきはBEV(100%電気自動車)のe-208でもまったく同じスペースを確保していること。「BEVでも我慢を強いられず、ガソリン車と対等に選べる」というプジョーの方針は徹底しています。
そしてポロのラゲッジスペース容量は351Lです。
最も狭い部分の左右幅は960mm、5名乗車時の奥行きは580mm、6:4分割可倒式(最廉価グレードのTSIトレンドラインには装備されない)のリヤシートを倒したときの奥行きは1430mmです(いずれも編集部による実測値)。
続いてクルマにとって要の存在とも言えるエンジンを見てみましょう。
ルーテシアは新開発の直列4気筒1.3Lターボで、最高出力131psと最大トルク240Nmを発生します。
注目すべきは、先代のルーテシアR.S.と同じ240Nmもの大トルクを、そのルーテシアR.S.よりも150rpm低い1600rpmで発生することです。1600rpmと言ったら、アイドリングから僅かにアクセルを踏んだくらいの低回転域です。これだけ見ても、ルーテシアの底知れぬ力強さが想像できるというものです。
組み合わせられる変速機は7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)です。ルノーではEDC(エフィシエント・デュアルクラッチ)と呼んでいます。
208が搭載するのは直列3気筒1.2Lターボで、最高出力100psと最大トルク205Nmを発生します。5年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞した名機です。
組み合わせられる変速機は8速ATです。このクラスで8速ものギヤを持つトランスミッションはかなり贅沢と言っていいでしょう。
ポロのエンジンラインナップは、最高出力95psと最大トルク175Nmを発生直列3気筒1.0Lターボと、最高出力150psと最大トルク250Nmを発生直列4気筒1.5Lターボの2本立て。
変速機はいずれも7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)となります。フォルクスワーゲンではDSG(ダイレクト・シフト・ギヤボックス)と呼んでいます。
まずはルーテシアで走り出します。最初に感じるのが、走り出しの力強さです。低回転域のトルクがかなり太いので、アクセルを強く踏み込むと、グワッと巨人に背中を押されるように加速します。7速DCTのマナーはどちらかというと滑らかさ重視で、街中でもショックを感じることはほとんどありません。
そして最もBセグメントらしからぬ頼もしさを感じたのが、高速道路のETCレーンでの再加速時です。止まりそうなくらいの速度まで落とした直後にすぐさま加速する、というのは、実は小排気量ターボ車が苦手とするシーンのひとつ。どうしても一呼吸置いてからの加速になってしまいがちなのですが、ルーテシアは豊かなトルクとDCTの巧みな制御によって、そんなタイムラグを発生させません。
静粛性の高さも見逃せません。明らかにCセグメントを越え、ふたクラス上のDセグメントのサルーンに乗っているかのようです。ねっとりと背中にフィットするシートの座り心地の良さもたまりません。
ルノー・ルーテシア インテンス
■全長×全幅×全高:4075mm×1725mm×1470mm
■ホイールベース:2585mm
■車重:1200kg
■エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
■排気量:1333cc
■圧縮比:9.6
■最高出力:131ps(96kW)/5000pm
■最大トルク:240Nm/1600rpm
■トランスミッション:7速DCT
■燃料タンク容量:42ℓ
■サスペンション:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトーションビーム
■駆動方式:FF
■タイヤサイズ:205/45R17
■燃費:WLTCモード 17.0km/ℓ
市街地モード12.7km/ℓ
郊外モード:17.2km/ℓ
高速道路:19.8km/ℓ
■車両本体価格:256万9000円
続いて208です。こちらも走り出しから落ち着き払った振る舞いを見せ、C~Dセグメント級の上質な走りを味わえます。ルーテシアも208もこれだけのクオリティを実現しているということは、つまりはこれが今後のBセグメントの基準になるということでしょうか。
この3台の中では唯一の3気筒エンジンですが、振動や音などにおいてネガティブな要素はまったく感じさせません。走り出しの力強さという点ではルーテシアに一歩譲りますが、そこはライバルよりも1段多い8速ATで見事にカバーし、ドライバビリティに不満は覚えません。
そしてなにより208の魅力は、ワインディングロードに持ち込んだときの快活なハンドリングです。それまでの大人っぽさがウソのように、いわゆるラテンのホットハッチらしい俊敏な身のこなしで、明らかに3気筒ならではの鼻先の軽さが活きています。i-Cockpitの小径ステアリングも貢献しているのかもしれません。
プジョー208 GT Line
■全長×全幅×全高:4095mm×1745mm×1465mm
■ホイールベース:2540mm
■車重:1170kg
■エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ
■排気量:1199cc
■圧縮比:10.5
■最高出力:100ps(74kW)/5500pm
■最大トルク:205Nm/1750rpm
■トランスミッション:8速AT
■燃料タンク容量:44ℓ
■サスペンション:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトーションビーム
■駆動方式:FF
■タイヤサイズ:205/45R17
■燃費:WLTCモード 17.0km/ℓ
市街地モード13.0km/ℓ
郊外モード:17.3km/ℓ
高速道路:19.3km/ℓ
■車両本体価格:293万円
最後にポロです。今回の試乗車は上位モデルのTSI R-Lineでして、スタンダードよりも最高出力が55psも高いエンジンを搭載していました。価格もルーテシアや208より40~80万円ほど高く、スペック面では有利だったことを考慮するべきでしょう。
ただし本記事での試乗では高回転域を多用するような走りはしていないため、最高出力の違いを顕著に感じる場面は実はそれほどなく、日常使いにおける加速の力強さでは最大トルクの近いルーテシアに似た感覚でした。
もちろんトップエンドまで引っ張るような攻めの走りを楽しむのであれば、ポロTSI R-Lineのアドバンテージは明らかになるでしょう。
最新のプラットフォームを持つフランス勢の2台と比べると、少し細かな振動が乗員に伝わりやすいかなという感じはしますが、問題になるほどのレベルではありません。
7速DCTはかつてのような唐突感もなく、それでいてダイレクト感に溢れ、さすがはDCTの先駆者だと唸らされます。
フォルクスワーゲン・ポロ TSI R-Line
■全長×全幅×全高:4075mm×1750mm×1450mm
■ホイールベース:2550mm
■車重:1210kg
■エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
■排気量:1497cc
■圧縮比:10.5
■最高出力:150ps(110kW)/5000-6000pm
■最大トルク:250Nm/1500-3500rpm
■トランスミッション:7速DCT
■燃料タンク容量:40ℓ
■サスペンション:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトレーリングアーム
■駆動方式:FF
■タイヤサイズ:215/45R17
■燃費:JC08モード 17.8km/ℓ
■車両本体価格:334万円
こうして3台を乗り比べてみると、確かにどれも甲乙付けがたい完成度なのですが、明らかにそれぞれキャラクターが異なっていることがわかります。
速さと快適性を高次元で両立させたルーテシア、上質感とフランス車らしいハンドリングが共存する208、力強さと安心感のポロ、といったところでしょうか。
また、かつてはADAS(先進運転支援技術)に関してはドイツ勢が頭ひとつ以上抜き出ていましたが、ここへきてフランス勢も一気に世界トップレベルに躍り出てきました。
いずれにせよ、この3台が世界のBセグメントを牽引する存在であることは間違いなく、運動パフォーマンス面でも装備面でも大きな欠点など見当たりません。
ということは、いささか乱暴な結論かもしれませんが、「デザインの好み」で選んでしまっても実は問題はないのかもしれません。
サイズやコストに大きな制限がありながら、走行性能にも居住空間にも高いレベルが要求され、世界的に激しいセールス競争が展開されているBセグメント・ハッチバックは、自動車という商品の中でも最もレベルの高い開発能力が要求されるカテゴリーと言っていいでしょう。
そんななかでも圧倒的な人気を誇るルーテシアと208とポロ。みなさんもじっくり比べて、できればちゃんと試乗もして、自分にぴったりの一台を選んでいただきたいものです。