ではW12にすればそれらが解決できるかといえば、その逆で、より難しさが増す印象である。通常のV12であれば、併進力/偶力ゼロ(振動ゼロではない)の直列6気筒を60度バンクで2丁掛けしているエンジンだけに、きわめてバランスのいいエンジンとして仕立てることができるが、W12ではそれらを望むことができない。見た目だけではなく、性質としてもなかなかトリッキーな性質といえる。
狭角V型エンジンには世代があり、当初は15度の角度で登場したが、のちに10.6度に改められている。バンク角を狭くすることでシリンダーヘッドの小型化をはじめ、バルブトレインおよび吸排気管の最適化を図ったのだろうか。VWからはなぜ狭くしたのかについての明確な主張はなく、「狭くしたけどシリンダー壁の厚さは充分に確保している。エンジン長も変わらない。ただしシリンダー裾部が干渉してしまうのでオフセットを12.5mmから22mmに増やして対策した」という結果だけが述べられている。
W12に用いられている狭角は、15度/12.5mmのタイプである。これを72度のバンクでV型配置している。したがって、等間隔点火のために12度のピンオフセットが設けられている。
▶︎ ワンサイクル720度 ÷ 12気筒 = 60度が等間隔点火
▶︎ 72度のバンク角 - 60度 = 12度のピンオフセット
また、先述のように片バンク内では15度の狭角配置であり、V12なら120度毎のクランクピン配置にも工夫が必要なことから、同一位相内のピン同士については21.833度のオフセットが設けられている。もう頭がこんがらがりそうだ。