それまでFRのライトウェイトオープンスポーツを作ったことがないマツダがチャレンジしたスポーツカーが「ロードスター」(海外でのモデル名「MX-5」)であり、1989年に彗星のごとく現れたMX-5は大成功を収めた。
それは世界的に見ても姿を消していたカテゴリーの現代流復活でもあった。
では、2020年に登場したMX-30は、どんなクルマなのか? プレス向けの公道試乗会が終わった直後の10月19日、オンラインで「MX-30を読み解く」ミーティングを開いた。参加者はジャーナリストの瀬在仁志さん、世良耕太さん、そしてモーターファン.jp編集部の鈴木慎一編集長と生江凪子の4名。生江以外は試乗会に参加し、MX-30の取材・試乗を行なっている。
生江:たぶん、ドアを閉めちゃって、普通にガワだけを撮っていたら、デザイン的なものは魂動だから単にCX-30とかCX-5とかと一緒じゃないですか。だから、たぶんドアを開いて見せるしかなくて、ドアを全開にして横っ面から見ると、今度はなんだか不思議なデザインなんだけど上品すぎる気がして「これ……なんすかね」と。ちょっと、どう反応していいのかわからなくなってしまうのよ。
と言ったところで、世良さんが写真を見せる。
生江:そうそう、コレコレ。なんか、妙に上品にまとまりすぎていて、これクルマなの? みたいな感じになっちゃう。なんでだろう。反対にアウディの映像を見たんだけど、電気自動車かな、観音開きのクルマがFBに上がってたのよ(編集部註:アウディのコンセプトカー「AI:ME」のこと)。バッカーーーンってドアが開いて、「お、これも観音開き」と思いながら見ていたんだけど、ハンドルがニョーンって出てきたりカッコいいなと思ったのよ。見せかたもうまいのかな。だから、観音開きにアレルギーを起こして、MX-30に惹かれていないわけじゃないんだな、と。なにかが違うんだよね、写真? ちょっと上手く言えない。
鈴木:「フリースタイルドア」ね。
生江:「観音開き」違うのね。
世良:うん、それ、昭和だね(笑)。
生江:失礼しました。そんな感じです。
鈴木:要するにマツダブランドの幅を拡げるっていうのは、いい狙いだと思うんだけど、たとえば、生江さんみたいなタイプだと、ファッションでももっと未来感がほしいってこと?
生江:そうね、なんだろう。どの方向に幅を拡げているのかが私にはちょっとわかっていないんです。たとえばフリースタイルドアだったら、すでにRX-8でやっているじゃないですか。そういうことを考えると、もっと違うことをしてくれるじゃないかと思っていたの。その新しいことっていうと、それこそほんとに座席が違うとか座りかたが、とか3座で運転席が真ん中とか。それくらいの突拍子のないくらい、すごく「えっ! マツダ、こんなことしてきたんだ」みたいな感じのことをしてくるかと思ったら、ある意味、あのフリースタイルドアだけにすごく縛られているような感じがしちゃったかな、私は。
世良:RX-8のときのフリースタイルドアは、「理詰めのフリースタイルドア」だったじゃない? 大人4人をあの小さな車体の中にパッケージするために採用したんだけど、MX-30の場合は、普通のドアじゃ普通に見えちゃうから、なにか奇を衒ったところがほしいんで、フリースタイルドアを採用しましたってことなので、出自が違うんだよ。だから刺さらないとかもしれない。
生江:そうかもしれない。なにか別にいいじゃん、だったら普通のドアでって思っちゃうわけじゃない? 必然性がないんで。
鈴木:でも新奇性を出すためにフリースタイルドアにしたわけです。ロジカルにしたわけじゃないっていう。今回のMX-30は論理的であることより、要するに直感的だったり、感性的なクルマなんだと思うんだけど……瀬在さん、どうですかね?
瀬在:いまの話でいうと、フリースタイルドアの採用でデザインの自由度が上がったって説明していましたよね。でも生江さんの話を聞くにつけ、まぁデザインは後からついてきたというか。ちょっと無理してるなっていうのは、言うとおりかもしれないですね。もしこのスタイリングを優先するんだったら、もっと突飛というかもうちょっといいスタイルもあるだろし、ドアをこのスタイルにするんだったら、RX-8のほうがまだ乗り降りしやすかったかな、とちょっと感じた。あれなら大きな2ドアのほうがかっこよかったかな、という気もします。
鈴木:ああいうカタチで2ドアっていうと、ルノーのアヴァンタイムだったっけ? ありましたよね。
鈴木:キーワードとしては「感性」だとか「非論理性」とかみたいな話だと思います。今回、僕がなかなか腑に落ちなかったのは、もともとEVだって言われていたものにエンジンが積まれていたから。さっきのフィーリングで選んでほしいとか、マツダがいままであまりにも理系寄りなPRをしてきたじゃない? SKYACTIV-Xだとか、ディゼールの圧縮比が14.0だとか、ね。それをずっとやり続けたから、そうじゃない方に走ってるんだと思う。そうすると、エンジンが普通の2.0ℓのガソリンにちょこっとアシストするM-HYBRIDが付いているっているのが、しばらくして腑に落ちた。MX-30にSKYACTIV-Xを載せちゃうと、またロジカルな世界に引っぱられちゃう。またXの説明をしなくてはいけなくなっちゃう。Xの説明をし始めちゃうと、それがあまりにも難しくて長いから、結局そのフィーリングの話に至らないまま、ほぼXの説明で終わっちゃう。だから2.0ℓのガソリンなんだ。もちろん価格のこともあるんだろうけど。
瀬在:うーん。まぁ最初に言いましたが、やはり手詰まり感があって、そのなかでデザインからパッケージング、そこにあるひとつの新しい指針を作ったのはすごくよかったと思います。エンジニアと話をしたのですが、マツダが言うほど際立ったところがないですね。全体としてとてもよくできています。でも、とくにマツダの場合、いまXの話がありましたが、エンジンがね、私には物足りないんですよ。だから、このMX-30は、未来形のクルマであるんだったら、EVからドンと出てくるものだと思ってたし、せめて同じタイミングで「EV、こんなのあります」って見せてほしかった。エンジンに引っぱられてなおかつエンジンはマイルドハイブリッドの範囲でちょっと、ハードウェア的には物足りないのが一番の問題で、MX=電気であってほしかったな。乗った印象ですが、そのエンジンの部分を充分に補足、がさついた感じとか加速発進初期のノイズ振動、パワー感っていうのはすべてほぼ粗さを削ったという程度なんですが、進化していると思います。マイルドハイブリッドの要素はそれなりには実感できました。でも、このデザイン、使い勝手、いろんなことを主張するほどのパワートレーンではないから、やや物足りないというのがいまのところの私の結論。
世良:うーん、やっぱり新技術を入れちゃうと技術に引きずられちゃうんで、今回のMX-30は、まぁそれはそれでよかったのかな。ただやっぱり、とくに日本に向けてだけなのかな、EVを先にモーターショーで出したので、EVっていう記号性も含めてファッションなのかなと思っていたので、それはちょっと残念。やっぱりガソリン2.0ℓだと、EVと比べると価格は安いんだけど走りも少し安っぽいじゃないですか。そこは気にしないで買う商品なのかもしれないけど。でもクルマの心臓部なので、そこはひとつあってもよかったかなと思います。
鈴木:ターゲットユーザーが「カップルで、いまはいないけど、将来子どもを持つかも」みたいな人っていうと相当狭いじゃない?
世良:フリースタイルドアって、これ、後席に乗せないで、こうやって開けて自分のパソコンを入れたバッグをぽんと置くとか、そういう使い方をするのにいいでしょっていうならいいんだけど、「ベビーカーがアクセスしやすいんですよ!」って言われた途端に醒めちゃう。マツダがそういう説明するからさ。「いや、そういう使い方じゃないんじゃない」って思ったんだけど。なんかズレてるかな。
鈴木:ベビーカーを入れるだったら、普通の4ドアでいいじゃんって話になっちゃうもんね。MX-30である必要がない。これからそのあたりをすごく考えてPRをしていくんだと思う。
世良:間口を拡げ過ぎ。ターゲットをあれもこれもみたいな。そこはもう捨ててしまっていいと思うんだけど……。
鈴木:MX-30って昔のシルビア、セリカ、プレリュード乗っていたようなタイプの人でしょ。FFでもFRでもいいし、カッコいいから買うっていう人。そこでセリカ乗る人に「セリカにベビーカー乗りますから」って誰も言わない。
世良:言わないし、ベビーカーを乗せたい人は別に買ってからあとで苦労すればいいだけの話だと思うんだ。
鈴木:だからマツダは、すごくロジカルなところから脱しようと思ってMX-30を作ってみたんだけど、やっぱりロジカルに考えちゃう(笑)。
世良:まぁまぁ癖は抜けないだろうね。
鈴木:さっきのパワートレーンの話をすると、僕はロータリーエンジンを使ったレンジエクステンダーが出てくると思っていたし、期待していた。あれが出てくるのは22年の前半でしょ。先日丸本社長がそう言っていたから。22年前半っていうのは、今回のコロナ禍の影響とか遅れてそうなってしまうのかと思ったら、そうじゃない、それがもともとも予定どおりだって言うんだ。それで僕は余計混乱してしまったわけ。ロータリーのレンジエクステンダーはMX-30のデビューに合わせるんじゃなかったのか、と。EVは日本では売れないからいいけど、MX-30にロータリーのレンジエクステンダーが載っていれば、すごくしっくりした気がするんだよね。生江さんはちょっと違うけれどどこまでいっても、我々の3人はきっとすごくロジカルに考えてクルマを買っちゃうタイプ。でも、クルマってきっとそういうふうには買わないじゃないかな。ほしいクルマがあったら3ヵ月4ヵ月悩んで買うというよりは、「これが欲しい!」ってディーラー行って値段交渉して、ポンとはんこ捺しちゃうみたいな。だけど、我々はクルマを買わないでロジカルに考え続けるから、またズレちゃうのかもしれない。
鈴木:そもそもこのクルマを読み解こうみたいなことを言っている時点でロジカルな行為なので(笑)、ここに女性誌編集部の女性編集部員に来てもらって、「MX-30、カッコいい、かっこ悪い?」って話をするのが正しい姿なのかもしれないけどね。
瀬在:コンセプトはいいと思うんですよ。ただそこまでホントに目を惹くデザインかな。既存のシャシーを使ったり既存のユニットを使ってるっていうところで、マツダが言うほど、魅力的なものには仕上がっていないかな。むしろロジカルに、私なりの評価でハンドリングがどうとかという走りで斬ったほうが私はこのクルマはわかりやすかったです。簡単に言うと、コンセプト云々以前にマツダのクルマが日に日に良くなっている。やっぱりMAZDA3では硬い、CX-30ではちょっと緩い、そのなかから進化してMX-30の脚ができた。私はハードウェアとして斬ったときにはMX-30の価値はあると思う。使う側のこちらの評価軸ですけど、マツダがいうほどいろんな使い勝手がいいわけじゃない。いろんな意味で、中途半場なんで、ここはあえてマツダの主張とは違うけれどマツダの良さを「掘り下げる」という方が大事なんじゃないかな。
鈴木:「拡げる」ではなくて「掘り下げる」ですか。
瀬在:本当は別の方向へ向きたいんでしょうけど、私は掘り下げていく方向なのかな、と。で、そのときにそのあと、EV化とか、レンジエクステンダーが出てきたときに足場をしっかりと確保したうえで、新しい試み、そのときようやく真価が問われるというか。というふうに思います。
鈴木:マツダはプレミアム路線にいっているじゃないですか。普通の自動車メーカーではなくて、数は追わないけれど、ちょっといいクルマでありたい。アウディみたいになりたんだろうな、というふうに僕は思っています。アウディも1980年代は全然プレミアムでもなんでもなくて、メルセデスとアウディって並び立つものじゃなかった。アウディは90年代にモータースポーツも含めてすごくがんばった。そのときにアウディのブランドの幅を拡げたのは「TT」かなって思う。TTって登場したときみんなびっくりしたじゃない。スタイルも。でもハードウェアはVWゴルフとそんなに違うわけじゃないんだけど。あれもアウディブランドの幅を拡げたんだと思う。マツダがMX-30でやりたかったのはああいうことなのかな、って思った。まだ、ああはなっていない気がするよね。
瀬在:アウディTTほど大胆さがないね。もうちょっと大胆な試みが必要かも。まぁいっぽうでロードスターとか海外でロードスターがMXってカタチで別の個性をしっかりした基軸を作っているわけですから、それにならってMXシリーズを評価する方がいいんですかね、そうなると。ロードスター(MX-5)とセットという言い方は変ですけど。ただ、ロードスターほど斬新がないのと、言葉遊びになってしまっているところがやや気がかり。
世良:まぁだから、話を聞いたら開発はCX-30よりもMX-30の方が先に始まってたというのだけど、当然CX-30のことは意識しているはず。で、いまのマツダのメインストリームをちょっと否定しなければいけないという方向に意識が振り向けられていて、そこで終わってしまっていて、新しい価値があまり乗っていない。新しいTTみたいな、ちょっと遊び心もまだ足りていないような気がするし、だから、ただのいまのメインストリーム否定で終わっている気がする。
鈴木:前に世良さんが教えてくれたMXシリーズのヒストリーを見ると、マツダのMXシリーズってかなりぶっ飛んだことをずっとやっているんだよね。商品になっていないものはね。なったものはMX-5ミアータ以外成功していない。ほかのは結構新しいデザインだったり、トライをしている。これが市販車になるとMX-6だっけ、V6を積んだクルマ。MXシリーズって成功してないんだよ、ミアータ以外は。
世良:だからマツダは遊ぶのが下手なんじゃないの(笑)。
鈴木:遊び方を知らないのかな。
世良:もうちょっと遊ばないといけないんじゃない? だからこうやってMX-30を出すことはいいじゃない? 遊び続けているとその次はよくなっていくんじゃないかな。
鈴木:そうだね。これ一台で、成功失敗というよりは……。
世良:いままで遊んだことがない人が、ちょっと弾けてみましたって。初めて弾けた人ってちょっとちぐはぐなところがあるじゃない。