正式発表(10月15日)までカウントダウンとなったスバル新型レヴォーグ。JARI(日本自動車研究所)での限られた条件での試乗でも、その走りが大きく進化していることは確認できた。SDA(スバル・ドライビング・アカデミー)の「走れるエンジニア」の存在が重要な役割を担った。


TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO◎山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/SUBARU

ステアリングホイールの形状もSDAのメンバーの意見が反映されているという。

全車速追従機能付クルーズコントロールなどの先進運転支援システムをオンにしている状態でステアリングから手を離すと「ハンドルを操作してください」とドライバー通知が出る。ドライバーがステアリングを握っているか握っていないかを判断するのは従来、ステアリングトルクだった。ドライバーがステアリングにトルクを与えているか、与えていないか(ステアリングを能動的に動かしているか、動かしていないか)で、握っているか、握っていないかを判断していた。




新型レヴォーグでは、握っているか、握っていないかではなく、触れているか、触れていないかで判断するようにした。ステアリングトルクによるセンシングから、タッチセンサーに切り換えたのである。だから、グリップをしっかり握らず、手を添えているだけでよくなった。もちろん、ズルを許容するためではない。ステアリングの形状を変えたからだ。




「新型レヴォーグの開発では、スバルドライビングアカデミーのメンバーに入ってもらいました。ちゃんと走れる人に評価してもらい、その意見を聞き入れて開発したのです」




性能開発を担当したエンジニアはこう説明する。スバルドライビングアカデミー(SDA)とは、開発に携わるエンジニアのドライビングスキルと評価能力を高め、「走れるエンジニア」を育成するプログラムだ。開発は開発、評価はテストドライバーと役割をわけるのではなく、開発に携わるメンバーが自らテストドライブを行なって評価する。




「自分が走れる以上の能力を持ったクルマは開発できません。今回のレヴォーグの開発では、SDAメンバーに結構入ってもらいました。私もそのひとりです。現在はインストラクターですが(つまり、指導する立場)」

従来はしっかり握らないといけないステアリングだったが、新型では押さえる感じのステアリングにしたという。

ステアリングは断面形状を変更した。これはSDAのメンバーがもたらした意見が反映されているという。




「従来はしっかり握らないといけないステアリングだったのですが、新型では押さえる感じのステアリングにしました。断面形状は全然違います。どこを押さえても操作できるステアリングにしています。SDAのメンバーからいろんな話を聞いた結果、ステアリングを操作するうえでは握らないほうがリラックスできるとの意見にまとまりました。(グリップ部を)握ると、肩に力が入ってしまいます。的確に操作できる意味からも、押さえて操作できる形状としました。だから、タッチセンサーに変えたのです。握らなくても押さえていれば、ステアリングを持っていると認識してくれるからです」

電動パワーステアリングは、デュアルピニオンタイプを採用。サプライヤーは日立オートモティブ。

デュアルピニオンタイプは、トルクセンサーとアシストモーターを分離できるので、より滑らかなステアフィールを実現できる。現行型は1ピニオンタイプだった。
これがアシストモーター。

走れるエンジニアが「このほうがいい」と判断した新断面形状のステアリングが、新型レヴォーグに採用されている。そのステアリングを切り込むと、とても感触がいいし、しっかりしている。その理由のひとつは、電動パワーステアリング(EPS)のタイプを変更したことだ。従来はピニオン式(1ピニオン式)のEPSを採用していたが、新型レヴォーグは2ピニオン式に変更した。2ピニオン式にするとステアリング操作軸とモーターアシスト軸を切り離すことができて操舵時のフリクションが減り、リニアにトルクを伝達することができて応答性が高くなる。

ストラット式のフロントサスペンションは形式こそ現行モデルと同じだが、マスオフセットを前型比で約15%減らしている。

「マスオフセットに関しては設計者がこだわり、ミリ単位で追いやりました」とスバル開発陣は語った。

もうひとつの理由は、フロントサスペンションを見直したことだ。ストラット式のレイアウトに変更はないが、ホイールセンターとキングピン軸のオフセット(マスオフセット)を前型比で約15%減らしたのが大きい。マスオフセットが大きいと転舵軸とタイヤが遠いので、路面外乱で舵が乱されやすい。それに対し、マフオフセットが小さいと、転舵軸とタイヤが近いため、路面外乱で舵が乱されにくくなる。




「マスオフセットに関しては設計者がこだわり、ミリ単位で追いやりました。こだわって開発しただけの成果はあり、剛性が出て、素直なフィーリングになっています」

新型のシートは「面」で支えるコンセプトになった。

新型は長時間座っていても腰が痛くならない形状になっているという。

「自分の会社の悪口を言っては怒られてしまいますが、従来のシートはいまひとつ納得がいっていませんでした。点で体を押さえていたこともあって、腰が痛くなったりしました。ホールド性にも欠けていました。今回はSDAのメンバーを入れ、どういうシートがいいのか評価してもらい、彼らの評価を聞き入れました。シート屋さんだけが開発すると、扱う車速が低すぎてしまいます。きちんと走れる人が評価することで、ホールド性が高く、疲れないシートとしました。新型レヴォーグのシートは面で押さえます。今までは肩で押さえていましたが、今度は脇も押さえる形状にし、座面は骨盤が転ばないようにしています」




大きな旋回Gが発生するスポーツ走行時のホールド性を重視したことになるが、座った瞬間に圧迫感を感じるような設計になっていないことは、実際にテストコースで乗り込んで確かめた。着座した際の印象は前型とさほど変わらず、ホールド性の良さは旋回時に実感できる。長時間ドライブした際の印象については、公道に持ち出せるタイミングを待って確認することにしたい。

スバル初の電子制御ダンパーをSTI Sportは採用。ダンパーはZF(ザックス)製である。

最上級グレードのSTI Sportはスバル初の電子制御ダンパーを採用しているのが特徴だ。このダンパーの適合もSDAの働きが大きいという。




「日本では(一部区間で試行されている)120km/hまでしか試すことができません。その先の速度域まで確認して初めて、その領域でのいい操安性や、いい乗り心地が実現できます。そのため、(速度無制限区間のある)ドイツまで出向いて適合しました」




高いレベルの走行領域まで自ら持ち込み、体感することで、日常域で安心して気持ち良く走れるクルマを作ることができる。新型レヴォーグの開発において、スバルが力を入れて育成を進める「走れるエンジニア」が果たした役割は大きい。

スバル・レヴォーグ STI Sport EX




■ボディサイズ


全長×全幅×全高:4755×1795×1500mm


ホイールベース:2670mm


車両重量:1580kg


乗車定員:5名


最小回転半径:5.5m


燃料タンク容量:63L




■エンジン


型式:CB18


形式:水平対向4気筒DOHCターボ


排気量:1795cc


ボア×ストローク:80.6×88.0mm


圧縮比:10.4


最高出力:177ps(130kW)/5200-5600rpm


最大トルク:300Nm/1600-3600rpm


燃料供給方式:筒内直接噴射


使用燃料:無鉛レギュラーガソリン




■駆動系


トランスミッション:CVT


駆動方式:フロントエンジン+オールホイールドライブ




■シャシー系


サスペンション形式:FマクファーソンストラットRダブルウィッシュボーン


ブレーキ:FベンチレーテッドディスクRベンチレーテッドディスク


タイヤサイズ:225/45R18




■燃費


WLTCモード:13.6km/ℓ(社内測定値)


JC08モード:16.5km/ℓ(社内測定値)




※数値はすべてプロトタイプのもの。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 スバル新型レヴォーグ:走れるエンジニア(SDA)が開発する「ディテール(細部)」の仕上げが、走りに表れる。ステアリングホイール、サスペンション、そしてシート。