TEXT●藤島知子(FUJISHIMA Tomoko)
クルマは目的に応じたシチュエーションで使うことで本来の魅力を発揮するものなので、多彩なジャンルから最高だと思う3台を選ぶのは悩ましい。そこで、今回はそのクルマの存在を通じて、人生観を変えてしまいそうな意義深い3台を選ぶことにした。
第3位はトヨタ ランドクルーザー。道なき道を走り抜けるタフなオフローダーとして、今なお世界の僻地で活躍している70系。日本では1984年に発売を開始し、2004年で販売終了となっていたが、海外向けの生産はその後も続けられていた。
70系の誕生から30年を迎えた2014年から2015年の期間、ファンの熱い要望に応える形で、記念復活モデルが日本で新車として発売されるというイレギュラーな企画が実現した。頑強なフレーム構造、リジッド式のサスペンションは悪路をものともせずに走破し、厳しい環境下における移動手段としては、まさに命を運ぶ存在。世界に出回るロングセラーモデルだけに、いまなお修理をしながら活躍する個体は多い。海外でも修理する際のパーツが手に入りやすく、メンテナンス性に優れる点で厚い信頼が寄せられているそうだ。
第2位の『マツダ ロードスター』は、私自身、3代目と4代目のナンバー付きのレース仕様車を実際に所有した。ドラテクのスキルアップにレース参戦、各地のミーティングに参加したりと、一台のクルマで多彩な楽しみが得られることを教えてくれた。
魅力の一つは、クルマと一体感を得ながら軽快に走れるFRのライトウエイトスポーツカーであること。今となっては貴重な後輪駆動は素直なハンドリングが特徴で、自分の操作に対してクルマの挙動がどう影響するかが分かりやすく、ドラテクを磨くのに最適な一台といえた。重量が軽くタイヤなどの摩耗が抑えられたりするあたりも、ランニングコストを抑えやすく、心置きなく走りを満喫することができた。
2つめの魅力は2シーターのオープンカーであること。景色のいい場所で幌を開け放てば、爽快な気分でドライブが楽しめる。自分自身を高めたり、溜め込んだストレスをリセットしてくれたりと、自分に寄り添ってくれる相棒といえた。
そして、第1位はホンダ『NSX』。バブル絶頂期に開発され、1990年に登場した初代NSXはオールアルミボディ、2シーター、V6 3LのVTECエンジンをリヤミッドに搭載したスーパースポーツモデル。
中でも1992年に追加された『NSX TYPE-R』は、数十項目にわたって120kgの軽量化を施し、レーシングカーのチューニング理論が惜しげもなく織り込まれた日本の自動車史に名を残すストイックな存在だ。F1で世界を熱狂させたホンダが持ちうる最先端技術を駆使して生み出された珠玉の一台は、いま振り返ってみてもその栄光の歴史を彷彿とさせて、あまりに眩しい。
そんなNSXが登場して30年を迎える2020年。ホンダはF1復帰で優勝を飾るなど、新たな歴史を刻んでいる。今後、ホンダブランドを象徴するようなモデルが登場しないかと待ち望んでしまうのは、私だけだろうか。
【近況報告】
最近の新型車はSUVのオンパレード。「このクルマでキャンプに出掛けたい!」と妄想するものの、取材やレースに行き来する私がこれまで所有した9台中8台は2ドア車だと、今ごろ気づいてみたり。SUVを購入できる日はいつになることやら(笑)。
【プロフィール】
幼い頃からのクルマ好きが高じて、2002年からレースデビューと執筆活動を同時にスタート。2020年は女性ドライバーが競い合うKYOJOカップに参戦する。走り好き目線、女性目線の両方向からクルマの魅力をレポートしている。テレビ神奈川の新車情報番組『クルマでいこう!』は出演13年目。日本自動車ジャーナリスト協会会員。2020-2021 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。