サーキットを前提に開発されたリッタースーパースポーツを、ストリートで使ったら、ある程度の不満が感じるのは当然のこと。事実、R1Mの各部をツーリングライダー目線でじっくり検証してみると、意外に多くの不満が出て来たのだった……。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

近年のリッタースーパースポーツ界では、MotoGPの技術を転用したウイングレットが流行している。その先鞭を付けたのはドゥカティとアプリリアで、2020年からはホンダも導入しているのだが、ヤマハはあえて採用せず。

個人的には★×4をつけたいものの、シート高が860mmもあるR1Mのライポジは、やっぱり日常域に向いているとは言い難い。ちなみに現時点での僕が、リッタースーパースポーツの中では日常的に使えるほう……と考えているのは、シート高が824mmのBMW S1000RRと、825mmのスズキGSX-R1000R。なおR1Mのリアショックには車高調整機能が備わっていないものの、フォークの突き出し量を減らしたり、リアのプリロードを抜いたりすれば、多少は親しみやすくなると思う。

ハンドリングが露骨に悪くなるわけではない。でもタンデムライダーの富樫カメラマンが、走行中にやたらと僕の背中にプレッシャーをかけてくるので、不思議に思ってその理由を聞いてみると、以下の答えが返って来た。「シートの座り心地、落ち着きもよくないけど、それ以上に問題なるのはタンデムステップ。位置が中途半端だから、加速にも減速にも踏ん張りが利かないんだよ。このタンデムシートとステップは、エマージェンシー用って考えたほうがいいだろうね」

前回のこの企画で取り上げたCBR1000RR-R SPが、予想以上の手強さを発揮したのに対して、R1Mの押し引きで感じる重さは、現代のリッタースーパースポーツとしては平均的。実はこの原稿を書くまでは、ドライカーボン製カウルとアルミ製ガソリンタンクを採用するR1Mは、スタンダードより軽いのかも?と思っていたが、R1Mの装備重量は、スタンダードより1kg重い202kgだった。

コクピットの雰囲気は2015年型から不変。YZR-M1に通じる肉抜きが施されたトップブリッジと、フルカラー4.2インチTFT液晶モニターは、数年前は斬新に思えたものの、今となってはオーソドックスで新鮮味に欠ける気がしないでもない。ハンドルグリップ位置は低いけれど、絞り角とタレ角は至ってナチュラルだから、この種のバイクの経験が豊富なライダーならすぐに馴染めるはず。

電子制御式スロットルの構造は変更されているが、左右スイッチボックスの基本構成は2015年型から不変。第一回目で述べた通り、右側のホイールスイッチと左側のウインカースイッチを操作する際の親指の移動量の多さと、いまだに手動キャンセル式のウインカーは、個人的には残念だった。
2004年からの10年間がブレンボ製だったのに対して、2015年以降のYZF-R1/Mのフロントブレーキマスターは、一貫してニッシンのラジアル。なお日本製ブレーキにこだわりを見せるヤマハに対して、近年のホンダ/スズキ/カワサキのリッタースーパースポーツは、ブレンボの普及が進んでいる。

ライディングポジション関連部品で印象的だったのは、フィット感がすこぶる良好で、着座位置の自由度が高いこと。右側ステップのリアマスターシリンダー取り付けボルトからは、左右幅をできるだけ狭くしたうえで、突起物を作らないという、開発陣の執念を感じる。シートに快適性重視の気配はないものの、ステップとのバランスが良好だからか、長距離を走っても尻の痛みは感じなかった。なお左タンデムステップ基部に備わるヘルメットホルダーは、日本仕様ならではの装備。

積載性は絶望的で、CBR1000RR-R/SPのような純正アクセサリー、独創的な手法で装着するシート/タンクバッグもナシ。タンデムシートにベルトを巻き付けるタイプのシートバッグは使えるけれど、荷物の安定は悪そう。ただしネットで検索すると、2020年型とほぼ同条件の2015~2019年型で、シートバッグやサイドバッグを装着している実例がいくつか出て来る。ETCに関しては、カウル内に装着するライダーが多いようだ。

約1ヶ月前に乗ったCBR1000RR-R SPが、あまりにも強力かつ扱いやすかったためか、R1Mのブレーキには何となく好感が持てなかった。僕が気になったのは、フロントブレーキの初期タッチの曖昧さ。ブレーキングポイントが決まっているサーキットなら、この要素は問題にならないのかもしれないが、不測の事態だらけの一般公道では、いまひとつ信頼感は抱けず。フロントキャリパーはヤマハならではのアドヴィクスで、リアはニッシン。ディスク径は、F:320mm、R:220mm。

前後ショックはオーリンズNPX30/TTX36。セミアクティブ式にはT1/T2/R1の3種、マニュアル調整式にはM1/M2/M3の3種の基本設定が存在し、僕はほとんどの場面で、最もストリート指向でダンパーが弱いR1を選択。その状態での乗り心地はなかなか良好だったものの、もしかしたら前述したフロントブレーキの曖昧さは、R1が原因かもしれない。なおエンジンモードは、峠道では2、それ以外の場面では3と4を使用。レスポンスがシャープすぎる1は、一般公道では扱いづらかった。

車載工具はL型六角棒レンチ×2のみ。収納袋は存在せず、テールカウル内の穴に差し込む形で固定する(積載性の写真を参照のこと)。なお近年のリッタースーパースポーツ界では車載工具の簡素化が進行中で、CBR1000RR-R SPとGSX-R1000RもYZF-R1/Mと同じ内容。ただし、カワサキZX-10R/RRは現行モデルでも、7種9点のツールを搭載している。

世間では燃費が悪いという噂がある近年のYZF-R1/M。もっとも燃費は条件で変わるので、安易な発言はできないのだが、CBR1000RR-R SPのトータル燃費が16.36km/Lだったのに対して、YZF-R1Mは14.6km/L。カタログのWMTCモード値を調べると、CBRは16、R1Mは15.2だった(GSX-R1000Rは16.6で、ZX-10Rは16.8)。とはいえ、よほどムチャクチャな走りをしない限り、200km以上は普通に走れるので、ツーリングで航続距離に不満を感じることはないと思う。

2014年以前はミシュランがメインで、2015年にはピレリとブリヂストンを併用したけれど、近年のYZF-R1/Mの純正指定タイヤはブリヂストンのみ。2020年型は同社の最新ハイグリップタイヤとなるRS11を採用。

車名:YZF-R1M


型式:8BL-RN65J


全長×全幅×全高:2055mm×690mm×1165mm


軸間距離:1405mm


最低地上高:130mm


シート高:860mm


キャスター/トレール:24°/102mm


エンジン種類/弁方式:水冷4ストローク並列4気筒/DOHC 4バルブ


総排気量:997cc


内径×行程:79.0mm×50.9mm


圧縮比:13.0:1


最高出力:147kW(200PS)/13500rpm


最大トルク:113N・m(11.5kgf・m)/11500rpm


始動方式:セルフスターター


点火方式:バッテリー&コイル(フルトランジスタ点火)


潤滑方式:ウェットサンプ


燃料供給方式:フューエルインジェクション


トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン


クラッチ形式:湿式多板


ギヤ・レシオ


 1速:2.600


 2速:2.176


 3速:1.842


 4速:1.478


 5速:1.578


 6速:1.250


1・2次減速比:1.634・2.562


フレーム形式:ダイヤモンド


懸架方式前:テレスコピック倒立式 オーリンズNPX Smart EC


懸架方式後:スイングアーム オーリンズTTX36 Smart EC


タイヤサイズ前後:120/70ZR17 200/55ZR17


ホイールサイズ前後:3.50×17 6.00×17


ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク


ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク


最小回転半径:3.8m


車両重量:202kg


使用燃料:無鉛プレミアムガソリン


燃料タンク容量:17L


乗車定員:2名


燃料消費率国交省届出値:21.6km/L(2名乗車時)


燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:15.2km/L(1名乗車時)
情報提供元: MotorFan
記事名:「 ツーリングライダー目線で感じた、ヤマハYZF-R1M の美点と欠点。┃1000kmガチ試乗③