REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro)
PHOTO●星野耕作(HOSHINO Kousaku)/山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
ホンダと言えば直4。CB750 FOUR以来、その性能とパワーと存在感で世界のバイク業界をリードしてきた直4エンジンこそホンダの魂と言える。その後の進化は言わずもがな。先頃発表されたCB-Fコンセプトとその元祖CB750Fや、プロジェクトBIG1から始まる現行CB1300/1100シリーズしかり、そして最先端のCBR1000RR-Rも含め直4エンジンがホンダの屋台骨であることに異論の余地はないはず。その中で、最大公約数のライダーが安心して直4エンジンの醍醐味を楽しめる中量クラスのスタンダードモデルが「CB650R」なのだ。
CBR650Rのルーツは1980年代に登場した欧州向けのオールラウンドスポーツCBR600Fである。そこからサーキット性能重視で進化したCBR600RRはすでに生産終了となってしまったが、一方で排気量を拡大しつつストリートでの扱いやすさや使い勝手の良さにフォーカスしたのが先代CBR650Fとネイキッド版のCB650Fである。
その最新版であるCB650Rはスタイリングが一新され、兄貴分であるCB1000Rや弟分であるCB250RやCB125Rなどシリーズ共通とした“ネオスポーツカフェ”デザインを採用しているのが特徴だ。また、このマシンの素性を解き明かす上で、従来型からネーミングが変わったことが大きなヒントとなっている。日常使いもできる万能型を表す「F」からよりスポーツ志向の「R」へと語尾が改名されたのだ。
スペック的にも伝統の水冷直4エンジンは先代から5ps増の95psに、車重は同じく6kgダウンの207kgへと減量しつつマス集中化も一層進められ、足まわりも倒立フォークにラジアル4Pブレーキを採用するなどトータル的にパフォーマンスが底上げされている。
直4エンジンの胸のすくような伸び切り感と高周波サウンド、緻密な回転フィールはホンダならでは。程よいパワー感でちゃんとスロットルを開けてエンジンを回せるのが良い。ハンドリングは軽快だが鋭すぎず、コーナーに向けての倒し込みなどでは大型バイクらしい重厚感もある。低速域では倒立フォークとカンチレバー式のリヤサスがやや硬めの印象を受けたが、マシンのキャラを考えたらもう少ししっとり感があっても良かった気もする。別の機会にフルカウル仕様のCBR650Rに乗ったときはフロントのねっちりした接地感が印象的だったが、車重やライポジの微妙な違いが関係しているのかもしれない。ペースを上げて攻めていくとイイ感じなのだが……。また、ABSとトラコンに加え、急ブレーキ時にハザードランプを高速点滅させる機構も付くなど安全面に抜かりがないのはホンダらしい。
ちなみに新型CB650R/CBR650Rの開発で目指したのは“ちょうどよさ”という。650ccという排気量や性能、デザインや質感と価格などのバランスを最大限に狙ったモデルなのだ。その上で、パワーでおよそ100ps、車重で200kgという人間が本当の意味で扱える上限辺りのパフォーマンスを約100万円に収めたコスパも見事。まさに全部がちょうどいい加減なのだ。よりスポーティな乗り味や長距離での快適性を求めるならフルカウル版のCBR650Rだが、普段使いの手軽さではネイキッド版のCB650Rに軍配が上がるだろう。大型バイク初心者やリターン組にもおすすめしたい一台だ。