REPORT●青木タカオ(AOKI Takao)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
昨今、クルマならSUVやクロカン、バイクならアドベンチャーやフラットトラックレーサーなど、車高上げ気味でダートの気配がするモデルが人気となっていますが、スクランブラーもまたその一角で強い存在感を示しています。
まだ未舗装路が多かった1960年代、オンロードバイク(オフロード専用車がまだ存在していないので、いわゆる普通のバイク)にブロックタイヤを履かせ、フェンダーを短くしマフラーをアップタイプにしたのがスクランブラー。イタリアを代表するスポーツバイクメーカーであるドゥカティも1962年にスクランブラーを450、350、250とそれぞれ発売し、74年までラインナップしていました。
ネオクラシック、レトロモダンブームを受け、2015年にずばり「スクランブラー」というネーミングで復活。当初は800ccモデルのみでしたが、その後400や1100も出揃って現代版もかつてのように3本立てとなっています。
スクランブラー カフェはシリーズ共通のボア88×ストローク×66mm、排気量803ccの空冷L型2気筒2バルブデスモドロミックエンジンを搭載。シルバー×ブルーの車体色は1950年代のレーシングマシン「Ducati 125 GP Desmo」あるいは70年代に人気を博した750SSを彷彿とさせるもの。スチール製トレリスフレームも青に塗装されました。
前後サスペンションはKYB製。フロントはインナーチューブ径41mmの倒立式フォーク、リヤはプリロード調節機構付きモノショック、アルミニウム製両持ち式スイングアームとしています。スクランブラーではフロント18、リヤ17インチの足まわりとしますが、カフェレーサーはチョット異色モデルで、軽合金スポークホイールは前後とも17インチ。ハンドルもセパレートハンドルとしました。
ゼッケンプレートの「54」は50〜70年代にドゥカティのワークスライダーを務めたブルーノ・スパッジアーリへのオマージュ。1972年のイモラ200マイルレースでは、ポール・スマートに次ぐ2位でフィニッシュしています。
カフェレーサーといえばセパハン&バックステップで、ライディングポジションはスパルタンなほどに前傾となるのがセオリーですが、上半身の前傾は緩やかなもの。膝の曲がりもゆったりとし、リラックスした自然な乗車姿勢です。
シート高は805mm。足着き性は良く、身長175cmの筆者が両足をおろすとカカトまで地面に届きます。ただしベッタリではなく辛うじて、あるいはうっすらカカトが浮くという感じです。とはいえ、信号待ちなどで停まるときに両足を出すことはありません。片足立ちなら余裕を持ってベッタリ地面にカカトがつきます。
車両重量は196kgで、重い印象はなく取り回しも苦になりません。排気量800ccの大型自動二輪であることを考えると、コンパクトに感じます。ビッグバイクビギナーや小柄な人も「乗れる!」と、跨ったときの第一印象で感じるでしょう。
フロント17インチ&セパンハンとなっても、気兼ねなく乗れる扱いやすさは健在です。跨ったときに感じるコンパクト感が走りにも反映されています。若干ながら前傾が強くなっていますが、それでもライディングポジションはアップライトで、交通量の多い市街地も行く手の状況が把握しやすい。遠くまで見渡せ、疲労を軽減してくれます。
クラッチ操作やシフトフィールは軽くて滑らかですし、極低回転域もギクシャクすることなくトルクが太い。4000〜7000rpmあたり、つまり常用回転域で力強く、ストップ&ゴーの繰り返しが苦にならない、むしろ楽しいのです。
前後サスはしなやかに動いて路面を追従し、足まわりが硬くて入力を意識しなければならないなんてことはありません。かといって柔すぎるというわけではなく、ブレーキング時もフロントフォークがしっかり踏ん張って、車体のピッチングが大きすぎて頼りないというネガもないから絶妙なバランスではありませんか。
もちろん、フレンドリーなだけではありません。ナナハンオーバーの800ccエンジンを積みますから、ダッシュやスロットレルレスポンスはリニアで思うがままにキビキビ走り、動力性能は侮れません。足まわりを含めポテンシャルは高く、フロントを18→17インチ化し旋回性も申し分なしです。
キャスター角も立って(24→21.8度)フロント荷重がかかりやすくなっています。スポーティな乗り味となり、ステアリングフィールはクイックに。
ただし、急かされるようなことはなく、ゆったり街中を流したりツーリングで景色を堪能することができ、基本的にはイージーライドが楽しめるストリートバイク。スクランブラーなのにセパレートハンドル装着で、シリーズのなかでは異端児かもしれませんが、ときにはカフェレーサーのような切れ味鋭い走りも味わえ、欲張りな1台になっています。
初代はキャストホイールでしたが、現行モデルでは軽合金スポークホイールに。フロントブレーキはモノブロックラジアルマウント4ピストンキャリパーと330mmのフローティングディスクの組み合わせです。
カフェレーサースタイルを強調するショートフェアリングを標準装備した丸型ヘッドライト。LEDリングライトを配し、精悍なフロントマスクを演出しています。
アルミカバー付きLCDインストルメントパネル。スピードを中央で大きく見やすく表示し、シフトポジションや燃料計も備え機能的です。
スクランブラーながらも常識を覆し、クリップオン式のセパレートハンドルを装着。ただしグリップ位置は持ち上げられ、乗車姿勢が前傾すぎないのが秀逸です。バーエンドには丸型のミラー。お洒落なクラシックムードも漂わせているところがドゥカティらしいです。
青くペイントされたスチール製トレリスフレームに、スクランブラーシリーズ共通の空冷LツインDOHC2バルブ803ccのエンジンを搭載。最高出力73PSを発揮し、スリッパ―クラッチも組み込まれます。
カフェーレーサーらしいシングルシート風テールカウルカバーを標準装備。車体色に合わせて、シート表皮をブルーにコーディネイトしています。
車体の左サイドにてリンクレスで装着されるリアサスペンションは、KYB製プリロード調節機構付きモノショック。150mmのストローク長を確保しました。
LEDテールランプもコンパクト。シンプルで軽快なテールエンドがスタイリッシュとしか言いようがありません。
テルミニョーニ製デュアルテールパイプエグゾーストは、ブラックアルマイト加工のアルミ製カバー付き。車体右サイドにレイアウトされ、ショートサイレンサーがマスの集中化に貢献します。
■エンジン
L型2気筒デスモドロミック 2バルブ 空冷803 cc
ボアXストローク 88 x 66 mm
圧縮比 11:1
最大出力 54 kW (73 ps) @ 8,250 rpm
最高トルク 67 Nm (6.8 kgm) @ 5,750 rpm
燃料供給装置 電子制御燃料噴射、50mm径スロットルボディ
エグゾースト アルミニウム製サイレンサーカバー付き ステンレス製エグゾーストシステム、 触媒コンバーター、O₂センサー×2
ホモロゲーション ユーロ4規制
■トランスミッション
ギアボックス 6速
減速比 1速2.461、2速1.666、3速1.333、4速1.130、 5速1.000、6速0.923
1次減速比 ストレートカットギア 1.85:1
最終減速 チェーン:フロントスプロケット 15T、リアスプロケット 46T
クラッチ 湿式多板 油圧式 セルフサーボ / スリッパ―クラッチ機構
■シャシー
フレーム スチール製トレリスフレーム
フロントサスペンション KYB製41mm径倒立フォーク
フロントホイールトラベル 150mm
フロントホイール 軽合金スポークホイール 3.50 x 17
フロントタイヤ ピレリ製ディアブロロッソ3 120/70 ZR17
リアサスペンション KYB製 プリロード調節機構付モノショック、 アルミニウム製両持ち式スイングアーム
リアホイールトラベル 150 mm
リアホイール 軽合金スポークホイール 5.50 x 17
リアタイヤ ピレリ製ディアブロロッソ3 180/55 ZR17
フロントブレーキ ブレンボ製M4.32 4ピストン ラジアルマウントキャリパー、330mm径ディスク、ボッシュ製コーナリングABS
リアブレーキ ブレンボ製1ピストンフローティングキャリパー、245mm径ディスク、ボッシュ製コーナリングABS
インストルメント LCD
■サイズ、重量
ホイールベース 1,436 mm
キャスター角 21.8°
トレール 93.9 mm
ステアリングロック角 35°
燃料タンク容量 13.5リットル(リザーブ容量含)
乾燥重量 180 kg
車両重量 196 kg
シート高 805 mm
全高 1,066 mm
全幅 875 mm
全長 2,090mm