REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
スープラの復活は、クルマ好きにとって2019年で1、2位を争うビッグニュースだったに違いない。BMWとの共同開発とはいえ、多くの部分で互いに独自の開発行程を経ているし、そもそも両社の協業がなければスープラの復活はなかったわけだし、Z4の新規開発も危うかった。
いずれにせよ、直列6気筒エンジンとフロントエンジン+リヤホイールドライブという、伝統的なレイアウトを持つ本格スポーツカーが復活したことは喜ばしいとしか言いようがない。
一方、ライバルのフェアレディZは日本を代表するスポーツカーとして君臨し続け、2019年には生誕50周年を迎えた。現行六代目は2008年12月にデビューしている。
現在、こうしてトヨタと日産という我が国のふたつの大メーカーが、それぞれ6気筒のFRスポーツカーをラインナップしているのである。やるじゃないの、日本。
そんな、いわば嗜好品とも言える本格スポーツカーでも、やはりしっかりと環境性能まで求められるのが現代の常識である。
それに、短期間だけ試乗しておしまいの我々メディアと違って、購入したオーナーさんは年がら年じゅう峠道やサーキットを攻めるわけではない。週末のドライブや平日の通勤など、様々な場面でスポーツカーを使いこなし、距離を重ねてゆく。当然、燃費に無関心ではいられない。
というわけで、スープラとフェアレディZで長距離ドライブの旅に出たのである。「高速道路」「ワインディングロード」「入り組んだ古い街並み」という、週末ドライブに走る機会が多いであろうステージをバランス良く含み、走行距離1000kmを目安にコースを考えた結果、目的地は鈴鹿峠と関宿に決まった。三重県と滋賀県にまたがるエリアである。
用意したのは直列6気筒3.0Lターボを搭載するスープラRZと、V型6気筒3.7L自然吸気を搭載するフェアレディZの特別仕様車である50th Anniversaryだ。
トランスミッションは試乗車の都合により、前者が8速AT、後者が6速MTとなった。本来であれば双方とも同じトランスミッション形式で揃えるべきで、スープラはMTをラインナップせず、フェアレディZには6速MTと7速ATがあるから、ATで揃えた方がより公平な比較ができただろう。
だが、そもそもスープラの8速ATとフェアレディZの7速ATの設計年次や性能には大きな差があるため、もはやフェアレディZがATかMTであるかは燃費を計る上で大した問題にはならない、とも言える。
東京都新宿の編集部を出発し、初台南インターチェンジから首都高速に入る。首都高速3号線を経て東名高速道路を西に走る。
まずは筆者(体重76kg)と平野カメラマン(体重76kg)がスープラに、同行した自動車ライターの遠藤正賢さん(体重100kg)がフェアレディZに乗る。各ステージとも約半分の距離を走ったところで車両を入れ替えることとした。
基本的に法定速度を目安とし、とくに燃費を意識した走りはせず、加速するべきときはアクセルをしっかりと踏む。
御殿場ジャンクションから新東名高速道路に入る。清水パーキングエリアでフェアレディZに乗り換える。
スープラと比べるとエンジンはゴロゴロと唸り、アスファルトのザラザラ感がタイヤを通して伝わってくる。直6とV6の差はもちろん、設計の古さも顕著に表れている。
だが、それがそのままスポーツカーとしての優劣とはならない。
スープラの直列6気筒の滑らかな回転フィールはすばらしいのひと言だが、今どき貴重な大排気量自然吸気をMTで操るフェアレディZの魅力も捨てがたい。
ハードウエアとして優れているのはもちろんスープラだ。しかしフェアレディZの、いかにも「俺がスポーツカーを手懐けている」という満足度の高さを好む人も少なくないはずだ。
豊田ジャンクションから伊勢湾岸自動車道に入り、四日市ジャンクションから東名阪自動車道へ。亀山インターチェンジで一般道へ降りる。
ここまで385kmを走り、平均速度は102km/h、平均燃費はスープラが14.5km/L、フェアレディZが11.6km/Lとなった。
亀山インターチェンジからは、国道1号線で鈴鹿峠を目指す。10分ほど走るとカーブが続く峠道らしくなってくる。
そして三重県と滋賀県の県境である鈴鹿峠を越えるまでの5kmほどのワインディング区間を、試乗と撮影を兼ねて何度か往復する。次に甲賀市内にある撮影場所に移動し、さらにワインディング区間の走行を続ける。この模様は、遠藤さんによる試乗レポートとして改めて記事公開する予定だ。
ひととおり試乗を終えると、鈴鹿峠を亀山インターチェンジ方面に戻り、江戸時代の風情を色濃く残す関宿に向かう。
奈良井宿、妻籠宿、馬籠宿といった古き佳き佇まいを残す宿場町が多い中山道と異なり、東海道では関宿が往時の面影を守り続ける唯一の宿場町と言っていいだろう。
全長約2kmに及ぶ目抜き通りは国内の宿場町のなかでも屈指の長さで、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
もちろん旧市街らしく道は入り組んでおり、道幅は狭く、ワイド&ローなスープラとフェアレディZでは取り回しに気を遣う。すれ違いにも困難を伴う。
撮影を兼ねてしばし散策した後、亀山インターチェンジの近くのビジネスホテルに投宿した。
翌朝は車両を入れ替え、筆者と平野カメラマンがスープラに、遠藤さんがフェアレディZに乗り込む。
再び鈴鹿峠に向かい、お互いに昨日とは違う車両で試乗する。
そして再び亀山インターチェンジに戻り、ここで燃費を記録する。
ここまで一般道を145kmを走り、平均速度は30km/hで、平均燃費はスープラが9.0km/L、フェアレディZが7.5km/Lであった。
自動車専門媒体の撮影は動かしては止め、動かしては止めの連続で、かなり燃費には厳しい。みるみるうちに車載の平均燃費計の数値が悪化していくのが通例だ。たぶんに感覚的な話で申し訳ないが、撮影がなかった場合の燃費は上記数値よりも1割増しと思っていただくといいかもしれない。
亀山インターチェンジからは往路の折り返しで、東名阪自動車道、伊勢湾岸道、新東名高速道路、東名高速道路と走り継ぐ。
途中で車両の入れ替えも行い、昼食を挟んで初台南インターチェンジまで一気に走り切った。
385kmを走り、平均速度は90km/hで、平均燃費はスープラが14.7km/L、フェアレディZが11.8km/Lという結果になった。
では総合結果である。
総走行距離は915kmとなり、平均速度は71km/hで、総合平均燃費はスープラが13.3km/L、フェアレディZが10.7km/Lとなった。
それぞれのカタログデータを見てみると、スープラはWLTCモード燃費が12.2km/Lだから達成率は109%、フェアレディZはJC08モード燃費が9.1km/Lだから達成率は118%となる。
ただ、そもそもこの総合燃費というものは全行程のなかに占める高速道路の割合によって変わってしまうため、これだけを見て一喜一憂しても意味はない。
注目すべきは、スープラの高速燃費である往路の14.5km/Lと14.7km/LがWLTC高速モード燃費の14.7km/Lとほぼ同じで、市街地&山岳路で出した9.0km/LもWLTC市街地モード燃費の8.3km/Lに近いということだ。
WLTCモード燃費は、かなり実燃費に近い信頼のおける数値と考えていいのかもしれない。
両者の比較という視点では、当然ながらスープラの圧勝となった。フェアレディZにしてみれば、設計が11年も古いうえにトランスミッションのギヤ数が2段も少ないのだから、この結果も致し方あるまい。
運動性能、快適性能も含め、単純に勝ち負けを決めるのであれば、フェアレディZに勝ち目はない。
だが、それでもあえてこの2台で長距離テストを行ったのは、まず「単純な事実として、フェアレディZではどんな燃費が出るのか」を知りたかったから。そして、「スープラが出てきた今、フェアレディZにはどんな魅力があるのか」を知るためだ。
後者については、後に記事公開予定の遠藤さんによるレポートをお待ちいただきたいが、筆者の意見は、フェアレディZの魅力はまったく色褪せていない、というものだ。
とりわけ「スポーツカーを操っている」という実感はフェアレディZのほうが得やすく、その傾向は速度が低くなればなるほど強い。絶対的な速度だけを求めるのでなければ、フェアレディZを選択肢から除外するべきではないだろう。
家族や親戚に勧めるなら間違いなくスープラだが、自分で買うならフェアレディZかもしれない。
トヨタ・スープラ RZ
全長×全幅×全高:4380×1865×1290mm
ホイールベース:2470mm
トレッド:Ⓕ1595Ⓡ1590mm
車両重量:1520kg
エンジン形式:直列6気筒DOHCターボ
排気量:2997cc
ボア×ストローク:82.0×94.6mm
圧縮比:11.0
最高出力:250kw〈340ps〉/5000rpm
最大トルク:500Nm/1600-4500rpm
燃料タンク容量:52L
トランスミッション:8速AT
駆動方式:FR
乗車定員:2名
サスペンション形式:ⒻマクファーソンストラットⓇマルチリンク
タイヤサイズ:Ⓕ255/35ZR19Ⓡ275/35ZR19
WLTCモード燃費:12.2km/L
市街地モード燃費:8.3km/L
郊外モード燃費:12.9km/L
高速道路モード燃費:14.7km/L
車両価格:702万7778円
日産フェアレディZ 50th Anniversary
全長×全幅×全高:4260×1845×1315mm
ホイールベース:2550mm
トレッド:Ⓕ1540Ⓡ1565mm
車両重量:1500kg
エンジン形式:V型6気筒DOHC
排気量:3696cc
ボア×ストローク:95.5×86.0mm
圧縮比:11.0
最高出力:247kw〈336ps〉/7000rpm
最大トルク:365Nm/5200rpm
燃料タンク容量:72L
トランスミッション:6速MT
駆動方式:FR
乗車定員:2名
サスペンション形式:ⒻダブルウィッシュボーンⓇマルチリンク
タイヤサイズ:Ⓕ245/40R19Ⓡ275/35R19
JC08モード燃費:9.1km/L
車両価格:475万3100円