充電しているとき、正極材から電解質中に溶け出したイオンは、負極側に付着すると正極材から配線を通して電子を受け取る状態になる。すると、付着したイオンは金属の原子として析出する。金属析出自体は充電する限り、負極材に金属を用いるからには必ず起こる現象である。
ところが、その析出の仕方が問題を招く。「デンドライト成長」と呼ばれる、樹枝状の析出が起こってしまうのだ。デンドライト成長が進むと析出金属は正極材に達してしまい、すると内部短絡を起こしてしまい二次電池としては役に立たなくなってしまうのだ。
また、電解液中では析出金属の表面でしか反応できないため、容量が低下するという状態にも陥ってしまう。
そこで盛満教授が考えたのが「反応空間を規制できる負極」であった。金属析出の状態がデンドライト成長を引き起こしてしまうのは、イオンの分布が不均一だからではないか。つまり、集まりやすいところにイオンが集合してしまうからどんどん高さが増してしまうのではないかと推察した。そこで、電解液中のイオン分布を均一に維持することがデンドライト成長を抑制できると仮説を立てたのだ。
そこでとった手段が、負極材における反応空間の規制であった。正極/負極がセンチメートル単位の広い板状であるのに対し、その間はミリ単位の隙間しかない。その「ミリ単位」でデンドライト成長してしまうのを防ぐために、広い面積の中でイオンが集中分散しない工夫を凝らした。「集電帯の上に金属をめっきしたり、もしくは金属の粉末を押し固めるというような、今、世の中で使われている技術と特別変わりはありません。ただ、そこに板状の、表面の部分に載っている電解液中のイオンが、単純に言いますと横方向に動かないようにしているということです」と盛満教授は説明する。話を総合するとイオンが移動できる空間を何らかの手段で制限しているようだ。