REPORT●隅本辰哉(SUMIMOTO Tatsuya)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
ベスパ・GTS300ツーリング……72万6000円
GTSシリーズの登場は、新型の水冷4ストエンジンなくして語れない。前項で触れているようにピアッジオからネーミングの由来などは一切説明のなかったGTSだが、やはり走りをイメージさせるものであることは誰の目にも明らかだ。そうなるとパワーユニットに注目が集まるのは必然で、GTS搭載のクォーサーと名付けられた新型250ccユニットは、その期待を裏切ることのないとてもパワフルなものだった。
ベスパにおけるラージレンジとはいえ、250ccのGTSは車重が148kg(最終的にはデバイス類の増加などにより151kgとなった)しかなかったことも功を奏した。180kg〜210kgという車重かつ大柄でラグジュアリー傾向を強めた国産ビッグスクーターより、走りもハンドリングも確実に軽快さを実感できるとファンを歓喜させた。
そして鳴り物入りで登場した300ccクォーサーである。300ccを謳ってはいるが、ボアとストロークをともに250ccのものから3mm拡大させた実質278ccの排気量。最高出力よりもトルクを重視したセッティングが施され、最大トルクは約10%ほど向上。その発生回転数も250ccが6500pmからなのに対して、1500rpmも低い5000rpmで発生するというものだった。そのためスタートでは気を抜いているSSクラスを置き去りにしてしまうほどのダッシュ力を見せつけ、中間速度域でも胸のすく加速感が味わえた。
さらにベスパらしい軽快なハンドリングは300ccとなっても健在。むしろアクセルオフできっかけを作って旋回を開始したら、パーシャル気味で旋回時の安定性を確保なんて芸当も容易だ。つまりアクセルのオンオフを使い分けることで、軽快さと安定性を思うように引き出すことだって可能なのである。
今回試乗したのはそのGTS300のツーリング仕様である。これは小ぶりながら走行風からライダーを護ってくれるショートスクリーン、いざという時の積載力を高めてくれる折りたたみ式リヤキャリアを標準装備したモデルだ。試乗車はこれにオプションのフロントキャリアも追加装備していたので、さしづめツーリングスペシャルといったところだろう。
乗車すると、背筋がピンと伸びるアップライトなポジションとなる。これはGTSの登場以来、基本的に変わらないので妙な安心感を覚える。そこからスッと息を吸って止め、少し前傾のポジションを取りながら右手を必要なだけ捻る。ここで気をつけたいのは、右手(=アクセル)の開け過ぎ注意という点だ。できることなら300ccクォーサーの加速性能に慣れるまでの間、ゆっくりと優しく操作することをお勧めする。不用意にアクセルをガバッと全開にしようものなら、スクーターらしからぬ強烈な加速Gを体感することになるからだ。やはり300ccクラスのゆとりの排気量と160kgのライトなボディとの相性は相当に良いのである。
GTS300のおもしろさは、なにもスタートダッシュだけではない。低回転域からズ太いトルクが立ち上がるので、街中でアクセルワークによる緩急自在なハイアベレージランが可能という点が真骨頂だと言える。アクセル操作でフロントタイヤの接地感を変化させながら、思い通りのラインをトレースしていく気持ちよさが味わえるのだ。
また、高速走行ではショートスクリーンが良い仕事をしてくれ、ABSとトラクションコントロールも標準装備とまさに言うことなし。少々足周りに硬さを覚えるかも知れないが、決して不快と感じるほどのものではない。なので市街地〜高速、そして通勤〜ツーリングまで、シーンを選ばずに使い倒せる相棒として検討の価値ある一台だろう。
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全長/全幅/全高:1,950mm/755mm/ーーmm
軸間距離/最低地上高:1,375mm/ーーmm
シート高:790mm
車両重量:160kg
エンジン:4ストローク・水冷単気筒/SOHC・4バルブ
総排気量:278㎤
最高出力:15.6kW〈21.2PS〉/7,750rpm
最大トルク:22N・m〈2.2kgf・m〉/5,000rpm
燃料供給装置:電子制御燃料噴射システム
始動方式:セルフ式
燃料タンク容量:8.5L
トランスミッション:自動無段階変速(CVT)
クラッチ形式:自動遠心クラッチ
フレーム形式:スチールモノコック
ブレーキ形式(前/後):油圧式220mmシングルディスクABS/油圧式220mmシングルディスクABS
タイヤサイズ(前/後):120/70 - 12"、130/70 - 12"
乗車定員:2名