リーフにe+(イープラス)というグレードが新たに登場したのは各所で報じられているとおり。そのキーテクノロジーが、バッテリーの著しい進歩である。

 どのように進歩したのかといえば、具体的には、リチウムイオンバッテリーの体積はそのままに容量を高めている。つまり、エネルギー密度が高まった。




【従来】電圧350V、容量40kWh、192セル


【今回】電圧350V、容量62kWh、288セル




 それにともない、電流値も大きくすることでさらなる高出力化を実現している。その仕組みを考察してみよう。

セル単位からの考察

 日産のリチウムイオンバッテリーは、NECとの共同出資によるオートモーティブエナジーサプライ社(AESC)から調達していた。「していた」というのは、昨年8月に同社を中国の会社に譲渡することが決定しているため。そのAESCによるリチウムイオンバッテリーの性能は、以下のように発表されている。




 電圧:3.65V


 容量:56.3Ah


 長さ261×幅216×厚7.91mm


 重さ:914g

AESC供給のリチウムイオンバッテリ、セルの状態。

 現行リーフのバッテリーパックが192セルで構成されているのは先述のとおり。もう少し詳しく述べると、192という数字は2×96というかけ算で得られている。2というのは並列接続数、96というのは直列接続数を示す。




 よく知られているとおり、バッテリーは「並列接続すると電圧はそのまま/電流は足し算」「直列接続すると電圧は足し算/電流はそのまま」となる。先ほどのセルスペックを192という数字に充ててみると──




 電圧:3.65V × 96 = 350.4V


 毎時電流:56.3Ah × 2 = 112.6Ah


 容量:350.4V × 112.6Ah = 39455.04Wh




 車両スペックの発表値と適合した。ではこのセルを今回のe+の288という数字に当てはめるとどうなるか。ちなみにe+のバッテリーは3並列接続としていることが発表されている。つまり、288とは3×96から得られている数字だ。




 電圧:3.65V × 96 = 350.4V


 毎時電流:56.3Ah × 3 = 168.9Ah


 容量:350.4V × 168.9Ah = 59182.56Wh




 電圧は一致、しかし容量が足りない。事実、e+のバッテリセルはAESCではなくLG chemのものを使用しているらしく、容量も増やすことができている。車両スペックの62kWhから逆算してみると、どうやらセルの毎時電流値は58.9Ahあたりになりそうだ。


 


 日産のエンジニア氏によれば、「セルをボンカレーのレトルトパックと見立てれば、中身は大きく変えずに少し多く詰めたイメージ」という。それにより容量を増やしているわけだ。しかし、パックとしての外寸は変わっていない。セル一枚ずつの厚みの増加がわずかだとしても、何せ288セルである。果たしてどのように寸法を詰められたのか。

「8セルモジュール」から「可変式モジュール」への転換

 現行リーフが登場したとき、バッテリモジュールの数を4セル構成から8セル構成にすることで容量増加を果たした、というニュースをご記憶の方もいらっしゃるだろう。4枚プライで1モジュールとしていた初代リーフに対して、現行リーフでも8枚プライで1モジュール/同寸という課題をクリアしていたのだ。今回、それをさらに展開したのが「可変式」と日産が称するモジュールの仕立て方である。




 そもそもなぜ4セル/モジュール@初代だったのかといえば、そのときのEVはリーフだけであり、プラットフォームとパッケージングのバランスから最適化を図った結論がこの構造だった。2代目(現行)の登場に際してさらなるパフォーマンス化を目指し、8セル/モジュール化。4セル型モジュールを二枚スタックすることに比べてケース寸法分(重ねた部分の板2枚分)をセル体積に充てられることから、容量アップを実現していた。

初代リーフのバッテリーモジュール。4セル型。

現行リーフのバッテリーモジュール。8セル型にスイッチした。

 現行リーフが登場したのち、日産はライバル勢をベンチマーク。セルの方式や構造が異なるものの、ラミネート型のリチウムイオンバッテリーとして限界はまだまだ追求できると判断した。しかしe+という追加グレードにおいてはバッテリパックの形状や体積を著しく変えることはできない。さらなる容量アップのためにとった手段が、レーザ溶接を用いるモジュール生産方式だった。




 モジュールの8セル化は、確かにハイパフォーマンス化をもたらした。しかし当然4セル型に対して体積が嵩む。8の倍数でしかパッケージングを検討できないのはいかにも不便だ。そこで、3並列化と「可変式モジュール」によって、モジュールの厚さを(ある程度)自在に仕立てられるようにした。




 3並列だから、最小単位は3セル。e+のパックでは、27セル型モジュール/21セル型モジュール/12セル型モジュールの3種類をパック内に敷き詰めている。

e+のバッテリーパック。左方から、21セル型モジュールが4つ、中間部に12セル型モジュールが8つ、右方に27セル型モジュールが4つ収められている。

こちらは現行リーフのバッテリーパック。右方(車両後方)のモジュールの敷き詰め方は縦に並べる方式。

 つまり、3×7=21のモジュールを4つ、3×4=12のモジュールを8つ、3×9=27のモジュールを4つ、これで合計288セルである。3×96という数字が得られるのもご理解いただけるだろう。ちなみに、バッテリーパックとしての重量は440kgとなり、当然ながら現行リーフに対して増加している。しかしパワートレインの増強によって走行時の掻痒は一切なくなっていることはお伝えしておこう。



詰め込んだことによるデメリットはないのか

 192セルから288セルとなると、単純に1.5倍。それだけの数を同体積内にどのように詰め込んだのかといえば、先ほども記したレーザ溶接によるモジュール生産方式が大きく寄与している。




 4セルならびに8セル型モジュールでは、モジュール同士の接続にハーネスを用いている。EV用のバッテリーのこと、流れる電流は巨大であり、ハーネスの太さや重量も相当なもの。パック内における場所を食う存在だった。「電力を生んでいる部分はセル、電極などは電気を流しているだけです。性能には貢献していない。だったら極力小さくしようと考えたのです」とエンジニア氏は説明する。




 セルをスタックしたのち、基盤化したハーネスとセルのタブをレーザ溶接。これにより著しい小型化に成功した。しかし言うは易し行うは難し。レーザ溶接のためには相当な寸法精度の高さが必要だった。もちろん、日産がe-POWERをはじめとする電動パワートレインのラインアップを増やしたことでリチウムイオンバッテリーのスケールメリットを図れるようになったことも大きい。




 ぎゅうぎゅうに詰め込むことで冷却には難が生じないのかと訊いてみた。すると、3並列化の恩恵が大きいとエンジニア氏は説明する。「2並列を3並列にすると、同じ電流を流そうとしたときに1/2ずつが1/3ずつになるので、流れる電流が2/3になる。密着しているから不利だけど、流れる電流が2/3になるので、I^2Rで、電流の2乗に比例していくので、そうすると約半分。つまり、熱量が半分になる。そこは大きな違いですね」




 それらを踏まえてバッテリーパックは従来どおりの空冷ファンレス。容量が増えたことで、急速充電時のSOC50%からの30分充電量は40%も向上、使い勝手にも大きな変化をもたらすことになった。




 「可変式モジュール」は、今回ハイパフォーマンス版として登場している。しかし当然ながら、モジュールの仕立て方に自由度が飛躍的に高まったという点で、小型軽量のパックを仕立てることも可能になる。EV/シリーズHEVに大きく舵を切った日産のパワートレイン戦略にとって重要な技術となるこの方式、今後の動向に期待したい。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 日産リーフe+のリチウムバッテリーの構造 一体なにが進化したのか?