決してサボっていたつもりはなく、われわれモーターファン・アーカイブ編集部が手掛ける「日本の傑作車シリーズ」の最新第14作「初代シーマのすべて」が決まってそちらにとりかかったものだから、急にこちらがお留守になってしまった。
TEXT●山口尚志(HISASHI Yamaguchi)
PHOTO●中野幸次(KOUJI Nakano)/山口尚志
ほんと、古いクルマを毎度1冊で採りあげるとなると、過去のカタログにフィルム探し、そしてスキャニングと、新車を扱うのとはまた別の苦労があるものなのヨ。
「初代シーマ」だけではない。
「初代シーマ」が終わったらこの「よろしくシエラ」を再開と考え、第9回用の記事もあるていど用意していたのに、「シーマ」終了間際になって次の「歴代マークⅡのすべて」が決定したものだから、「シーマ」終了からそのまま「歴代マークⅡ」になだれ込み、お留守どころか夜逃げみたいになった。
ここで整理して・・・
これら2誌が発売中ですので、よろしかったら書店でお求めください。
ところが「歴代マークⅡ」のあともまた間が開いた。
こんどは夜逃げから国外逃亡みたいになった。
この11月中旬まで何をしていたのかというと、第8回の時点で挙がるだけは挙がっていた「歴代ジムニーのすべて」がいよいよ決定し、取材ほか実作業が「歴代マークⅡ」の後に発進し、この「第9回」がいまになったというわけ。
実はわれわれは、3年前の2015年7月にも「歴代ジムニーのすべて」を刊行している。
新型が出たからといって、3年前と同じ「歴代ジムニーのすべて」のタイトルでいくには抵抗がある。
編集長は「歴代ジムニーのすべてⅡ」「続・歴代ジムニーのすべて」、私は「歴代ジムニーのすべて2018」や「歴代ジムニーのすべて・おかわり」などを考えていたが、どれもこれも決め手に欠け、結局は「新型/歴代ジムニーのすべて」と相成った。
というわけで、またあらためて告知。
新型/歴代ジムニーのすべてを11月14日(水)に発売します。
新刊告知を織り交ぜながら、なぜこんなに前置きが長いのか。
それはこのモーターファンJPへの記事書きがずいぶんひさしぶりで、雑誌への記事作成とは勝手が違っているからである。
要するにリハビリをしているようなものだ。
まだ「新型/歴代ジムニー」が流動段階だった8月上旬、開発者インタビューを行うことになったのだが、この時点でスズキのジムニー広報車両の手配も予約いっぱいで乗ることができず、かといって、乗りもしないくせに無責任な話に終始するわけにもいかないと思ったので、自分の旧型シエラの6か月点検とつなげて販売店試乗車の新型ジムニーとシエラに乗っておいた。
実は第9回には、その試乗記事を予定していたし、それなりに途中まで記事を仕上げてもいた。
ところが先に述べたように、別の本の製作にかかりっきりになっているうちに「新型/歴代ジムニー」取材が本格始動、ようやくというべきか、この段になってじっくり新型に乗ることができたので、ここでは販社試乗車およびメーカー広報車に乗った感想を、「新型/歴代ジムニー」に収めきれなかったことも含めて述べていきたい。
発表前に新型のスペックを見て思っていたのは、その内容に新旧大した変化はなさそうということだった。
新型軽ジムニーも新型シエラもエンジンが載せかえられたこと、フレームに手が入れられたこと、シエラならタイヤサイズが変わっているから、それらに伴う実験はやり直したであろうとはいえ、ブレーキやサスペンション型式、ATならギヤ比にトランスファーギヤ比、そしてホイールベースに燃料タンク容量まで同じだったから、大げさにいえば、旧型を20年造っていたうちのおしまいの2年で、新型をパパッと、主にデザインに力を入れて開発したのだろうと軽く見ていたのである。
10月半ばの「新型/歴代ジムニー」取材中に、納車から約7か月で1万3000キロに達したが、旧シエラを使う身からすれば、新型は「ジムニー」の名を受け継いだだけの、まったく別のクルマだった。
エンジンをかけた段階から抱いた好印象な点は3つ。
①静粛性 ②ブレーキのフィーリング ③乗り心地
これは販社試乗ですぐ気づいた3項目だったし、日を置いて正式に広報車両に乗ったときも、その印象は変わらなかった。
私の旧型シエラが4ATなら、販社試乗車もメーカー広報車の新型シエラも4AT。
静粛性の向上は、新型シエラのエンジン始動直後からすぐにわかった。
まずアイドリングからして静か。
走らせれば自分の旧型並みの音に高まるかと思ったが、エンジン音は速度に応じて上がるだけで、全体の音のレベルは旧型より明らかに低い。
これが軽ジムニーとなるとやはり660ccの悲しさで音が高鳴る・・・となるのが通例の自動車記事の書き方だが、軽ジムニーもシエラと変わりなかったのは大したもの。
搭載エンジンが、古いM13Aから新しいK15Bに変わったことの効果だ。
というのも、ボディ各部に仕込む遮音材の使用量は、旧型とそれほど変わっていないというからだ。
なお、時速100キロ時のエンジン回転は、4速めギヤでのタコメーター読みで、新型も旧型もほぼ同じ回転数の3000rpm。
ATのギヤ比、トランスファーの高低ギヤ比、タイヤサイズのインチ径に、新旧変更はない。
ただ、タイヤの幅と扁平率が変わった(旧型205/70R15、新型195/80R15)ことに伴ってタイヤ周長が変わっている。
それでいて新旧が同じ3000rpmになるのは、タイヤ周長の長短を、最終減速比のローギヤード化(旧型4.090、新型4.300)で吸収しているからだ。
これは計算上でもそのようになり、タイヤ周長は旧型が約2.099m、新型が2.177mで、4速目のギヤもトランスファーギヤの高速側も新旧同じ1.320。
これらから100km/h時のエンジン回転数を、ATロックアップクラッチ作動を前提に計算ではじき出すと、旧型は約2984rpm、新型は3025rpmとなる(計算方法は、自動車工学的な本などで調べてみてください)。
本ページ第4回で、「20年の間に、軽自動車のブレーキフィーリングも普通車並みになっているはずで、ぜひとも新型ジムニーのブレーキは、20年の後れ(おくれ)を一挙挽回してほしい」と書いたが、はたして新型はそのとおり以上になっていた。
同じストロークなら新型の方がブレーキングの立ち上がりが早いため、ブレーキがよく効く(=減速度が大きい)という印象につながっている。
同じ踏力なら、新型は踏み始めがおおよそ旧型の倍の効き、踏力を増すにしたがって増幅の度合いが1.5倍くらいにまで狭まるが、いずれにしても、グラフからも実際のフィーリングを見ても、現代のクルマと足並みを揃えたブレーキフィーリングになっていることがわかる。
旧型と20年の開きがあるのだからその進化は当然だし、そのフィーリングには確かに感心したのだが、2018年現在に出てくるクルマなら他車並みであって当然でもある。
同時に腹が立ちもしてくる。
造り手からすればいろいろと都合があったのだろうが、旧型の乗り手側からすれば、こんな使いにくいブレーキのクルマを、20年もの間造り続けていたなんて!
途中の改良で、せめてブレーキブースターの容量を上げるだけでもできなかったのだろうか。
しかしこのフィーリングもオフロードとなると話は別で、泥濘地に、デコやボコの激しいラフロード・・・こういった場を登ったり下ったりする際には、旧型のブレーキのほうが扱いやすいという人もいる。
ただ、ジムニーユーザーのうち、オフロード性能にものをいわせた使い方をするのはごく一部で、過半数は事実上、買い物や通勤ユースが主体ではないか。
どちらかといえばジムニーはセカンドカーユースが多かろう。
だとすれば、ファーストカーとの比較も含めて、新型のブレーキフィーリングのほうが、一般ユースになじみがいいと思う。
まず車道に出るとき、アスファルトにタイヤが落ちて触れた瞬間のあたりがやさしくなっている。
マンホールやアスファルトのひびや補修跡を通過する際も、その感触は軽やかだ。
このあたりは旧型も悪いとは思わないが、旧型がどこかぼんやりとしているのに対し、新型のほうがすっきりと収まり、やはり「新しいクルマなんだな」と思わせてくれる。
ハンドルの感触もいい。
新しい軽もシエラも、ずいぶん直進性を重視したようで、街乗りの低中速域で、実験的にハンドルを左右にふって手放し気味にしてもすぐに直進を取り戻し、ハンドルも早々に中立位置につく。
この動作は他カテゴリーのクルマよりもはっきりしていて、好みの問題だが、なかなかいい感触に思える。
これは新たに設けられたステアリングダンパーの効果もあろうし、詳しく調べ切れてはいないが、もしかしたら前輪のキャスターアングルを見直しているかも知れない。
パワーステアリングの方式は、旧型は軽ジムニーが電動パワーステアリング、旧型シエラが油圧式。
新型はどちらも電動式になっている。
元来、私は電動式のパワーステアリングが嫌いな人間である。
しょせんクルマそのものが人工物だが、油圧式と違って操作感が人工的なのが嫌なのと、駐車場操作で致し方なく据え切りをするさい、一気にハンドルをぐるぐる回す途中で顔を出す引っかかり感が不快なのだ。
ただ、どこのメーカーも、電動パワステのフィーリングは、2000年代初頭の頃よりも格段に向上しており、油圧式なのか電動式なのか即座に判断つかないクルマが増えてきた。
そろそろ私も電動式への偏見を改めるべきときが来たようだ。
ことにバックで後ろ振り向きざま、右腕だけでまわそうとするときなどは、ハンドルとケンカするようなものだ。
旧型は、軽ジムニーが油圧式かと思えば電動式で、シエラが好みの油圧式と思って握れば「それでパワステ? もうちょい軽くなったら?」といいたくなるほど重い・・・旧型ジムニー兄弟のパワステは、何とも不思議な特性の持ち主だったと思う。
運転席からの視界。
これは旧型からよくなった悪くなったというよりも、見え方が異なるようになったというのが正しい。
ガラスが平面寄りになりながら起き上がったこと、フロントピラーが遠ざかったこと、そしてガラスのタテヨコ比が変わり、横長になったことなどが要因だ。
視界の種類が違うというべきだが、ガラス下端=外から見ればカウル部・・・が上方に上がっているので、新型のほうに圧迫感があるのは確かだ。
あと新型さん、ワイパーの停止位置がもうちょい下がらないものですかねえ?
私の身長、座高での運転姿勢では、どうしてもフードと路面の境目がワイパーに隠れ、ことに車両左先端部が隠れてしまうのは考えものだ。
新型もひきつづきフードが見える車両デザインにしたというのに。
空調について。
3年前に乗った旧型軽ジムニーは、空調の効きがよかったことが印象に残っている。
軽自動車のくせに冷やす方も温めるほうもいっちょまえ。
生意気である。
ティーダなんか新車で買ったときからクーラーの効きが悪かったから、よけいに印象的だったわけだ。
新型も空調の効きはよかった。
新型シエラと新型軽ジムニーのXL、XCは空調がオートタイプになった(軽のXGだけマニュアルタイプ)。
ファン風量は8段階になって(マニュアル式は4段階)、たいていのクルマのオート式の7段階よりひとつ多い。
新型でファンOFF、空調の吹出口選択を上半身、内外気切り替えを外気導入にして、時速100キロ走行時の外気導入量を試してみたら、ファン1弱に相当する風が入ってきた。
これが旧型になるとどうか。
こちらはマニュアルタイプのもので、ファン風量も全4段階だから、同じ尺度にはできないが、新型と同じ速度、空調モードにしたら、インパネセンターの吹出口からファン風量1の約1/5、運転席がわからは約1/4ほどの風が入ってきた。
どちらかといえば、走行風圧(ラム圧)による外気の自然導入量は、新型のほうが多いような気がする。
ことに軽の最安XGを除いた全車に新設されたラゲッジボックスのふた面と、さきのサイドトリム上面は、リヤシートを倒せばその背面と面一(つらいち)になるように考えられているから、リヤシートを倒して表れる段差のない広い平面に、旧型オーナーなら誰でもうらやましがるのではないか。
よって、新型の荷室は、後席使用時の奥行きこそ旧型と比べて退化しているが、全体の使用性は新型のほうが格段に向上していると太鼓判を押そう。
ただ、車両全体的としては新型のほうがもの入れの数は減っている。
別になくてもいいと思っているが、旧型なら乗車人数分以上の5つあった(ATのみ。MT車は4つ)コップ置きが2つになっているし、ハンドル左のもの入れはなくなっている。
× × × × × × ×
と、ここまで書いて長くなってしまったので、つづきはまたこんど。
冒頭に書いたとおり、サボっていたつもりはないが、それにしてもわれながら4か月はひどい。
もしこのページを楽しみにしていた方がいらっしゃったとしたら、4か月もの間をあけて申し訳ありませんでした。
反省。
新型/歴代ジムニーのすべて(2018年11月14日(水)発売)
2015年7月発売の「歴代ジムニーのすべて」から3年、新型4代目ジムニー&シエラが発売されたことを受け、調子に乗って一部改称しながら「新型/歴代ジムニーのすべて」を発売。
軽ジムニーはオフロードで、シエラは一般ユースでと、それぞれ別シチュエーションで新旧比較。
シエラの新旧比較では普通のクルマから乗り替えようかと興味を抱いている人も視野に入れている。
開発者インタビューでは、なぜひきつづき軽サイズなのか? なぜATは旧型とほぼ同じなのか? アイドリングストップやエネチャージなどのない理由なども聞いています!
歴代ジムニーはほぼ半数が今回のために撮り下ろし!
全世代、3年前とは別のジムニーで、「使い勝手」ページを展開。
すべてが書き下ろしの「新型/歴代ジムニーのすべて」、ぜひお近くの書店でお求めください。