日中は谷から山へ、夜は山から谷へ――このように山沿いの地域では、1日のなかで風向きが変化する「山谷風」が吹きます。この風は、晴れて穏やかな日には日常的に発生しており、私たちの暮らしにも影響を与えています。
この記事では、山谷風のしくみや特徴、海陸風との違い、そしてこれらの風を活用した取り組みについて、わかりやすく解説します。


山谷風とは?

山地や山沿い、盆地では、「山谷風(やまたにかぜ)」と呼ばれる局地的な風が吹きます。夜に山から谷や麓に向かって吹き降りる風を「山風(やまかぜ)」、日中に谷や麓から山に向かって吹き上げる風を「谷風(たにかぜ)」と言い、1日のなかで山風と谷風が交代します。

山谷風は、よく晴れた穏やかな天気の日には規則正しいサイクルで現れます。
逆に、低気圧や前線が近づいている時などは、この風のサイクルが乱れます。ことわざで「山谷風が乱れると天気が悪くなる」と言われているのはこのためで、天気が下り坂のサインとされています。

山谷風の仕組み


山谷風が発生する仕組み

山谷風は、地形による空気の温度の差とそれによって生じる気圧の差が、風の流れを生み出します。

・谷風
谷風は、詳細には①山の斜面に沿って谷から山に吹く風と、②谷筋に沿って山へ上る風の2つに分けることができます。

①日中、日射によって地表面付近が暖められます。山の上と谷、同じ高さの空気同士を比べてみると、山の上の空気の方が熱源となる地表面が近いため、相対的に山の上の空気の方が暖かく、谷の空気の方が冷たくなります。暖かい空気は軽いので気圧が低く、冷たい空気は重いので気圧が高くなります。風は、気圧の高い方から低い方に向かって吹くため、斜面に沿って谷から山へ風が吹きます。

②①で斜面に沿って空気が運ばれてしまうため、谷付近の気圧が下がります。すると、相対的に気圧が高い麓の平地から空気が引き上げられるようにして、風が谷筋を上るようにして吹きます。

・山風
山風も、詳しくは①山の斜面に沿って山から谷に吹く風と、②谷筋に沿って山から平地へと下る風の2つに分けられます。

①夜間は逆に、同じ高さでは、谷よりも山の上の空気の方が冷却源となる地表面に近く、相対的に冷たくなります。対して谷の空気の方が暖かくなるため、山の上では気圧が高く、谷では気圧が低くなります。このため、気圧が高い方から低い方へ、つまり山から谷に向かって斜面に沿って風が吹きます。

②①によって、谷底には冷たい空気が溜まります。すると水と同じように、高い方から低い方へと空気が流れて、谷筋に沿って風が吹き降ります。

なお、いずれの谷風・山風ともに、上空ではそれを補うように逆向きの風が吹いて循環をしています。

山谷風の1日のサイクル


山谷風と海陸風の関係

海沿いの地域では、この山谷風に似た現象が起こります。「海陸風」と呼ばれ、日中は海から陸に向かって「海風」が、夜間は陸から海に向かって「陸風」が吹き、1日周期で風が交代します。

山谷風も海陸風も、空気の温度差によって風が吹いたり交代したりする点は同じです。海陸風の仕組みは山谷風よりももっとシンプルで、海と陸の暖められやすさの違いによって温度差が発生し、風が吹きます。

また、山谷風は山地周辺、海陸風は海岸周辺の地域にそれぞれ現れますが、日本の場合、山と海が近い地形であるため、これらが影響しあうことがあります。とくに、海風が発達すると内陸部の奥深くまで吹き込むため、同じ風向きの谷風と結合して大きな風の流れ(循環)となって、広域海風や大規模海風と呼ばれることがあります。広域海風は、関東平野や濃尾平野などでよく現れます。

海陸風の仕組み


風を活用!「風の道」によるヒートアイランド対策

山谷風、そして海陸風が、私たちの生活に役立っていることをご存じでしょうか?

都市部では、アスファルトやコンクリートに覆われた地域の増加、自動車や建物からの排熱、建物の高密度化などが原因で、都市周辺の気温が上昇する「ヒートアイランド現象」が起こっています。そしてこのヒートアイランド現象によって、熱中症や集中豪雨といったリスクが高まることが心配されています。
こうしたリスクを緩和する対策の一つとして、「風の道」が挙げられます。

「風の道」とは、もとはドイツの自動車産業都市シュトゥットガルトで採用された、山谷風を利用した環境対策のことです。夜間に周囲の丘陵地からの冷涼な風を都市内に導く「風の道」を作る都市計画を行った結果、大気汚染に加えて夏季の気温上昇の緩和を実現しました。

近年、日本でも、ヒートアイランド対策に自然の風を取り入れた「風の道」を活用しようと、国レベルでの取り組みが進められています。平成25年に国土交通省が取りまとめた「ヒートアイランド現象緩和に向けた都市づくりガイドライン」の中では、都市の整備にあたって、山風・海風・陸風が都市を通り抜けるようにするなどした「風の道」を確保することの重要性が示されています。
実際には、日本の場合、大都市の位置や風の規模の大きさから、海風を活用する事例が多くなっています。国土交通省が調査した事例では、東京都新橋地区で環状2号線周辺を再整備して海陸風を導くようにしたところ、夏の日中の平均気温が約0.21℃低下しました。対策は緑化や省エネによる人工排熱の削減などとセットで行われましたが、それらの中で風の道による効果が最も高かったそうです。

このように、私たちの身近で日常的に吹く風が、都市の暑さを和らげる有効な手段として注目されています。

「風の道」に活用される風の例

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 山谷風の仕組みや特徴を解説 海陸風との違いも紹介