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国内の名所や海外の観光地へのお出かけは難しくても、身近な散歩道で見られる美しい紅葉の木を、2回にわけてご紹介します。
ハナミズキ(花水木 Cornus florida)は、北アメリカ東部原産の落葉小高木。ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属に属し、日本の山野に自生し、初夏に真っ白な総苞(がく片)が印象的なヤマボウシ(山法師)の近縁種で、別名アメリカヤマボウシとも言われます。
ハナミズキといえば、1912年、東京市(現在の東京都)の市長・尾崎行雄がアメリカ合衆国の首府ワシントンD.C.にソメイヨシノの苗木を寄贈し、その返礼として、アメリカ人に愛され続けてきたハナミズキの苗木が東京に贈られ、この後日本にもハナミズキが街路樹や公園の植栽として盛んに植えられるようになった、という日米友好のエピソードは夙に有名ですよね。
ハナミズキは、サクラの花の季節が終わってすぐの4月末から5月初旬ごろ、ピンクや純白の四弁の総苞をふわりと広げた花が印象的ですが、ディープレッドに染まる紅葉も美しいものです。
10月に入って気温が下がってくると、他の木に先駆けて色づいてきます。日当たりも環境も良い大きな公園では樹木全体が一気に赤く色づく場合がありますが、道路脇の並木などでは、葉は順次黄変・紅葉し、はらはらと次第に落ちていくので、カエデやイチョウなどと比べると、あまり注目されることはありません。これは、やはり早くから葉が色づき始め、晩秋までに徐々に落葉するソメイヨシノも同様です。それぞれサクラ前線、ハナミズキ前線がニュースになるほど日本、アメリカ双方の国民に花が愛されている花木が、こんなところで似た性質を見せること、花は一斉に開くのに紅葉・落葉は三々五々というのも面白い対比ですね。紅葉した葉は、一枚一枚それぞれが赤、黄、褐色の複雑多様な模様をなしていて、見比べるのも楽しいものです。
カツラ(桂 Cercidiphyllum japonicum)はカツラ科カツラ属の落葉高木で、30メートルほどにもなります。幹はまっすぐに伸びてよく分枝し、灰褐色の木肌は表層の樹皮が薄くささくれて、独特の風合いを帯びます。自生では低山の森林に生え、兵庫県の山中には樹齢千年を超えるという老大木が知られています。
葉は薄く円形に近いハート型で、10月に入ると葉ごとに黄色から橙色に色づいて、やがてハラハラと散っていきます。在来の樹木では紅葉がもっとも早い部類に入ります。
カツラの落ち葉の何よりの特徴は、葉から独特の甘辛い香りがすること。それは綿飴のようだともプリンのようだともクッキーやざら目せんべい、大学芋のようだとも言われ、「食欲の秋」にふさわしい香りかもしれません。
この匂い成分はマルトール(Maltol)と言って、多糖類を加熱したときに発生する物質です。カツラの葉単体ではその匂いはせず、地面に落ちて土に含まれる菌類と化合することではじめてたちのぼるようになります。特に雨上がりなどの地面が湿っているときに強く香るので、公園などでカツラを見かけたら、ぜひ落ち葉を拾ってかいでみてください。
ケヤキ(欅 Zelkova serrata)は、ニレ科ケヤキ属の落葉高木で、11月ごろ黄褐色から赤褐色に紅葉する、褐葉(かつよう)樹木の代表種です。
古くは槻(つき)の木と言われていたのが、中世から近世頃に「けやき」という名に変わりました(この名称変更についてはいずれ詳しく触れたいと思います)。西日本よりも東日本、特に関東地方と南東北の農村や住宅地に多く見られるのは、材が緻密で木目が美しく、主幹がまっすぐに伸び、成長も早いケヤキの優れた材木としての有用性に目をつけた江戸幕府が、江戸近隣の住民にケヤキの植樹を強く推奨したためと言われています。
また、戦後は都市や住宅地の並木道の植栽として盛んに植えられ、渋谷区の表参道や港区の欅坂のような都市だけではなく、立派なケヤキ並木をもつ町や団地が全国各地にあります。世界的に見ると、ケヤキの属するニレ科のセイヨウニレ(西洋楡 Ulmus glabra)はケルト語でエルム(elm)と呼ばれる聖なる木で、世界四大並木の一つとされているので、ケヤキが並木として愛されるのも当然と言えるでしょう。
最新の被子植物分類のAPG体系ではアサ科に分類されることになりましたが、もともとはケヤキと同じニレ科に属し、樹皮の質感や象の様な力強い根張り(地際付近の低幹)がケヤキと兄弟のようによく似ているエノキ(榎 Celtis sinensis)は、イチョウに優るとも劣らない鮮やかな黄葉種。目立って巨木化するため、街道の一里塚の目印の木ともなりました。丸くて赤い、見るからにおいしそうな実をつけることでも有名で、レンジャクなどの小鳥が実を好んで食べるために、ヤドリギの宿主としても知られています。ケヤキとは、葉がケヤキよりも厚くしっかりしていることで、容易に見分けられます。
コナラ(小楢 Quercus serrata)はブナ目ブナ科コナラ属の落葉高木で、日本の農村の基盤となる里山の構成樹木の主役です。かつては貴重な食料源となったドングリを大量に供給し、その枝や幹は火力の強い優れた薪炭(しんたん)材、シイタケの榾木(ほたぎ)となり、樹液や葉は多くの生物の食料となって豊かな生命の森をはぐくみます。太い枝がよく分枝する樹形は木登りしやすく、かつての腕白やお転婆もよくこの木で遊んだ思い出があることでしょう。
長さ7~10cmほどの、緩やかな鋸歯のある葉は、晩秋、オレンジから赤褐色に紅葉し、かわいらしいドングリの落果とともに、散策の目を楽しませてくれます。ちょっとした疎林にもよく生えている、全国的に身近な紅葉樹です。
江戸時代、享保年間に中国から渡来したサンカクバフウ(三角葉楓 Liquidambar formosana)は、フウ科またはマンサク科に属する高木です。「フウ」とは「楓」の漢音ですが、和訓では「かえで」、つまり「もみじ」の代名詞であるカエデと同じ文字になるのですが、いわゆるモミジカエデの仲間はムクロジ科なので、ややこしいのですがフウはカエデの仲間ではありません。
「三角」と名がつくように三裂した三又の葉が特徴。街路樹として、また公園の植栽にも盛んに植えられ、直立する雄大な樹形と、トゲトゲのある球形のかわいらしい集合果が印象的です。
モミジバフウ(紅葉葉楓 Liquidambar styraciflua)は、別名アメリカフウ、北アメリカ南部が原産で大正時代に渡来したサンカクバフウの近縁種です。モミジバフウは、サンカクバフウのような三裂のものから、五裂、七裂と、葉の形が樹の上部と下部で変化する面白さがあります。こちらも公園によく植えられていて、身近で探せば見つかる品種です。
そして両種とも、10月末ごろから紅葉し始めますが、その葉色は黄からピンク→オレンジ→赤→紫と次々に変化し、また色もくすまず鮮やかで、虹を見るような鮮やかさです。美しい樹形と面白いかたちの実、そして七色に変化する紅葉。秋はフウの樹の魅力が存分に楽しめます。
次回は、鮮やかな紅葉を見せるかわいらしい低木や、古代から蘇った針葉樹の落葉種、チューリップのような花をつけるあの街路樹などについて取り上げますのでお楽しみに。
(参考・参照)
植物の世界 朝日新聞社
樹木 富成忠夫 山と渓谷社