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千住博は1958年東京生まれ、東京藝術大学・大学院で日本画を学び、画家の道へ。1995年、第46回ヴェネツィア・ビエンナーレにて東洋人としてはじめて名誉賞を受賞し、その後もさまざまな賞を受賞、国内外問わず活躍の幅を広げてきました。現在も精力的に制作活動を行い、京都造形芸術大学大学院教授として後世の育成にも尽力しています。千住博と言えば「瀧」シリーズが印象深い方が多いと思いますが、今回の展覧会でも鑑賞することができます。スタイリッシュな画風は、今回の金剛峰寺襖絵を描くにあたり「和紙」で崖の表情を描くという新たな表現につながりました。千住は語ります。
「3.11という大震災があって、芸術というものは無力なんじゃないか?…略…ある日、傷ついた和紙がクチャクチャな状態でアトリエの片隅に転がっていて、その傷を見ていたら崖が見えてきた。傷を直視する中にこそ本当の美は在る。それは今の日本に限らず世界中の人達にとって、とても大切な発想だし、メッセージだと思うのです。」(公式パンフレットより抜粋)
そして、襖絵を描くにあたり空海との対話のために様々な本を読み、室戸岬に向かったあとに気づいたことは…
「個性などどうでもいい。…略…絵がなりたいように進めれば作品はできる。そんな大切なメッセージを、空海は僕に授けてくれた。」(公式パンフレットより抜粋)
展覧会初日に語られた印象的な言葉は「絵画はまだまだ進化する」というものでした。
東京生まれ東京育ちらしく「街を描くこと」がスタートだったという作品世界が、描くごとに町から離れていくのは、内面の変化と関係があるのでしょうか。初期の作品に今回出品されている《朝》 (1994年日本空港ビルデング株式会社蔵)があります。陰影や余白、日本画ならではの岩絵の具の特徴を生かした色彩が美しい作品は、「陰翳礼讃」という言葉を思い出させます。本展ではこのほかに、《湖畔に蜻蛉図》、《湖畔初秋図》(いずれも1993年作)が出品されています。この六曲一双の屏風絵は、同じ湖畔の風景ですが、見る者が物語を紡げるような作品です。《朝》と同様に、陰影が効果的に描かれていて、男女を対称的に配置しているのも面白い作品ですね。
ヴェネツィア・ビエンナーレで名誉賞を受賞してからちょうど20年後の2015年に《龍神Ⅰ・Ⅱ》がヴェネツィア・ビエンナーレの特別展示として出品されました。蛍光塗料を用いて、明るいところでは白い瀧が暗闇でブラックライトを当てると青く輝く、幻想的な作品は昼夜の変化を表現したと言います。夜の海が真っ暗中で迫ってくるように、ブラックライトで青く輝く瀧は吸い込まれていくような錯覚さえ感じます。こちらの作品だけ写真撮影が許可されていますので、記念写真を写す方が多いようですが、昼の白い瀧の前で撮影することをお勧めします。ブラックライトの時には人は影になって写りますので気を付けて下さいね。
作家の足跡を振り返るようにご紹介してきました。よくご存じの方も、日本画や千住博の作品に触れたことがなかった方も、楽しめる展示内容になっています。21世紀ならではの「日本の美」を堪能してください!
会期 2019年3月2日(土)~4月14日(日)
開場 そごう美術館(そごう横浜店6階)
開館時間 午前10時~午後8時
学芸員によるギャラリートーク 3月16日(土)午後2時から
※詳細はリンク先参照
出典・引用
高野山金剛峰寺 襖絵完成記念 千住博展 公式パンフレット