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「柿」はオレンジ色とも違う独特の「柿色」としかいいようがない魅力のある色ですね。柿は辞書によると有史以前から栽培されていたとあります。お店で売られている柿はすべて甘いものばかりですが、昔は渋いものしかなかったということです。木に生って赤くなった柿を取って思わずかぶりついてしまい、その渋さに顔をゆがめてしまった経験ありませんか? なんとも不味い二度と口にいれたくない味ですよね。柿の渋い成分は実は大変役に立つもので、搾り取って防腐剤として木材や紙に使われていたということです。
渋い柿ですが酒樽にいれてアルコールで渋味を抜いたり、皮をむいて日に干せば渋みは甘みに変わり美味く食べることができます。渋柿はあんがい簡単に甘くなるんですね。ここから「柿根性」ということばが生まれました。変わりやすい性格のことです。反対になかなか自分の考えを変えない頑固な性格をさすことばもあります。「梅根性」です。梅の性質をうまく使っています。梅の酸味は漬け物にしようが甘く煮ようが決してなくなりませんよね。それにしても「根性」という強いことばにかえって愛嬌を感じてしまいます。
初夏の頃漬けた梅は土用干しを経てそろそろ美味しい梅干しになっているころではありませんか。出回り始めた新米でおにぎりをつくって、晴れた日に近所の公園でピクニックをしたり、最寄りの駅から郊外へハイキングへ出かけるのも、ささやかですが今の秋を満喫できそうですよ。
暑さが去って寒くなるにはまだ間がある、そんな過ごしやすい秋の夜はまたお楽しみもたくさんありますね。ヨーロッパではオペラやコンサートのシーズンが始まります。それを目的に組まれたオーストリアやドイツへのツアーもよく見かけます。パンフレットを眺めながら想像の翼を広げて行ったつもりになる、これも秋の夜長の楽しい過ごし方のひとつ。ぽっとともる明かりのあたたかさを感じるのも秋の夜ではないでしょうか。「灯火親しむ」や「夜なべ」は秋の季語です。虫の音や秋の風を感じる時、夜の静けさがいっそう増すような気がします。こころが落ち着きなにかとじっくり向き合い没頭する時間を作り出してくれる、そんな不思議な力が秋の夜長にはあるようです。
「且つ忘れ且つ読む燈火亦親し」
相生垣瓜人
「さびしくて夜なべはかどりをりにけり」
山田弘子
音にあふれた現代の生活の中でいっとき、音を出す物を止めた時にあらわれる静けさを感じてみると、その静寂のなかに思いがけない安らぎや気づかなかった自分の気持ちを発見できるかもしれません。どんな秋の夜長を過ごしてみましょうか、とゆっくり考えるのもいいですね。
柿に栗、梨、ぶどう、林檎と秋はくだものが満載です。新暦の10月にあたる旧暦9月は長月といわれますが、ほかにも呼び名があります。稲の刈り取り時期から「小田刈月(おだかりづき)」、菊が咲き始めるため「菊月」、咲き残る夏の花や秋の草花、そして木々の葉は色をかえ染まり出すことから「色取月」とさまざまです。どれも自然とともに暮らしてきた人々の目の先のながめです。秋は田畑と山々にたくさんの実りがあります。長い冬にむけて食料をしっかり確保するという目的が第一にあります。また夏の暑さでよわった身体に栄養を与えるための実りとも考えられるでしょう。
晴れれば青空はどこまでも澄みわたり胸いっぱいに息をすいこんで穏やかな光を楽しみたくなります。静かに降りそそぐ雨音に耳を傾けながらに栗をむいたりするのもまた、今の季節らしい暮らしの味わいといえるでしょう。秋の実りをたっぷりといただき元気をつけて寒さに向かいましょう。