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夏新は秋新に比べ香りや味がやや劣り、通常、新そばとは秋新のことをいいます。
香りが高く味も格別……秋新の収穫は9 月後半から11月中といいますから、これからですね。
秋の新そばをもっと美味しく、そしてお洒落(しゃれ)に……いただけるよう、そばの魅力、正しい食べ方についてご紹介しましょう。
そばを今のようにそば切り(麺状のそば)で食するようになったのは、江戸時代に入ってから。それまでは餅(もち)や団子状のものを食べていました、
江戸っ子のそば好きは有名ですね。それは、上方のうどんへの対抗意識や、採れたての「新そば」を味わうことが初物好きの江戸っ子の好みにマッチしたようです。
もちろん、江戸っ子が登場する落語にもそばはつきもの。落語を演じる二大要素は、しゃべりと仕種(しぐさ)。特に、扇子(せんす)と手ぬぐいだけで表現するそばを食べる仕種は、一番の見せ場であり、見所。
そばをツルツルっと食べるところで客席から、わああ……と拍手があれば、落語家にとって「今日の高座は大成功」ということになるそうです。五代目・柳家小さん師匠の「時そば」は名人芸と言われていますね。
耳にしたことのある「引っ越しそば」とは、どういう意味でしょう? 引っ越した日にそばを食べる習わし、と思われてる方もいるようですが、そうではありません。それは、引っ越し先のご近所に二八そば(小麦粉とそば粉の割合が2:8の一般的なそば)を配ること。つまり、あいさつ回りですね。この習慣は江戸時代中期、江戸を中心に始まりました。
そば(=近く)に越して来たことにかけて「おそばに末永く」や、「細く長くおつき合いをよろしく」という意味合いのようです。
年越しそばの風習が根づいたのも江戸時代。これは日本の風習、文化として今も定着していますね。
では、なぜ、大晦日にそばを食べるのでしょう。これには、
・そばが他の麺類よりも切れやすいことから「今年一年の災厄を断ち切る」
・そばが細長いことから「長寿・延命を願う」
・金銀細工師が金銀の粉を集める際にそば粉の団子を使ったことから「金を集める縁起物にあやかる」
など、諸説あるようです。
どちらも江戸っ子らしい洒落(しゃれ)っけが漂いますね。もっとも、引っ越しでそばを配るのは、それが一番手軽で安上がりだから、というのが一番の理由という説も。これも江戸っ子らしいですね。
「藪」「更科」「砂場」──江戸時代に生まれ、現在も引き継がれているそばの御三家です。
どれも一軒のそば屋から始まり、兄弟や親戚、弟子などが暖簾(のれん)分けをして広がりました。由緒、格式を感じますね。そんなそばには、やはり、こだわりの作法、正しい食べ方というものがあります。最後にそれをご紹介しましょう。
手打ちそば屋に入ったら、
1、ざるそばを注文する。麦の味と香りが一番楽しめるのはざるそば。そば屋の店主も、ざるそばを注文されると通(つう)のお客だと思って身が引き締まる、とか。
2、ひと口めは、そばをつゆにつけずにそのまま食べてみる。目を閉じて、鼻に抜ける繊細な風味を堪能できれば、それはもう立派な「そば通」。
3、そばをつけて食べる前にそばつゆの濃さを確認し、どのくらいそばをつゆに浸したらよいかを確かめる。同時に、そばつゆのだしの味、香りも楽しむ。
4、薬味はそばつゆに入れず、適量をそばにのせて食べる。薬味をつゆに入れるのもNGではない。その際は、薬味を入れる前にそばつゆ本来の味も堪能する。
5、そばは一気に食べる。すするときは、音を立ててもNO PROBLEM! 途中で噛み切らず、一気にすする。めんつゆの器は、手で持ってOK。そばはすぐにのびてちぎれてしまうので、出されたら、おしゃべりはストップして5分ほどで豪快に食べきる。
6、残ったつゆの器にそば湯を注ぎ、適度にうすめていただく。
7、食べた後は長居せず、ささっと帰る。
そばを食べる前に酒を飲むことを「そば前」と言います。つまみは、板わさ→卵焼き→天ぷら……とさっぱり系から油っぽい系に移行するのがポイント。夏は冷酒、冬は熱燗。
つまみと酒を仕上げるタイミングでそばを頼み、5分ほどでそばを豪快に食べきって、後はそば湯を堪能する──「ひとりそば前」なら正味一時間程度。
そばは栄養価の高いヘルシーフード。今年の秋は、ふらりとそば屋の暖簾をくぐり、姿勢よく、粋に、新そばをいただく……のはいかがでしょう?