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春の繁殖期に産卵し、5~6月頃に孵化した雛は、1ヶ月ほどで親鳥と同じぐらいの大きさとなります。7月のこの時期には巣立ちの準備を始めて、飛び方を覚え狩りを学んでひと月もすると、親のもとから巣立ちます。最初のうちはたどたどしい飛び方だった若鳥の鷹も、何度も悪戦苦闘しながら練習するうちに猛禽類として成長し、独立するのです。
七十二候の元となったのは中国の太陰太陽暦・宣明暦ですが、こちらにも「鷹乃学習」と呼ばれる項目があります。鷹を放って野鳥などを捕える「鷹狩」は古来世界の各地で行われて、朝鮮半島を経由して日本にも伝わりました。『日本書紀』には、鷹による遊猟の記録が残されています。古代から鷹は、人間たちにとって大切な動物だったのでしょう。徳川家康も鷹狩を非常に好み、鷹狩は幕府の年中行事となっていたほどです。
俳句では、「鷹」だけでは冬の季語ですが、夏の鷹の様子を表した句があります。
鷹を飼っているとき、初夏の羽毛の生えかわる時に合わせて、鳥屋の中で自由に餌を食べさせて羽毛の変わるのを待ちます。「鷹の塒(とや)入」、または「鷹の塒籠(ごもり)」などの季語が残っており、その鳥屋の中にいる鷹が「塒(ねぐら)鷹」です。鷹狩り用の飼鷹は、塒に入ってあまり餌を食べなくなる習性がありました。鷹狩りが広く行われた江戸時代には、こうした塒を知る人も多かったのでしょう。
・塒鷹や野山の夢の閙(さわが)しき
〈巴静〉
・鷹に声なし雨にたえたる塒鷹
〈白雄〉
・呼ぶかひもなし翥(しょ)鷹の雲霞
〈也有〉
「翥」は、飛び立つ、羽ばたくの意味。羽毛の抜け変わる頃の鳥全体を指す「羽抜鳥」という晩夏の季語もありますが、いずれも近年では見かける機会も少なくなってしまいました。
鳥屋に放し飼いにされていた鷹も、完全に羽が抜け変わると鳥屋から出されて、羽遣いの訓練に入ります。寛永期の書物に、雛を鳥屋に入れて「羽を刷ひて物を撃たんの気生ずるならし」という記録があります。「鷹羽遣いを習う」「鷹羽を習う」の季語は、羽が生え変わった頃に行う鷹狩りの鷹の飛行の訓練のことですが、遠い古代からの「鷹乃学習」ともシンクロしているのでしょう。縁が遠くなった季語ではありますが、江戸の気配を運んでくれる俳句を探るのも、たまには楽しいものです。
・鷹の毛のかはる気色や猶(なほ)かろき
〈介我〉
・怠(おこた)らで日増す鷹の羽音かな
〈雪松〉
・鷹羽を習う熊野が見えてくる
〈松田ひろむ〉
<句の引用と参考文献>
正岡 子規 (著)『分類俳句大観』
角川学芸出版 (編集)『角川俳句大歳時記「夏」』