そろそろ大掃除にとりかからないと……。そんなことを考えている方も多いこの頃。風も水も冷たいですが、2017年にたまった汚れを落として、新たな年の幸せをもたらしてくれる「歳神様」を迎えたいものですね。そして、大掃除がすむと正月がやってきます。正月といっても単に日付が変わるだけのことなのですが、お正月はとにかくおめでたいもの。

テレビの正月番組でも落語がよくかかっていますが、今回は最近のテレビではなかなか聞くことのできない、暮を舞台にしたおめでたい噺を紹介しましょう。「御神酒徳利(おみきどくり)」です。

三宝に乗った御神酒徳利


さあ大変、家宝がどこかに行ってしまった!

江戸時代、日本橋のある宿屋さんでは暮の煤払い(大掃除のこと)にとりかかっていました。

掃除の最中、通い番頭(住み込みではなくて通勤する番頭さん)の善六さんは、一対の徳利が台所に放り出してあるのを発見します。

これは将軍家からいただいた大切な家宝。誰かが持って行ってしまったら大変と、そばにあった水瓶のなかに徳利を沈めておきました。昔は水道なんてありませんから、台所の大きな水瓶に水をためておくのが普通だったのです。

さて、家の主人が神棚にお神酒をあげようと、徳利を探したところ、どこにも見つかりません。なにか良くないことが起きる前触れではないかと、主人は青くなって、煤払いは中止。自分が水瓶に隠したことなどすっかり忘れてしまっている善六さんでした。

江戸時代の宿屋(京都・寺田屋)


デタラメ占いで、みんな大喜び

うちに帰ってから善六さんは、自分が徳利を隠したことを思い出しましたのですが、きまりが悪くて自分がやったことだとはとてもいえません。

ところで、善六さんのおかみさんのお父さんは占い師。おかみさんがいうには、

「うちの女房のお父さんは占い師でした。大掃除をしていると、家に古い巻物が見つかりました。そこには秘密の占いの方法が書いてありました」と、呪文を唱えながらごまかすことで、自分で徳利を見つけ出したら、いいじゃないか……。

善六さんは宿屋に帰って、いい加減な呪文を唱えて自分で徳利を水瓶から見つけ出すことに成功します(自分で隠したのだから見つかるのは当たり前)。そんな善六さんに、主人はもう大喜び。お祝いの宴会が始まりました。

善六さんもいい気になって酔っ払ってしまいます。

年末年始は飲み過ぎにご注意を!

ところが、その時にこの宿屋に泊まっていたのが大坂の大商人・鴻池善右衛門の支配人。

階下の宴会騒ぎを聞きつけたのでしょうか。「お宅の番頭さんは占いの名人だそうだが、うちのご主人の娘さんの病気を見舞ってやってくれないか。お礼は好きなだけ」というではありませんか。

その言葉を聞いて青くなったのは善六さんのほうです。徳利を見つけたのは自作自演で、もちろん占いなどデタラメなのですから……。

でも脳天気でいい加減な善六さんは「まあ、やってみるか。うまくいかなかったら途中で逃げてしまおう」と考えます。


できすぎの感じもしますが、気持ちのよさが魅力の「御神酒徳利」

そしてこの後、運命が味方して、旅の途中でももう一人を助けて、さらには大坂の娘さんの病気も治ってしまいます。もちろん、お礼もたっぷりもらいました。

ちょっとできすぎたようなところもありますが、とても気持ちのよい噺です。

この「御神酒徳利」は、昭和の大名人・六代目三遊亭圓生ほか、噺の音源をYouTubeで聞くこともできますし、年末の噺だけあり簡単な噺ではないのですが、昨今の噺家さんも趣向をかえていろいろ挑戦しています。気になる方は検索してみては。

── ピカピカになった家内で、おめでたい噺に耳を傾け、晴れやかに新しい一年の準備を始めましょう!

情報提供元: tenki.jpサプリ
記事名:「 おめでたい落語「御神酒徳利」を聞いて新年を迎えよう!