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1872年、日本で初めての鉄道が新橋-横浜間で開通しました。明治時代、文明開化を代表するできごとでしたが、ひとつ大きな問題がありました。それは、鉄道にトイレがついていなかったことです。当時の新橋-横浜間はノンストップで53分の所要時間でしたから、トイレなしでは、いざという時に困ってしまう人が出てしまう……ということが懸念材料とされていたのです。
しかし、開通した電車はトイレなし。案に相違してトイレなしの鉄道は、やはりいろいろな問題を引き起こしました。がまんできない乗客が鉄道に乗ったまま外に向けて用を足すという(これはきっと男性ですね、笑)、とんでもない行為が相次いだのです。耐えられないとはいえ、この行為は罰金に相当するものでした。
その後、さらなる悲劇が起こりました。鉄道は延伸され、より長距離の運行となりました。1889年、宮内省の肥田浜五郎氏が藤枝駅で途中下車してトイレに行ったところ、鉄道はすでに発車しかけていました。慌てて飛び乗ろうとした肥田氏は転落死というなんとも悲しい結末を迎えてしまったのです。そして、この政府高官の死によって、鉄道のトイレ設置を求める声が強まっていったのです。
数々の問題を受けて、1920~30年の間にようやくトイレ付き鉄道が運行するようになりました。特に、長距離を走る路線を中心に、鉄道各社はトイレ付きの車両を走らせるようになっていきました。
ですが、また新たな問題が浮上したのです。
それは、当時の鉄道のトイレが垂れ流しだったことに関係します。垂れ流しというこは必然的に線路に汚物がたまり、悪臭が発生します。衛生的にも大問題だ……ということで、この問題は「黄害」と名付けられます。その結果、鉄道の汚物処理は適切に行わなければいけないと法的に規制されるに至ったのです。
法的規制によって、鉄道のトイレ設備の技術は急速に加速していくことになりますが、そのひとつが、タンクに洗浄水と汚物をためこむ「貯留式」。あるいは、洗浄水をろ過してくり返し利用する「循環式」など。いくたびにわたって改良が進められ、鉄道のトイレは進化していきます。
そして、現在の主流は「真空式」と呼ばれるもの。圧縮した空気の力で吸引するため最小限の水量ですむことがポイントになっています。ここまで読んだ方はわかると思いますが、そう、流すときに聞こえる「ゴーッ」という勢いある音こそ、鉄道のトイレの進化の証だったのです。家庭のトイレでは聞こえないあの音は、さまざまな改良や創意工夫の賜物だったのですね。
様々な改良が重ねられ、今では長距離の移動も安心して乗車できる鉄道になりました。当たり前に機能するのはもちろんのこと、鉄道各社は乗客がより気持ちよく乗車できるようにトイレにさらなる改良を施しています。
関西と北陸を結ぶJR西日本の特急「サンダーバード」は、一部車両で身体障がい者対応トイレに温水洗浄機能付きの暖房便座を導入。さらに、2017年3月に運行を開始したばかりの小田急電鉄「ロマンスカー・EXEα」、こちらも多機能トイレに便座開閉ボタンをつけるなどより快適なものに進化。座席だけでなく、トイレも快適にという鉄道各社の配慮がうかがえる設備に進化しています。
―― 5月に運行を開始したばかりのJR東日本「四季島」をはじめ、豪華列車が続々と登場している近年。鉄道の進化とともにトイレもさらに進化していくかもしれませんね。