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冬になると北海道の街角で見かける砂箱。文字通り、袋づめされた砂が入っています。道外からの観光客には「冬に砂?」「道路に砂?」と思われるでしょうが、この砂は冬の市民生活にとって、安全を担う重要なアイテムなのです。
冬も本番になると、北国では街のあちこちにツルツルで危険な道路がたくさん現れます。歩くのが危険なすべる場所、車が登れない坂道など、命の危険さえも感じてしまうようなすべる道が多数ありますが、そんな場所にすべり止めとして砂をまくのです。
この砂は誰がまいてもかまいません。市民はもちろん、観光客の方も危険な場所を見つけたら砂袋を持ち帰り、積極的にまいてほしいと自治体でも推奨しています。
まき方のコツは、1ヵ所にまとめてまくのではなく、少しずつ広い範囲にまいたほうが効果的です。
砂袋には3kgほどの砂が入っているので、けっこうな重さですが、札幌などでは使用済みのペットボトル入りのものもあります。袋と違って持ち運びがしやすく、しかもまきやすいということで、ペットボトル入りの砂は好評です。
※砂袋の砂には凍結防止のため塩化カルシウムが混ざっている場合があるので、植物用の砂や猫のトイレの砂としては利用できません。
凍った路面のすべり止めとして、なくてはならない砂。でも、「砂」とはいっていますが、実は砂よりももっと大きな粒の「砕石」が入っています。20年ほど前までは、粒の小さいサラサラの砂を使っていましたが、これだと粒が小さすぎて氷に埋まってしまい、すべり止めの効果としては今ひとつでした。そこで、もう少し粒が大きい5mm以下の砕石にしたところ、氷に埋もれてしまうこともなく、より効果があがっています。
車道では、危険な箇所には、凍結防止剤(塩化カルシウムなど)のほかに、すべり止めとして焼砂や砕石が用いられています。しかし、砂をまくと、近年の排水性舗装がなされた道路では排水の機能を損なう可能性もあるため、最近では、時間がたつと水に溶けるようなすべり止めの開発が進められています。
ところで、北海道は砂糖の原料となるビートの生産地としても有名ですが、このビートから砂糖を生産する過程でできる残渣(ざんさ)は「ライムケーキ」とよばれています。なんともおいしそうな名前ですが、残渣、つまりは廃棄物です。北海道では、この廃棄物であるライムケーキを利用したすべり止め材の研究も行われていて、コスト縮減にもつながるため、実用化が待たれます。
〈参考:独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所 寒地道路研究チーム 寒地交通チーム、「凍結防止剤とすべり止め材について」〉
〈参考:独立行政法人農畜産業振興機構「てん菜糖副産物の有効利用~ライムケーキを活用した凍結路面対策の検討~」〉
雪が解けてアスファルトが見えてくると、すべり止めで活躍した砂は解けずに道路に残ります。冬にはツルツル路面から市民を守るために活躍した砂ですが、春になると逆に、この砂に足をとられてズルッとすべる危険もあります。
雪解けのころになると北海道では、自治体をはじめ、町内会や企業などが清掃ボランティアとして、道路のゴミの清掃をします。そしてそのときに、砂の回収をするところもあります。札幌では回収された砂のうち状態がいいものは、道路工事などにリサイクルされるそうです。
受験シーズン本番ですが、函館市内では合格祈願のお守りとして、雪道のすべり止めの砂を無料配布しています。
このお守りは、十字街交差点近くの専用箱の中に置かれています。4cm×5cmのポリ袋にすべり止め用の砂が2~3g入っていて、誰でも自由に持ち帰ることができます。砂は、学問の神様である菅原道真がまつられている北斗市の不来天満宮で祈祷を受けていて、ご利益があるように願いが込められています。この砂は、受験に“敗れる”ことがないようにと、チャックつきの丈夫なポリ袋に入っていて、約1800個用意されていますが、なくなりしだい終了です。
〈参考サイト:北海道Likers:つるつる路面の強い味方「砂箱」って何?〉
〈参考:北海道新聞 みなみ風2017年1月17日 11面 「受験生応援 滑り止めの砂、函館・十字街で今年も配布」〉
暖かい地方では、早咲きの桜や梅の便りが聞こえてきますが、北海道はまだまだ雪と氷に閉ざされています。解けては固まり、解けては固まりを繰り返した道路はミラーバーン。鏡のようにツルツルになっていて、車や人が通るのがとても危険な状態です。そんなツルツル道路の強い味方となるのが砂。受験生の皆さんはこの時期、雪道で決してすべることのないよう、気をつけて歩いてくださいね。