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そもそも北海道のように、冬になると屋根の雪が凍りついてしまうような地域では、瓦屋根の住宅はほとんどありません。カラフルなトタン屋根が主流です。よく、本州以南からの観光客が飛行機に乗って北海道の上空を飛ぶと、色とりどりのカラフルな屋根に驚くという話を耳にすることがあります。瓦屋根にはない、色鮮やかな屋根が並ぶ風景は、さぞかし目を見張ることとでしょう。
傾斜のあるトタン屋根は滑りがいいので、屋根に積もった雪が落ちやすいのが特徴です。住宅が圧迫されるほどの大量の雪が屋根に積もる前に、太陽の熱などで滑り落ちてくれるので、ひと昔前まではカラフルなトタン屋根が主流でした。
雪国では冬になると、屋根には数十cmもの雪が積もります。積もった雪は解けては冷え、解けては冷えてを繰り返し、屋根側の雪は分厚い氷と化してしまいます。春先に気温が少し高くなってくると、屋根にへばりついている分厚い氷がゆるくなり、うず高く積もった雪が、氷とともに一気に落ちてきます。屋根の雪は、地面に積もったフワフワのやわらかい雪と違って、ガッチリと固くなっているので、それが頭の上に一気に落ちてくると…。
事実、毎年、屋根の雪の下敷きになる事故が多数発生し、死亡事故も絶えません。消防庁のまとめによると、平成27年度、屋根の雪下ろしや除雪作業中の死者は、65歳未満が4人、65歳以上が19人、合計23人で、特に高齢者の比率が多くなっています。このように、屋根に上がって雪下ろし中に転倒し、そのまま雪や氷とともに地面に落ちたり、写真のような固い雪と氷の下敷きになったりする事故が、毎年繰り返されています。
重大な事故が絶えない屋根からの落雪や、社会問題化する隣家への落雪。雪が多い地方では、毎年毎年、屋根から落ちる雪との戦いが続いています。屋根からの雪で悩まされるのなら、いっそのこと、屋根から雪が落ちなければ…。
そんな発想で生まれたのが、無落雪屋根です。近頃では新築の住宅を見ると、テレビ記者が驚いたような平らな屋根が多くなってきました。瓦屋根が主流の地域に住む人から見たら、庇のない直方体の家は、家らしく見えないかもしれませんね。
雪国では、小屋根や庇が多い家だと、それだけ、ツララができる箇所が多くなってしまいます。ツララは長くなると、落ちたときに窓ガラスが割れる危険があるので、長く成長する前に、棒でつついて強制的に落とします。「つらら落とし」や「雪落とし棒」などの商品も販売されているほど、ツララを落とすのは雪国の重要な“ミッション”です。そのため、ツララができない直方体の家は、雪国の人にとっては、まさに、ありがたい構造なのです。
無落雪屋根は、その構造で3つのタイプに分けることができます。
傾斜のある普通の屋根に雪止めを取りつける「勾配屋根方式」と、屋根を平らにした「フラットルーフ方式」、そして、屋根の中央部分にスノーダクトを設置している「スノーダクト方式」の3タイプです。
最近の新築住宅で多く見られるのが、「スノーダクト方式」です。屋根は普通、外側に向かって逆V字の形、いわゆる三角屋根の形をしていますが、スノーダクト方式は、今までの屋根の常識を覆し、中央がくぼんでいるV字型をしています。下から見上げると、一見、平らな屋根のように見えますが、家の中央に向かってV字型にくぼんでいて、屋根に積もった雪や氷が、太陽光などで自然に解け、その水が中央に向かって流れる、というしくみです。水はダクトを通り外に排出されます。
このV字型の屋根により、屋根に上っての雪おろしや、屋根から落ちた重たい氷雪を運ぶ手間、隣家への落雪、そして何よりも落雪事故が解消されます。
ただし、ダクトの排水口のメンテナンスがおろそかになると、解けた水が流れるところを失い、住宅に漏れてくる場合もあります。そのため、最低でも年に1回は、排水口がつまらないように、枯れ葉などを取りのぞく掃除が必要となります。その際には、住宅の外壁に取りつけられたハシゴから屋根に上ります。
今年は冬の訪れが早く、雪国ではすでに雪との戦いが始まっています。毎年、屋根の雪下ろしでは気をつけるよう、自治体などで注意喚起されていますが、屋根の雪が原因となる事故は絶えません。大雪が降り、空家の屋根から大きくはみだしている雪庇(せっぴ)を見ると、恐怖すら感じます。そんな屋根の雪との戦いを一掃してくれそうな無落雪屋根。水が漏れたり、雪の重みでドアが開かなくなったりなど、デメリットの声も聞きますが、毎年、屋根に上って雪下ろしをする労力と比べたら…。
雪国の屋根の構造は年々進化しています。その進化によって、少しでも落雪事故が減ることができれば…。そんなことを考えてしまう季節が始まりました。