はじめに
© Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office
1980年代から一線で活躍し、世界的にも有名な建築家の隈研吾さん。この建物素敵だな、 と思ったら、これも、あれも隈研吾さんが手掛けている……。瞬く間に生み出されるように感じる建物たち。今回から2回にわたり、2019年~2020年に隈研吾さんが手掛けた国内の名建築をご紹介します。
Text:アントレース
茶葉を育てるプランターがモチーフ。「さかい河岸レストラン 茶蔵」(茨城)
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のどかな風景が広がる利根川沿いに建つ「さかい河岸レストラン 茶蔵」。1859年の横浜開港後、日本で初めてアメリカへ輸出された「さしま茶」と、それを貯蔵していた蔵をテーマにしたレストランです。1階にビュッフェスタイルレストラン「さかいキッチン」、2階に「さしま茶サロン」「さかい鉄板」があり、気分や好みに合わせて選べます。外観意匠のモチーフにしたのは茶葉を育てるプランター。茨城県産の杉材を用いて、動きのあるデザインに仕上げられています。
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ロフト状に2階を設え、全面ガラスから明るい陽光が差し込む開放的な店内。カウンターや壁にはヴィンテージの茶箱を置き、天井にはさしま茶で染めた布を吊るすなど、ナチュラルな風合いにこだわった空間づくりが魅力です。
◆さかい河岸レストラン 茶蔵
住所:茨城県猿島郡境町1341-1
営業時間:【さかいキッチン】11:00~15:30、土・日・祝日11:00~17:00
【さしま茶サロン】11:00~17:00(LO16:30)
【さかい鉄板】17:00~22:00
定休日:12月31日、1月1日、2月と9月の第2月曜日
木造の味わいを活かしながら地域交流の場へと生まれ変わった「富岡倉庫3号倉庫」(群馬)
©Kawasumi・Kobayashi kenji Photograph Office
かつて絹の町として栄えた富岡市には、明治から大正期に建てられた繭や生糸を保管した木造の「富岡倉庫」があります。写真左に建つ木造の「3号倉庫」をカーボンファイバー(炭素繊維)で耐震補強し、壁や屋根といった既存のデザインを温存。木の温かみを感じる地域交流の場としてリニューアルしました。
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隈研吾さんがこだわったのは、木造建築の味わいをいかに残すか。本来であれば鉄材を用いて耐震補強しますが、それでは見た目を損なってしまううえに鉄の重量でかえって耐震性能を弱めてしまうという矛盾も。そこで、鉄の1/20の重量で強度の高いカーボンファイバーをあやとりの要領で張り巡らせ、建物を内部から補強しました。店内には産地にこだわった食品や地元産の採れたて野菜が並び、ギャラリースペースには厳選した衣料品や食器も。キッチンスタジオを完備し、料理教室やカフェとして活用されました。
れんが積みの1号倉庫も、今年「富岡製糸場と絹産業遺産群」の総合ガイダンス施設「世界遺産センター」として開設されました(※3月27日開館予定だったが当面延期)。
◆富岡倉庫3号倉庫
住所:群馬県富岡市富岡1450
営業時間:9:00~19:00、日・祝日 9:00~17:00
定休日:1月1日~3日
崖の緑の上に浮かぶ“ヒノキの雲”。「ミクニ伊豆高原」(静岡)
2019年10月、伊豆高原駅前にお目見えしたレストラン「ミクニ伊豆高原」。貴重なアラスカヒノキの無垢板を組み上げた巨大な屋根がこの店のシンボルです。建物は、京都の清水寺のように急斜面の上に建築を浮かせるように建てる手法で、その上に最長で11.4mのヒノキの板を組んで屋根を浮かせています。崖の緑の上にヒノキでできた雲のような建築を浮かせるイメージなのだとか。
©Kawasumi・Kobayashi kenji Photograph Office
ナチュラルな色合いの床材とヒノキの香りに包まれた店内では、近海で獲れた新鮮な魚介類や地産の野菜を使った地中海料理を堪能しましょう。料理長が東京四ツ谷にある「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフを務める三國清三さんというのも話題になりました。また、建物の外周をぐるりと大きな窓が囲むデザインになっていて、客席からは伊豆の絶景や雄大な相模湾の眺望を大パノラマで楽しむことができます。
◆ミクニ伊豆高原
※6月1日~6月12日完全予約制、6月13日~通常営業
住所:静岡県伊東市八幡野1172-2
営業時間:11:00~20:00(LO19:00)
定休日:不定休
アクセス:伊豆急行線伊豆高原駅より徒歩約1分
Photo © J.C. Carbonne
◆隈研吾
1954年生まれ。東京大学建築学科大学院修了。2009年~2020年3月、東京大学教授。2020年4月より東京大学特別教授。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。これまで20カ国を超す国々で建築を設計し、国内外で様々な賞を受けている。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案している。また、コンクリートや鉄に代わる新しい素材の探求を通じて、工業化社会の後の建築のあり方を追求している。
おわりに
木の魅力を最大限に活かした、ナチュラルな質感であたたかみのある隈研吾さんの作品はいかがでしたか? 次回も感性を刺激する隈さんが手掛けた各地の建築物をレポートしますので、お楽しみに!