はじめに
2018年4月1日に運行1周年を迎えた「四国まんなか千年ものがたり」。同じく四国旅客鉄道が運行している観光列車「伊予灘ものがたり」が潮風を感じる爽やかな雰囲気なら、四国まんなか千年ものがたりは大人の物見遊山をイメージした風格ある空間で、また違った魅力があります。車窓から見える里山の魅力と四国の食をゆったりと楽しめる観光列車の旅はいかがですか?
text&photo:猫珠深鈴
祝・運行1周年!「四国まんなか千年ものがたり」に乗ろう
「四国まんなか千年ものがたり」は、JR四国が新しく運行を始めた、豪華な食事も楽しめる観光列車です。香川県の多度津駅から徳島の大歩危駅(おおぼけえき)まで、ひたすら山の中を走り抜け、大歩危・小歩危峡や吉野川など、渓谷の眺めを楽しめます。
すでにかなり人気があるため、予約は早めがおすすめ。乗車券+指定席券のみでも乗車は可能です。食事を予約する場合、食事予約券は4営業日前で締め切られるのでご注意を。
始発の多度津駅へ
今回、私は香川県多度津駅から徳島県大歩危駅に向かう下り列車「そらの郷紀行」の予約をとりました。
すでに四国まんなか千年ものがたりは駅から見えるところに停車中で、車両は真新しく、旅への期待が高まります。
乗車が始まり、車両に一歩足を踏み入れた途端、私は車両から漂う独特の匂いに気づきました。木のような……どこか懐かしく感じる香りです。他にもいくつかの観光列車に乗車してきた私ですが、車両に「香り」を感じるという経験は初めて。1両目「春萌(はるあかり)の章」の指定席に着席したとき、その香りの正体は「これかな」と思いました。
そう、このメニュー表。表紙が畳表でできています。乗車する際は、ぜひ車両に乗り込む瞬間の「におい」にも少し注意を向けてみてください。
明るく爽やかなダイニングルームという印象のある伊予灘ものがたりに比べ、四国まんなか千年ものがたりは、どこか田舎の古民家を思わせるような、落ち着きのある空間。都会の喧騒に邪魔されない、落ち着きのある一軒家で、ぼんやりとした時間を過ごせる、そんな気分になれました。
天井は少し低く、人によっては圧迫感があるかもしれません。しかし、それがまた日本家屋らしい感じで「ここにずっといたい」と思えました。天井は鏡面ステンレスで、座席の様子がきれいに映り込んでいます。
こちらは2両目の「夏清の章」「冬清の章」。他の車両と違い、横一列にソファー席が並ぶ座席構成で、他の車両に比べるとワントーン明るい印象です。テーブルに置かれた小さな花瓶の緑がまた良いアクセント。2両目にはバーカウンターがあり、ここで買い物などもできます。
て、多度津駅から乗車して30分で琴平駅(ことひらえき)に到着です。ここには、「四国まんなか千年ものがたり専用待合室」があり、乗客はしばらくの間時間を過ごします。食事を予約していた乗客は、ウエルカムドリンクと食事メニューの中にある「季節の温かいスープ」を受け取り、小休憩です。
事前に車内でウエルカムサービス引換券とメニュー表が配られます。ウエルカムサービス引換券を忘れないようにして専用待合室へ向かいましょう。
食事のクオリティ高し!旬の地元食材をぜいたくに使った料理
琴平駅から戻ってくると、いよいよ食事タイムの始まりです。陶器でできた重厚な感じのお重の蓋を、アテンダントさんが開けてくれます。
左上:讃岐牛のローストビーフ グレービーソースのジュレ/右上:タコとキノコ、ナス、トマトの軽い煮込み ジュレかけ/左下:瀬戸内真鯛とキノコのテリーヌ/右下:香川県産若鳥のスパイス焼きなど4種類の料理盛り合わせ
すると、中には4分割された区画にそれぞれ小皿がセットされていて、野菜から肉に魚など種類豊富な地元食材を楽しめる料理が丁寧に盛り付けられていました。
タコや鯛は、瀬戸内海では有名な海の幸。秋に旬を迎えるナスやキノコ類もしっかり押さえてあって季節の恵みをそのまま味わえる内容です。特に私が気に入った料理は「香川県産若鳥のスパイス焼きなど4種類の料理盛り合わせ」のひとつであるオリーブ豚と紫キャベツのブリゼ。
見た目は他の3皿に比べて少し大人しい印象なのですが、実際にかみしめると食材の味わいがしっかりと感じられて感動モノ。
このタイミングで冷製料理が供されるのには意味があります。というのも、この料理を楽しんでいる間に、車窓でもメインディッシュと言えるような景色が広がっているためです。料理を楽しみながら、車窓も眺めるという忙しいときなので、冷めたままでおいしい冷製料理が合うんだなと感じました。
料理とともに注文したいドリンクは、先ほどのメニュー表から選びます。このメニュー表、表紙だけでなく中身もすごく充実していて、車内販売のメニューもかなりバラエティ豊か。
食事を予約しなくても、軽食やお酒のつまみ、デザートなどがいろいろと用意されていてとても充実しています。地酒の飲み比べセットも魅力ですが、今回は今小町の梅酒ソーダ割とすだちサイダーをチョイス。
すだちサイダーは、徳島県産をふんだんに使って独特の爽やかさ。今小町の梅酒は非常に貴重だとのことですが、甘味が上品で飲みやすかったです。がっつり飲みたい方からノンアルコールドリンクを楽しみたい方まで、かなり幅広いニーズに応えられそうなメニューはさすがだと感心!
追加注文のレシートを挟むフォルダーも、木製で凝っています。古民家風の高級レストランという感じがして、非日常な雰囲気を感じさせる小物づかいだなと感心しきり。
時折トンネルの中も通ります。その際は、真っ暗な中で壁面に取り付けられた間接照明とテーブルの行燈がより強調されて、レトロなインテリアがより一層引き立って、ただシャッターを切るだけでもフォトジェニック。
こうして食事を楽しんでいると、いよいよこの鉄道旅でも圧巻の眺めが見えてきます。
秘境駅:坪尻駅の途中下車からのメインディッシュ
冷製料理が食べ終わるころ、途中下車してもらえる秘境駅、坪尻駅に到着です。車では行くことができず、通っている電車の本数も少ないため訪れにくい、近年注目のスポットです。
坪尻駅ではスイッチバックを見ることができ、途中下車タイムが終了するとともにメインディッシュタイムに。讃岐牛入りハッシュドビーフを、月桂樹の香りを利かせたサフランライスとともに堪能します。
温かい料理と冷たい料理の緩急の付け方が心憎い! 滋養たっぷりのハッシュドビーフは濃厚な味わいで、ちょうど少し冷えた体と心を温めてくれる一品です。量もちょうど良かったのか、食べ終わる頃にはかなりお腹がいっぱいになりました。
クオリティの高い車内販売などを楽しむ
食後のコーヒーが出てくる前後、ちょうど阿波池田駅での途中下車と特産品販売の時間が訪れます。途中下車では、果実酒2種にレモンケーキを購入しました。
残りの時間は、車内販売で気になったデザートや軽食を堪能することに。食事のコースを締めくくるコーヒーは、2種類の小さなお菓子付き。これに加えて、季節のケーキ(栗のケーキ)も注文。2種類のフルーツソースやココア、生クリームまで添えられていて、味の変化が楽しめる一品で、ふんわりとした軽い食感だったのであっという間に完食しました。
こちらは「ご当地オープンサンド」。オイルサーディンにピンクペッパー、パンにはガーリックと贅沢な味わいで、かなりのボリュームです。
駅でのお見送りもいろいろな形で行われます。阿波川口駅では、狸伝説にちなんだ着ぐるみを来た方々が出迎えに。このお出迎えを受けたあと、大歩危峡を通って終点の大歩危駅に到着します。
里山の魅力をフルに満喫できる鉄道旅
2時間半の里山の旅は、風景、食事、もてなしなどのサービス面、どれを取っても素晴らしかったです。サービスレベルは、人気の高い伊予灘ものがたりと同レベルに感じました。フード関連も、料理そのものクオリティだけでなく、サーブのタイミングも良く、おいしい状態で堪能できます。車窓の眺めも思った以上に変化があり、2時間半はあっという間。これからさらに人気が出てますます予約が取りにくくなるかも、と予感させる旅でした。里山の魅力をさまざまな形で感じられる、大人の遊山を楽しみに、四国まんなか千年ものがたりに乗る旅にでかけませんか?
◆四国まんなか千年ものがたり
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