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サスペンションとはなにか


固定懸架式サスペンション=リジッドサスペンションの場合は、自由度の定義が異なります。左右輪が同時に上下できる自由度と、左右輪が逆に動くことができる自由度、この2つの自由度を持っていないとリジッドサスはリンク機構学的に成立しません。


TEXT:福野礼一郎(FUKUNO Reiichiro)

 サスペンションの決定的真相は「自由度の法則」だ:その1からその8にかけて独立懸架式サスペンションの自由度についてお話ししてきました。

独立懸架式サスペンションの定義:「タイヤに1自由度(の運動)を許容するリンク機構」である

 ここまであえてしつこく「独立懸架式」と書いてきたのは、固定懸架式サスペンション=リジッドサスペンションの場合は、自由度の定義が異なるからです。




 リジッドサスペンションとは、左右のタイヤ+ハブ+ハブキャリヤが機構学的に連結しているサス形式のことです。


 リジッドサスの場合、左右輪が同時に上下(=ストロークが「同相」)できる自由度と、ロール時や縁石に片輪を乗り上げたときのように左右輪が逆に動く(=ストロークが「逆相」)ことができる自由度、この2つの自由度を持っていないとリンク機構学的に成立しません。



リジッドサスペンションの定義:「左右タイヤに2自由度(の運動)を許容するリンク機構」である




 あまり難しく考えなくても「独立懸架サスペンションの場合は片側のサスで自由度1なのだから、左右輪が連結してセットになってるリジッドでは左右合計で2自由度なのはあたりまえ」と直感的に受け取っていただいてもいいのでは、と思います。




 早速、現在のFF車用のリジッドサスの代表選手であるトーションビーム式アクスル、略してTBAの自由度を計算してみましょう。サスを見たらなんだかんだ言う前にともかくまず自由度の計算、これが正しいサス・オタクのあり方です(笑)。




 現在のTBAの主流は、左右輪を繋ぐ「ビーム」とよぶ部材がトレーリングアームの中間に位置するタイプで、TBAの中で「中間ビーム式」「カップルドリンク式」と分類している形式です。


 ここでは中間ビーム式TBAと呼びます。

 自由度の計算方法は独立懸架式の場合と同じです。独立懸架の場合は以下のプロセスでした。

①サスの構成要素から総自由度を算出する


②ピン支持部分では「3自由度」を引く


③軸支持部分では「5自由度」を引く


④両端がピン支持のリンクでは軸回転を引く


⑤ストラット式は特殊なカウントと計算を行う





 リジッドサスの場合⑤はでてきませんが、サスの形式によっては②も③も④も登場します。

中間ビーム式TBAの自由度の計算

①サスの構成要素から総自由度を算出する


 TBAでは左右のトレーリングアームと中間部にあるビームは溶接されて一体構造になっており、これがハブキャリアに締結されています。


 つまりタイヤ+ホイール+ハブキャリア+サス全体がまとめてひとつのサス要素です。


 サスペンション機構学的にいえばそれ以外にサスを構成している要素はありません。


 構成要素は1つ、サスが有する総自由度は6です。

構成要素:1(総自由度6)



②ピン支持部分では「3自由度」を引く


 TBAにはピン支持部はありません。



③軸支持部分では「5自由度」を引く


 TBAは車体に対して左右それぞれの回転軸で取り付けられています。これを「左右の取り付け部を結んだ仮想軸周りを回転してストローク作動している」と考えます。




▼は左右輪が同相でストロークしている場合の模式図です。このとき作動が生じるのは左右のマウントを結んだ仮想軸周り。なので「サス全体が軸支持である」と考えることができます。

というわけなので総自由度から軸支持1ヶ所=5自由度を引きます。

総自由度6- 軸支持5=残自由度1




④両端がピン支持のリンクでは軸回転を引く


 中間ビーム式TBAには両端がピン支持のリンクはありません




 中間ビーム式TBAの計算結果、残自由度は1になりました。




 なんとさっそくリジッドサスペンションの定義:「左右タイヤに2自由度(の運動)を許容するリンク機構」であるという定義に合致しないリジッドサスが登場してしまいました。




 考えてみればわかりますが、このサスはどう見てもぱたぱたと左右輪同相にしか動けない構造です。自由度1しかないのも当然です。




 サスペンションの決定的真相は「自由度の法則」だ:その4に、過拘束サスペンションはどこかに逃げ道があるという原則がでてきましたね。


 リジッドサスの場合も同じです。

中間ビーム式TBAの場合は、左右を連結しているビーム、実際にはU字型やV字型、パイプを潰した断面などの「クロスビーム」とか「ビーム」と呼ばれる部位が、「曲がりつつねじれる」ことによって、左右輪が逆相にも動くよう設計しています。




 ランフラットタイヤの普及によって、中間ビーム式TBAが隆盛した大きな理由である床下スペースの確保というメリットが薄くなり、Cセグメント以上のサイズのFF車では独立懸架式のマルチリンク(主力はサスペンションの決定的真相は「自由度の法則」だ:その8で紹介したトレーリングアーム+3リンク式)への移行が進みましたが、ハイブリッドやEV化でバッテリーのためのスペースが要求されるようになったこともあって、Cセグメントでも中間ビーム式TBAが復活してきています。

第11回 サスペンションの決定的真相は「自由度の法則」だ:その9では中間ビーム式TBAの利害得失を解説します。

中間ビーム式トーションビームアクスル( TBA)

構成要素:1(総自由度6) 軸拘束「-5」×1ヶ所 残自由度「1」


*ビームのねじれ/曲げ変形によって2自由度を確保。逆相では斜めの仮想軸上をセミトレのように回転しながらストロークし、旋回外側輪にネガティブキャンバーがつきます

中間ビーム式TBAの作動


左右輪が同時に上下する同相の場合:リジッドのセオリー通り、対地キャンバーが変化せずバウンド/リバウンドする


左右輪が逆に動く逆相の場合:セミトレーリングアームのように動いて旋回外輪側にネガティブキャンバーがつく
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