パックラフト、またはトレックラフト(以下パックラフト)と呼ばれるスポーツをご存知だろうか?その名の通りボートを担いで山や渓谷へ登り、渓流をボートに乗って下りてくるスポーツである。今回は、スズキ・ジムニーにnortik TrekRaft EXPEDITIONを積んで、パックラフトを楽しんでみる。
TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
吾輩はスズキ・ジムニーである。1986年の生まれで、型式はM-JA71Cだ。金属のルーフもエアコンもない、切替え式のパートタイムの四輪駆動車である。錆も進み、あちこちが凹んでいるので、ゆっくりと余生を送ろうとしていたが、週に1回、アウトドアフィールドに出ることとなる。
パックラフト、またはトレックラフト(以下パックラフト)と呼ばれるスポーツをご存知だろうか?その名の通りボートを担いで山や渓谷へ登り、渓流をボートに乗って下りてくるスポーツである。
登山のアイテムが軽量を求められるのと同様、クルマが入れない場所にボートを担いでいくので、当然軽量が求められる。また、ラフティング時に岩に擦れてエアが漏れては命に関わってしまう。丈夫で軽い素材が求められるのだ。数社、このボートを製造販売している会社があるが、ほとんどのパックラフトの重量は3kgを下回っている。ちなみに軽量に作られた木造カヌーは約18kg、2馬力エンジンが搭載できるゾディアックタイプのボートはアルミ製の底板を含めると40kgを超えてしまう。いかにこのパックラフト用のボートが軽いか、理解して頂けたかと思う。当然片手で持ち上げられて、女性でも軽々と運べる。新素材を使った優れものだ。
パックラフトのアイデアで、特に驚かされるのがポンプバックだ。普通のポンプは足で踏んでエアを送り込むか、もちろん電動式であるが、一度に多くのエアは送り込めない。その上に大きくかさ張り、重量もある。その点ポンプバックは薄く、圧力をかけられないが、一度に低い気圧のエアを送り込める。
ポンプバックでボートを膨らますには、他のポンプと同様にポンプバックのエアの出口をボートのエアの取り入れ口に繋げておく。
ポンプバックの空気の取り入れ口は、防水バックの開口部と同じ構造になっているので、ポンプバックの中に空気を容易に閉じ込められる。風があれば吹き流しのようにエアを入れられるし、なければ揺さぶってエアを入れる。
その後、手を使いポンプバックを絞り、ボート本体にポンプバックの中のエアを送り込んでやる。例えばポンプバックは一度に20ℓを送り込めるとする。これに対して人の肺活量は、男性で約4ℓ、女性で約3ℓほどだ。 普段の呼吸においては、1回の呼吸で、人はほんの約500mℓを換気してるに過ぎない。ポンプバックは軽量でかさ張らず、非常に楽にボートを膨らます事ができるアイテムだ。
ある程度、ポンプバックでエアをボート本体に送り込んだら、最後は人の肺で圧を掛ける。もし最初から人の肺を使ってボートを膨らましたら、もう川を下るどころではなく、その時点でギブアップとなると思う。
ボートは膨らました後でもポンプバックは用済みとはならない。ポンプバックは空気を漏らさないようにできているので、防水バックの役目も果たす。ただし、空気の吹き出し口のキャップがねじ込み式ではないので、あまり圧を掛けた空気で密閉することはできない。パソコンやカメラ等ではなく、多少濡れても良いキャンプ用品程度にしておいた方が無難だろう。
シートももちろんエアで脹らますタイプだ。こちらはポンプバックを使わず、人の肺で膨らます。息を吹き込み、逆流を防ぐにはホースを折って留める。最終的に付属しているキャップで留めるのだが、まったく空気の流出はない。ファルトボートのクレッパーのサイドの空気室もこのタイプだ。シートだけでも2気室追加となるが、ボート自体は1気室なので少しでも浮力体が別に備えられるのは安心感が増す。
乾電池式のエアポンプも使えるかどうか試してみた。ボート本体はアダブダーなしでエアを入れられる。シートには最小のアダブダーがマッチした。ただし、このタイプのエアポンプもボート本体やシートも、それだけで使用できるほどの圧は掛けられないので、最後は人の肺でエアを入れる。
このnortik TrekRaft EXPEDITIONは他のパックラフトと大きく違う装備がある。本体の左右にファスナーがあり、そこがカーゴスペースになっている。ここに重量物を入れると、ボートの上に荷物を重ねて積むよりも重心は下がる。また、ペットボトル等にエアを入れて収納すれば、もしも岩等で本体が破損しても、ペットボトルが浮力体の役目を果たす。ライフジャケットと抱えられる浮力体が確保できればより安心である。
違う使い方として一本は飲料水、もう一本はエアという使い方も出来る。ただし、ボートを膨らます前に入れ込み、ファスナーを閉じておく必要があるので、水上で気軽にポケットから物は出せない。上陸して本体のエアをある程度抜いてからということになる。
さぁ、パックラフトのテストだ。たった3kgしかないので、片手でも楽に運べる。それよりも、軽さが原因で風船のように風で飛ばされてしまいそうで心配ではある。
使用するパドルは大手通販サイトで買った最安値の2分割。4分割のパドルもあるので、収納を考えるとそのほうがよさそうではある。
またパドルのスペアは持ってはいけないので、パドルが流されたり沈んで回収不能になると、身動きが取れなくなる。パドルは必ず身体にコードで繋いでおく。もちろん、パックラフトと自分自身も繋いでおく方が良い。
ではパックラフトがどんな物なのか静水域で試してみることにする。基本的に川を下るのが目的なので、直進性は望めない。パドルで漕ぐと舟は左右に船首を大きく振る。直進性を保つためのキールがないからだ。これは木製カヌーも同じではある。
パックラフトのパドル使い方は、漕ぐが主な目的ではなく川の流れに乗り、舟が回転してしまうを防いだり、岩に激突するのをパドルで押さえるのが目的だ。風にも決して強いとはいえない。当日はそれほど風が強くはなかったが、積載物のバランスが重要で、そこをクリアすれば快適な川下りとなるはずだ。
パックラフトの性格が理解できた上で、今年の夏の夢が広がる。体力的に登山とまではいかないが、緩やかな川で流れに身を任せてみよう。軽量のキャンプグッズも重要なアイテムになる。テントはワンウォールのゴアテックス、マットはエアタイプで収納が小さくなる物。シュラフはフリース素材で良いだろう。少し贅沢だが、小さな焚き火台もあると楽しいにちがいない。
また、パックラフトの楽しみ方として、川下り目的としなくても、軽量、省スペースなので、常時クルマに積んでおくことができる。たまたま素敵な水辺や湖に出会ったら、そこからすぐに舟を出す。そんな魅力もパックラフトは備えている。