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【海外技術情報】アウディ:バーチャルリアリティと3Dスキャン;デジタルに計画された『e-tron GT』の生産


アウディ『e-tron GT』は物理的なプロトタイプなしで完全に生産が計画された最初のアウディ市販車だ。それを可能にしたのは、3Dスキャン、機械学習プロセス、仮想現実などの複数の技術革新の適用である。作業手順を含めた従業員のあらゆる組み立てプロセスは、実際の対応物を細部までモデル化する仮想空間でテストされ、最適化された。


TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

仮想計画はどこで使用され、なぜ3Dスキャンが重要なのか?

 一般的にニューモデルを製造する従来のプロセスでは、様々な物理的なプロトタイプが使用される。車両のプロトタイプは、初期の計画段階で、手作りの部品を使用した1回限りのモデルとして製造される。これには時間とコストがかかる。組立作業計画では、このプロトタイプを使用して後の生産プロセスを定義および最適化する。生産プロセスの定義とは……従業員の仕事は何か? 従業員が部品に最適にアクセスするには、部品をどこに配置すれば良いのか? 従業員は自分で部品を持ち取り付けることができるのか? 彼または彼女は、それをするためにどのように動く必要があるのか? 他の部分が邪魔にならないか? どのようなツールが必要なのか? といった事柄を確定することである。




 ところがアウディ『e-tron GT』の組立作業計画では、これら全てが完全に仮想世界で導き出され、回答された。すべての工程と作業は、仮想現実を使用してデジタル空間でテストされた。仮想計画の目標は、生産中にすべてのプロセスが完全にメッシュ化され、ラインに沿った一連の生産活動がシームレスに調整された状態にすることである。これには、生産に関わるすべての詳細を正確にモデル化して、計測する必要がある。ここで3Dスキャンが役立つ。特別なハードウェアとソフトウェアを使用して、すべての機器、ツール、棚を含む物理的な生産施設の仮想複製を作成する。




 したがって、『e-tron GT』が生産される工場は、デジタルの世界にも存在する。そして、この新しいデジタル計画手法により、実質的には生産を数年前に計画することができるようになっている。

3Dスキャンの機能と人工知能の役割

データを生成するにはスキャナー(ハードウェア)が不可欠だ。

 このモビリティの高さは約2メートル(6.6フィート)。従業員がスペース内を移動できるように4つの車輪に取り付けられている。その上部にはLiDAR(Light Detection and Ranging)ユニットと3つの追加のレーザースキャナー、それにカメラが搭載されている。空間をスキャンしながら、2つのプロセスが同時に実行される。広角カメラが空間の写真を撮り、レーザーが空間を正確に測定して、周囲の3次元点群を生成する。250,000平方メートル(2,690,977.6平方フィート)にも及ぶネッカーズルム工場の生産スペースの一部で、このテクノロジーを使用してスキャンが行われた。ただし、生成された地点、イメージ、およびデータセットを取得し、それらを既存の計画システムで使用できる全体的なイメージに変換するのは、ソフトウェアである。ここで使用されるソフトウェアは、人工知能と機械学習に基づいてアウディが自社開発したもの。点群と写真を組み合わせて、Googleストリートビューのような3次元の写実的な空間を作成する。比率とサイズは正確であり、現実に対応している。また、このソフトウェアは、空間内の機械、棚、システムなどのオブジェクトを自動的に認識する。




 また、スキャンごとに自動的に学習して、オブジェクトをさらに正確に認識、区別、分類する。例えば、棚と鉄骨梁を区別できる。棚の位置は後にプログラムで変更することで、仮想空間に再配置できる。鋼製の梁では、それはできなくなっている。これらのデータにより、スキャンされた生産施設を任意の開始点から仮想的に歩き回ることができ、計画プロセスで使用できる。

バーチャルリアリティを使用した仮想計画の利点

 冒頭で記したとおり『e-tron GT』は、組立とそれに関連するロジスティクスプロセスを物理的なプロトタイプなしで仮想的にテストされた同社初の市販車である。これを実現するため、車両データ、部品データと部品の取扱い、機器、ツール、組立工程を含む全体的な仮想モデルが、デジタルモデルとして準備された。3Dスキャンはこの要素の1つである。アウディの仮想組立計画を担当するアンドレス・コーラー氏は、デジタルモデルはさらなる革新の基盤であると説明する。




「私達が開発したVRソリューションとデジタルモデルにより、異なる地点にいる世界中の同僚が仮想空間で出会い、未来の生産施設の真ん中に存在することができます。私達は、計画された手順を実行するときの様子をデジタルワーカーの肩越しに見ることができます。また、アプリケーションの計画プロセスを体験して、それを最適化することも可能です」




 その結果は、VRアプリケーションに基づいて、従業員のトレーニングにも使用できる。これらの新しい可能性は、現在ますます多くのプロジェクトや、別の地域でも使用されている。例えば、3Pワークショップ(3P =生産準備プロセス)がメキシコのサンホセチアパで開催されたが、これにインゴルシュタットのプロジェクトチームメンバーも参加した。専門家はデジタルアバターとして、アウディQ5フェイスリフトとVRでの新しいQ5スポーツバックの生産について話し合い、計画を実施した。

仮想コンテナ計画はどのように機能するのか?

 仮想計画は、プロセスと作業手順だけに限定されない。それを使用することで繊細な部品の輸送および保管用のコンテナなどのオブジェクトも計画できる。『e-tron GT』電装品や内装部品などは、物理的なプロトタイプを使用するのではなく、アウディのクロスサイトおよびクロスディビジョンの仮想現実アプリケーションを使用して計画された。




 仮想コンテナの計画は以下のように機能する。すべてのパーツのデータセットがあるため、これらを直接ロードして、VRアプリケーションでスケーリングできる。3Pワークショップと同様に、様々なサイトの複数の従業員が仮想空間で集まり、パーツを使用してチェックする。このプロセスには、ロジスティクス、組立計画、労働安全、品質保証、物流、それにサプライヤの従業員が関与する。彼らはデジタルペンを使用して、仮想コンテナでの変更をマークする。このプロセス中に、コンテナのロードとアンロード、移動、および測定が行われる。輸送中の部品の安全性が計画の目的の一つであるが、従業員またはロボットが部品を簡単につかんでロードキャリアから取り外せる必要がある。仮想設計が完了すると、データはエクスポートされ、それに従って特別なロードキャリアが製造される。

仮想計画は持続可能であり環境に優しい

 仮想計画は持続可能性が高い。その理由は三つある。




■ リソースの削減:物理的なプロトタイプを使用しない『e-tron GT』の仮想計画により、時間だけでなく、材料も節約された。特別なロードキャリアや仮想コンテナの計画でも同じである。物理的なプロトタイプを作成するには、リソースとエネルギーが必要だ。多くの場合、仮想計画によってこのステップは不要になる。




■ 廃棄物の削減:繊細な部品は特殊な保護ライニングを備えたユニバーサルロードキャリアで輸送されるが、そこで使われる保護ライニングは使い捨てである。そこにカスタムコンテナを使用すると、この保護ライニングが不要になる。仮想計画は廃棄物を削減する。




■ 出張の減少:コロナ禍にある現在、出張の回数をできるだけ減らすことが、健康上のもメリットとなる。ここでは仮想計画が主要な貢献者である。かつては物理的な会議が必要だったプロセスが、仮想空間で可能になっている。

仮想計画が切り開く将来展望

 デジタルモデルは仮想空間の持つ可能性の基盤である。デジタルモデル、3Dスキャン、バーチャルリアリティアプリケーションなどの仮想計画と3D印刷とを組み合わせると、将来的には複合現実で3Pワークショップを実施することもできるようになる。個々の部品は3Dプリンターとわずかなリソースで極めて短時間に製造されるようになる。これにより、部品の触覚や重量の評価などの仮想空間内における個々の物理的テストが可能になる。

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