ルノーと日産が共同開発した2ℓ・直4ディーゼルの呼称が「M9R」である。そのヨーロッパ版をベースに、制御と後処理技術で日本のポスト新長期規制を初めてクリア。2008年9月から市場に投入した。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)
国内におけるディーゼルエンジンのシェアが限りなくゼロに近づいた段階でも、日産は研究開発を止めなかった。世紀が切り替わる頃にディーゼルが生き残れるかどうか検討した結果、「Tier2Bin5をクリアすれば生き残れる」と判断。これをモチベーションに開発を継続したことが、ポスト新長期規制クリア第1号の下地となっている。
2ℓ・直列4気筒DOHC+VNターボ(日産ではVNと呼ぶ)の「M9R」は、アライアンスを組むルノーとの共同開発。便宜上、リーダー会社はルノーが務めたが、仕様決定の責任分担はイーブン(だが、ディーゼルの開発に関してはルノーに一日の長があることは日産側も認めている)。各マーケットへの適用は両社がそれぞれ行なう。日本版は欧州版をベースに、ポスト新長期規制をクリアするのに必要なエンジン協調制御とリーンNOxトラップ触媒を加えている。
エンジン本体の構成は欧州版M9Rと共通だが、電制スロットルバルブ/EGRバルブ/VNターボ/コモンレールシステムを協調制御し、空燃比とEGRを高精度に制御するのは、ポスト新長期規制(とくにNOX値)をクリアするために追加した機能。また、独自開発のリーンNOXトラップ触媒を欧州版M9Rの酸化触媒と置き換える形で追加している。触媒の苦しそうな配置に、限られたスペースに押し込まなければならなかった(容量にも制約が生じたはず)苦しさが伝わってくる。日欧のM9Rで共通するのは、1600barのボッシュ製コモンレールシステム(6噴孔のピエゾインジェクター。噴射は最大5回)や、ポート形状を工夫することによって二重の高速スワールを発生させる「ダブルスワールポート」などがある。
エンジンの組み立ては、フランス・ノルマンディ地方にあるルノーのクレオン工場で行なう。キャシュカイ(日本名デュアリス)のヒットが幸いして、欧州日産分だけでも年間数万基レベルを生産。日本向けM9Rは搭載車のライフを通じ、月100台を見込んでいた。発表後1ヵ月足らずで1000台の受注を集めたが、初期受注は、他社製も含めディーゼルの味を知るSUVオーナーが目立つ結果となった。
「なぜ?」の集中砲火を浴びているのが、M9Rの搭載車種とトランスミッションの設定だ。ヨーロッパではエクストレイルとキャシュカイがM9Rを積み、両車とも6MTと6ATが選択できる。が、販売が始まった“クリーンディーゼル第1号”は、オフロード志向の強いエクストレイルで、6MTのみの設定だった(その後、2010年7月に6ATを追加)。
ディーゼルは「燃費がいい」と訴えるより前に、「スポーティだ」という主張には、素直にうなずける。その点を強く訴求できるのがMTという論法。ATはディーゼルの良さをスポイルするというのが設定を見送った公式見解だが、販売台数が見込めないなかで開発投資ができなかったという事情も見え隠れしていた。