ロードレース世界選手権の最高峰クラスであるMotoGPクラスに参戦する、唯一の日本人ライダー、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)は、2020年シーズンのチャンピオンシップにおけるランキングを10位で終えた。中上の2020年シーズンは、大きな飛躍のシーズンになったと言えるだろう。
TEXT●伊藤英里(ITO Eri)
PHOTO●Honda、LCR Honda
MotoGPクラスを戦う中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)の経歴を少し振り返ってみよう。中上の世界選手権フル参戦デビューは2008年。現在のMoto3クラスの前身である、125ccクラスを舞台に戦った。しかし、結果を出せないまま、2009年限りで世界選手権125ccクラスの舞台を去る。
125ccクラスからMoto2クラス、そしてMotoGPクラスに進むのが順当な道筋だっただろう。一度その流れから離れれば、再び戻ることは簡単ではない。しかし、中上は2010年から2011年にかけて全日本ロードレース選手権に参戦し、2011年にはJ-GP2クラスでチャンピオンを獲得。そして2012年から、再び世界選手権参戦を果たしたのである。
中上は2012年シーズンからMoto2クラスに参戦し、2017年シーズンまでの6シーズンを戦った。そして、2018年シーズンにはついに、ホンダのサテライトチームであるLCR HondaよりMotoGPクラスデビュー。4年ぶりにMotoGPクラスにフル参戦する日本人ライダーとなった。
2020年シーズンは中上にとって、MotoGPクラス参戦3シーズン目。中上は今季、飛躍を遂げた。第3戦アンダルシアGPからは、マルク・マルケス(Repsol Honda Team)の走りを参考にしたライディングスタイルに挑むなど、新たな取り組みを行った。マルケスは現在のMotoGPクラスにおけるベストライダーとして君臨しており、6度ものチャンピオンを獲得しているライダーである。今季は初戦の第2戦スペインGP決勝レース中の転倒により負傷し、シーズンを通して欠場している。
こうした中、中上は第3戦で表彰台に迫る4位フィニッシュを果たす。さらに第6戦スティリアGPでは予選で2番手を獲得。MotoGPクラスでは初めて1列目から決勝レースをスタートした。このレースでは他ライダーがクラッシュし、そのマシンが炎上したことで一時中断となったが、中上は中断前まで2番手を走行。初めて「勝てるレースだ」と思ったとレース後に語るほど、すべてが完ぺきだったという。残念ながら、再開されたレースでは新しいタイヤなしに挑まねばならなかった。このため優勝、表彰台には届かなかったが、そこに至るポテンシャルがあることを証明した。
シーズン後半戦に入っても、中上は流れを維持した。第12戦テルエルGPでは、MotoGPクラスで初のポールポジションを獲得する。優勝、そして表彰台への期待は大きく、中上自身、レース前にはそのプレッシャーを感じていたという。のしかかるプレッシャーに、この決勝レースでは惜しくも5コーナーの転倒で終わったが、中上はその後の第13戦ヨーロッパGP、第14戦バレンシアGP予選で3番手を獲得し、3戦連続で決勝レースを1列目から迎えた。第14戦では、終盤に3番手を走っていたライダーに迫った。勝負を仕掛けたコーナーで転倒を喫してしまったが、気迫と闘志あふれる走りを見せた。中上は決して転倒が多いライダーではない。こうした転倒は優勝や表彰台をかけた勝負だったからこそ、と言えるのかもしれない。そしてその経験は、来季に向けた糧になるはずだ。
中上は2020年シーズンをランキング10位で終えた。2021年シーズンも引き続き、LCR Honda IDEMITSUからMotoGPクラスに参戦することが決まっている。さらに、今季までの3シーズンは1年前のマシンを駆っていたところ、最新型のマシンが供給される。MotoGPクラス参戦4シーズン目の中上の活躍に期待したい。