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バイデン大統領の自動車政策は? BEVは、カリフォルニアのZEV規制はどうなる?


アメリカ大統領選挙は民主党のジョー・バイデン候補の勝利でとりあえずの幕を下ろした。バイデン新大統領の政策は来年1月の就任式と一般教書演説を待たなければわからないが、日本時間の9日早朝、バイデン新大統領は自身のウェブサイトに「コロナ、経済、人種、気候の4分野に最優先で取り組む」と書き込んでいる。気候とは気候変動への対応であり、パリ協定への復帰も明言している。選挙期間中にバイデン、トランプ両氏が語った、あるいはトランプ大統領がすでに実行した「自動車政策」を調べてみた。


TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

トランプ大統領が自動車にした政策、バイデン次期大統領がする(と予想される)政策

まずトランプ大統領について。9月28日の本コラムで書いたように、トランプ氏は大統領就任早々にオバマ前大統領が決定した燃費規制の強化案を撤回した。オバマ政権は2025年までに1ガロン当たり54.5マイル、つまり22.98km/ℓという燃費規制を決定したが、トランプ大統領はこれを現在と同じ1ガロン当たり37マイル、15.6km/ℓに後退させ2021〜2026年モデルまで適用することを決めた。

GMのミシガン州オリオン工場のシボレー・ボルト生産ライン。このBEVの量産は2019年春に始まっている。

もうひとつはカリフォルニア州(以下=カ州)独自規制の無効化だ。トランプ大統領はカ州に対し「大気浄化法第209条の適用除外権限を剥奪する」と宣言した。アメリカは高度な自治を州に認めた連邦国家だが、自動車排出ガス規制は連邦法である大気浄化法(クリーン・エア・アクト=CAA)の第209条に定められており、全米50の州はこの法律を守らなければならない。




ただし、アメリカの連邦制度は各州が独自の規制を導入する権利を認めている。連邦規制よりも厳しい規制なら導入しても構わないという解釈が通例になっている。これがCAA第209条適用除外権限と呼ばれるもので、カ州のほかニューヨーク、マサチューセッツ、メリーランド、アリゾナ、オレゴン、コロラドなど12州がこの適用除外権限を行使している。余談だが、今回の大統領選挙ではカ州規制に賛同する州ではバイデン候補が勝利している。




この2点がトランプ大統領が大統領権限で行なった主要な自動車政策だ。これ以外では、アメリカでの報道で「BEV(バッテリー電気自動車)に対する連邦税額控除(フェデラル・タックス・クレジット)の適用拡大を却下した」という記事を読んだ。「地球温暖化はまやかし」と公言していたトランプ大統領だから、当然の減税却下だったのだろう。

では通商拡大法第232条(セクション232プローブ)の発動はどう見るべきか。この条項は、ある品目の輸入がアメリカの国家安全保障を損なうおそれがあると判断された場合に、関税の引き上げなどの対抗措置を発動する権限を大統領に与えるものだ。トランプ大統領は商務省に対し鋼材、アルミなど非鉄金属、自動車(完成車)、自動車部品、ウランへの関税上乗せを指示した。




アメリカは過去、自国産業の保護については、有名なスーパー301条(1974年通商法第301条=貿易相手国への制裁)も含めてリチャード・ニクソン(鉄鋼製品/カラーテレビ)、ジミー・カーター(牛肉/オレンジ)、ロナルド・レーガン(自動車/コンピューター/カラーテレビ)、ジョージ・H・W・ブッシュ=父(自動車))などの大統領が国民の支持を得ながら実施してきた。この分野でとりたててトランプ大統領が「厳しかった」とは言えない。「中国から100万人分の雇用を取り返すための行動計画」に対してはアメリカ人の多くが賛同した。




筆者は1980年代のレーガン政権時代と90年代ブッシュ父政権時代の両方で日米自動車摩擦の現場を取材していた。アメリカの要求は、それがビジネスの方法として理不尽だろうがなんだろうが構わない。「我われはこうしたい。だから日本はそうしろ」という姿勢を一貫して崩さない。そうこうしているうちに日本国内が「仕方ない…」と折れる。2度ともそうだった。




雇用分野では、以前のNAFTA(北米自由貿易協定)に代わるUSMCA(アメリカ合衆国・メキシコ合衆国・カナダの協定)で2018年10月に合意した。バイデン新大統領はこの合意を実施するための国内法整備を行なうだろう。

さて、そのジョー・バイデン次期大統領である。カ州のニューサム知事は民主党だから、バイデン政権は加州とは争わないはずだ。トランプ大統領が一方的に剥奪した加州独自排ガス規制の権利は、おそらく穏便にカ州にもどされると思われる。バイデン新大統領としては、そうしたいだろう。ただ、この件はすでに下院公聴会に諮られている。どのような幕引きにするかは今後の議論である。




いっぽう、ニューサム知事が宣言した「2035年までに州内で販売されるすべての新車乗用車をZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=無排出ガス車)にすることを義務付ける」という案は、スケジュールの妥当性や消費者影響などを精査している段階だ。カ州大気保全局(CARB=California Air Resources Board)はニューサム知事の指示でこれに取り組んでいるが、これはCARBだけの問題ではなくNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration=国家道路交通安全局)やEPA(Environmental Protection Agency=環境保護局)とのネゴシエーションも必要だ。

カ州のZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制はBEV(バッテリー・エレクトリック・ビークル)とPHEV(プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=外部充電できるハイブリッド車)、昨年からEUが言い始めたECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル)のカテゴリーだけでなく、自前で化学発電するFCEV(燃料電池電気自動車)も含めている。この3つのタイプの自動車を普及させるため、自動車メーカーに一定台数の販売を義務付けている。




現在のZEV規制は、州内で一定台数の乗用車(車両重量3.5トン未満の軽量車=Light Vehicle)を販売するメーカーあるいは輸入元に対し、全販売台数の9.5%相当のZEV販売クレジットを確保することを義務付けている。これは販売台数のきっちり9.5%ではく、BEV/PHEV/FCEVそれぞれに定められたクレジットポイントの合計である。すでにこの9.5%を「2025年以降には22%相当へと引き上げる」ことが決まっている。




BEVに対する補助金や減税は、選挙期間中にバイデン候補が語っていた。カ州のメディアなどが取り上げている。同時にZEV規制の考え方をアメリカ全土に広める必要性も語っていた。これはオートモーティブニュースでも記事にしていた。パリ協定への復帰も明言している。

そのいっぽうで、バイデン候補は国内の自動車産業(そこには日本企業も含まれる)を執拗に苦しめるような提案はしていなかった。自動車および自動車部品サプライチェーンとインフラ投資で100万人の雇用の創出を語っていた。そして「2兆ドルのインフラ投資」のなかには、アメリカ全土に50万基の急速充電ステーション建設が含まれている。




では、まさにトランプ大統領とは正反対の自動車政策を打ち出しそうなバイデン新政権をアメリカの自動車産業界はどう見ているだろうか。

GMが市場投入するUltium-Driveパワートレーンのバリエーション。モーターの設計はほとんど同じで、インバーターなどの制御系と搭載方法(縦置き/横置き)および最高出力が違う5タイプを設定している。

GMがことし3月に発表したUltium-Driveパワートレーンの1種類。ほかに4タイプが存在することは9月に明らかにされた。FFにもFRにもAWDにも対応できる。

ZEVへのシフトついては、すでにGM、フォード、フィアットクライスラーの3社、いわゆるデトロイトスリーでも始まっている。GMはUltium-Driveという名前で5種類の電動モーターパワートレーンを発表している。1種類のモーター・ハードウエアを用途や必要なトルク/パワーに応じて使いこなすものであり、重量級のSUVやピックアップトラックの後輪には2モーター式アクスルを設定している。




去る10月20日に発表された、GMCブランドから登場する2020年モデルのハマー(HUMMER)は、このUltium-Driveを使うBEVだった。生産開始は2021年夏の予定。昨年3月に生産開始されたシボレー・ボルトEVおよびシボレー・ソニック以外にもセダン系のZEVが用意されているという。

フォードはe-Mustangをすでに発表している。VW(フォルクスワーゲン)との協業でVWが開発したBEV専用プラットフォーム・MEBを使ったフォード・ブランドのモデルを投入することも決まっている。フィアットクライスラーはフランス・PSAとの経営統合でECV分野でも共同歩調を取る。その一環としてジープ・ブランドで「4×e」というキャッチフレーズの展開を始めた。レネゲード、ルビコン、チェロキーにPHEVを設定するほか、BEVジープの投入もロードマップに入っていると言う。

アメリカ車の存在感が薄い日本では、いまだにアメリカ車=大排気量ICEというイメージで語られるが、すでにアメリカの自動車産業では外部から充電するECVを導入する計画が着々と始まっている。トランプ政権に対し「燃費規制はオバマ案のままでいい。加州のZEV規制もそのままでいい」とロビー活動をつづけていたのはアメリカの自動車業界だった。




ほんの2週間ほど前、まだ「バイデン候補」だった時代に「いずれ石油業界への補助金はやめる」と口走ってしまい、その後訂正した。しかし、アメリカでも徐々にECVへのシフトは始まるだろう。テスラというECVの御神体が存在し、ビジネスの世界でも「気候変動関連は儲かる」というささやきがある。政権交代を機に、一気にムードが変わる可能性はある。

問題は発電方法だ。アメリカは州や地域ごとに電力会社があるが、発電〜送電のインフラに投資してこなかった電力会社はけして少なくない。石炭火力と天然ガス火力は、それぞれ全発電量の30%強を占める。原子力は約20%。アメリカは銃と原子力を否定できない国だ。現状では火力も否定できない。




世界のどの国でも、ECVに充電する電力は現在の発電量に対し「上乗せ」になる。ほかにまわす電力から融通してもらうわけではない。必ず発電量の追加が必要になる。洋上風力発電用の巨大風車の分野では、世界最大手はデンマークのオルステッド、2位はスペインのシーメンスガメサ・リニューアル・エナジー。太陽光発電パネルでは中国勢が勢力を拡大している。アメリカの雇用を守るとなると、こうした企業の米国工場進出を促すしか手はない。




個人的には、日本の行き方がもっとも穏やかで、企業にも社会にも無理を強いることなく、しかしエネルギー消費は着実に減らせるように思う。長年の実績もある。日本は現在、火力発電比率は全体の約77%。ECV大規模普及に向けた発電量確保にはほとんど余力がない。そこを狙って風力と太陽光の海外勢がどんどん日本に押し寄せているのが現状だ。

アメリカに対しても世界各国の再生エネルギー系設備企業が押し寄せるだろう。投資家はこれを歓迎している。再生エネルギー分野にお金が集まる仕組みは完成しつつある。同時にバイデン新政権へのロビー活動も活発になるだろう。エネルギーと政治は過去もずっと深い関係にあった。これからもそこは変わらない。絶対に。

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