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【美しすぎるクルマ・ベスト3(諸星陽一)】新型も気になるけれど、やっぱり心に残っているのは初代の日産フェアレディZ


諸星陽一さんが選んだ3台の「美しすぎるクルマ」は、ランボルギーニ・ミウラ、プジョー406クーペ、そして日産・フェアレディZ。9月に新型のコンセプトモデルが発表されたばかりのフェアレディZだが、諸星さんの心に残っているのは初代Z。そのクルマをデザインした松尾良彦さんは、豪快な人柄だったようだ。




TEXT●諸星陽一(MOROHOSHI Yoichi)

またまた難題ですよ。美しいクルマ3台を選んでくれって言ったって、そんなもの3台に絞れるわけがない。そもそもクルマが誕生してから今まで、どれほどのデザインが絞り出されてきたのか? そのうちから3台を選ぶなんて地獄の作業です。そして気まぐれな私はそのときの気分によって感じ方が違います。幸い指示書には「ベスト3を選べ」と書いてありますが、ベスト3をランキングしろとは書いてありません(勝手な解釈)ので、3車を紹介します。

1台目:ランボルギーニ・ミウラ

1965年のトリノ・ショーでV12エンジンをミッドに搭載したベアシャシーをお披露目した後、66年のジュネーブショーで正式発表されたランボルギーニ・ミウラ。ベルトーネに在籍していた、マルチェロ・ガンディーニがデザインを手掛けたとされている。

最初の1台はランボルギーニ・ミウラです。スーパーカー世代である私にとって、もっともエキサイティングなクルマはランボルギーニ・カウンタックなのですが、そんな私にとっても美しいという視点で見ると、やはりカウンタックよりもミウラが上です。




最大のポイントは曲面で構成されるパネルです。直線と平面をメインに構成されるカウンタックに対して、曲面が特徴的なミウラは生物的な魅力にあふれています。ミウラもカウンタックもデザインは、ベルトーネに所属していたマルチェロ・ガンディーニが行っているのはじつに不思議ですし、彼の多様性には頭が下がります。




ボディパネルでいえば、フロントフェンダーの盛り上がりがたまりません。私にとって、ボンネットよりも上にあるフェンダーラインは絶対領域なのです。そして、後端が持ち上がってポップアップするヘッドライトのギミックは髪の毛をかき上げてうなじを見せる女性のごとく美しい動きです。




現在のようにヘッドライトそのものをデザインできなかった時代、どう化粧し、どう動かすかは重要なポイントです。初期のP400、中期のP400Sに採用されたまつ毛状のお化粧も洒落っ気を感じます。

2台目:プジョー406クーペ

デザインと製造をともにピニンファリーナが手がけたプジョー406クーペは、1996年のパリ・ショーでデビュー。ちなみに、イギリスの販売最終年のみ「プジョー・クーペ」という名前に改められた。

次なるモデルはプジョー406クーペです。このクルマとの出会いは広報車でした。当時はまだインチケーブ・プジョー・ジャパンという会社が取り扱っていた時代です。




ひと目見て、なんとも言えない全体的なまとまり感と美しさに圧倒されました。どこがどう...ではないのです。どこかにインパクトがあるというデザインではないのですが、ひとつひとつのパートパートに主張があるのに、それが隣のパートをスポイルすることがない、全体のバランスを崩すことがないのはまさに美人の第一条件であり、それを満たしているのが406クーペだと私は信じています。




この406クーペのリヤフェンダー下側には、プジョーとは異なるエンブレムが装着されています。そのエンブレムに刻まれる文字は「pininfarina」。そう、多くのフェラーリ車のデザインを手がけたことで知られるイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナです。私はこのエンブレムに気付くよりも早く、406クーペの魅力にとりつかれました。エンブレムは確かな魅力のあとからついてきた、お墨付きような存在だったのです。

3台目:日産フェアレディZ(初代・S30型)

1969年に登場した日産・初代フェアレディZ。直列6気筒エンジンを収めたロングノーズが目を引く。(写真:井上誠)

さて、最後の1台は国産車です。近頃、新型のデザインコンセプトが発表され話題になったクルマ...と言えば日産フェアレディZです。どのZ? そりゃあもちろん初代のフェアレディZです。




初代フェアレディZとの出会いは、子供のころ近所の車庫に駐まっていた赤いZです。当時、輸入車(当時は外車って呼び方でした)なんて見る機会が少なく、スポーツカーだってそんなに見かけることはありませんでした。そうしたなか、フェアレディZは割と目にすることが多かったスポーツカーです。でも、見るたびにワクワクし、駐まっていれば近づいてあちこちを見入ったクルマでした。




なによりも目を引いたのが、ヘッドライト部分の処理とボンネットのパワーバルジです。ウエッジシェイプのボディに対しどうヘッドライトを取り付けるかは、デザイン上の大きな課題と言えます。もっともそんなことは今だから思うことで、当時にしてみればカッコいいの一言に尽きます。そしてボンネットのパワーバルジも同じです。




当初のデザインではこのパワーバルジは存在しませんでした。ところがエンジンを載せようとしたら、ボンネットが閉まらない、そこでこのバルジを設けたという逸話が残っています。




デザイナーは日産自動車に所属していた松尾良彦氏。松尾氏は惜しくも2020年7月に鬼籍に入られました。日産を退社してからは、フリーのジャーナリストとしても活躍しておられ、私の所属するAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)の会員でもありました。




松尾氏と出張でご一緒した際、大きなカバンをもつ私に「なんで1泊なのに君はそんなにカバンが大きいんだ?」と聞かれました。「寝相が悪くて、ホテルの浴衣じゃだめでスエットの上下がないと寝られないんですよ」と答えた私に松尾氏は「面倒だねー。オレなんてパンツ1枚あれば十分だよ」と。“すごいデザインする人は、けっこう豪快なんだなー”と印象に残っています。

こちらは最上級の240ZG。通称「Gノーズ」が装着されており、全長は190mm長くなっている。(写真:井上誠)

追伸:フェラーリ246GTディーノ、フェラーリ356GTB/4デイトナ、ACコブラ、ロータス・セブン、ジャガーEタイプ、トヨタ200GT、フォードGT40、メルセデス・ベンツ300SL、マツダ787……あー、、、悩む。

『美しすぎるクルマ・ベスト3』は毎日更新です!




どんなに走りが楽しくても、どんなに乗り心地が良くても、ブサイクなクルマには乗りたくない。そう、デザインはクルマの命。ということで、これまで出会ったクルマの中からもっとも美しいと思ったベスト3を毎日、自動車評論家・業界関係者に選んでいただきます。明日の更新もお楽しみに。
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