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バルブ往復運動のための入力元が、カムシャフトである。回転する軸に凸部を設けることで、乗り越える力を利用する仕組みだ。その形状には、どのような意図が盛り込まれているのだろうか。
TEXT:松田勇治(Yuji MATSUDA)
エンジンは作動行程で「吸気」と「排気」を行なう。つまり空気を出し入れする、ある種のポンプである。ポンプとしての効率を高めるためには、なるべく空気を吸い込みやすく、吐き出しやすい構造であることが望ましい。一方で、動力の発生に直接関係する「圧縮」ならびに「燃焼&膨張」行程の効率向上のためには、筒内の密閉度をなるべく高めておきたい。
この背反する要素を両立させるため、なんらかの「弁=バルブ」機構を用いる。吸気/排気行程の期間は吸気管と排気管の間を大気と連通させ、圧縮/燃焼&膨張行程の期間は筒内を密閉する。一般的な自動車用エンジンは、キノコ型の「ポペットバルブ」を「平面カム」によって開閉することでその行程を実現している。
カムとは何か。ここでは「回転運動を行ないながら、自らの輪郭曲線や溝の形状によって、直接接触する物体を所定の周期で運動させる機械要素」と定義する。自動車用エンジンに用いられるカムは、卵形の厚板が基本。これを回転するシャフトと一体化することで、作用対象との距離を周期的に変動させながら駆動する。
カムの形状によって決まる吸排気バルブの開閉時期は、エンジンの性能を大きく左右する要素だ。PF(Iポート噴射)エンジンの場合は燃料の充填効率もカムの形状で決まってしまう。そして従来は一意のものであったカムの特性=エンジンの吸排気期間を、運転状況ごとに最適化しながらバルブに伝えるためのメカニズムが可変バルブタイミング機構である。
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吸排気の管理は、一般的にカム+ポペットバルブによって行なう。圧縮/燃焼・膨張行程で筒内の密閉度を確保し、吸気/排気行程では確実に大気開放できるバルブ機構ならなんでもかまわないし、実際に代替手段の研究も盛んに行なわれてきたが、そのふたつの要求を高度に実現する機構として、カム+ポペットバルブの組み合わせを超えるものはいまだに現れていない。長年の間に世界中の技術者が理想のあり方を追求してきたことで、シンプルながら完成度の高い機構となっていることも、これを置き換える機構が登場しにくい理由のひとつとなっている。写真は気筒あたり吸気もしくは排気2バルブを駆動するためのカムシャフト。直動でもロッカーアーム駆動でも、バルブごとにカムを備えることが基本。
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通常、カムシャフトはクランクシャフトの回転に連動させるため、クランクシャフトに接続した歯車とゴムベルトもしくはチェーンなどの機構によって駆動する。4ストロークサイクルエンジンの場合、排気側、吸気側とも、クランクが720°回転する間にカムシャフトは360°回転する設定。つまりエンジン回転数の1/2という高速で回転しながらタペットやアーム/ローラーに作用している。エンジン回転数が3000rpmなら1秒間に25回、バルブを開閉させているわけだ。それなりの質量を持つものが、これだけの速度でバルブに作用するのだから、カムロブの始まりと終わりの輪郭曲線の設定には細心の注意がはらわれる。始まりの部分は直接接触するローラーやタペットに「激突」せず、かつ確実にバルブスプリングの力に抗することができる、終わりの部分はバルブスプリングの力によってバルブの傘部がバルブシートに「激突」させないための配慮が必要となる。
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