現在、さまざまなモビリティが運用されるようになってきたが、そのなかでも注目されるのが電動キックボードだ。じつにコンパクトでありながら、その機動力は原付自転車、いわゆる原チャリと一緒。ここでは東京都港区で実用化されたmovicle(モビクル)を紹介しよう。(撮影:福永貴夫)
コンパクトだが仕様は原動機付き自転車
今回、実際にナンバーが取れた電動キックボードに試乗ができることになった。movicle(モビクル)のこのモデルは実際にはシェアリングを目的とし、街のいたるところに設置して利用できることを狙いとしている。しかしそれには、関係する自治体などからの了承が不可欠で、現在はその認可に向けて活動を続けているところだ。
現在は港区に5拠点。movicleの専用スマホアプリで探すこともでき、キックボードのQRコードを読み込んでキーを解除して利用する、という手軽さも面白い。利用料金はスタンダードプランが250円、1時間プランが1000円。複数の予定を短時間でこなすにも便利だ。
やはり一番の課題は、公道を走れる原チャリと同じカテゴリーのため、さまざまな法令に合致する仕様とすることだ。そのため、自転車のシェアリングとはかなり異なるハードルもある。それも完全に決められた法律があればまだいいが、現状ではグレーな部分もあり自治体の担当者の捉え方に左右される部分もある。もちろん事故などが発生した場合の保証や保険の問題もあるので、かなりナーバスにならざるを得ない。
とはいえ、スタートアップの企業としてやるべき目標を高く置くことは意義のあることだろう。そう思えたのも、実は試乗をしたそのフィーリングからだった。
まずはこの電動キックボードがナンバーを取るにあたり、必要な装備について解説しよう。 基本は、原動機付自転車が装備する保安部品を装備する必要がある。
例えばウインカー、バックミラー、ヘッドライト、スピードメーターそしてブレーキとブレーキランプ。さらにクラクション。こういったものを装備した電動キックボードは、 私有地の中だけで乗るものとはかなり異なって、しっかりとした乗り物に見える。またブレーキに関しては、当初は後輪だけに採用されていたが実際の制動性能を見て、前後にブレーキを搭載するモデルへ変更したという。
試乗したのは、東京都内。運転するには原付以上の免許証とヘルメットが必要だ。また走行区分は公道で、歩道を走行することはできない。もちろん、信号や道路標識を厳守することは当然だ。自転車であるならば、通行可能な歩道もあるが、この電動キックボードはそういった場所を走ることはできない。あくまでも原付自転車として自動車と同じ道を走ることになる。
車と走ることに注意すれば軽快で手軽に遠距離まで
乗車スタイルとしては、細長いボードの上に乗るために利き足を前置くスケートボードスタイルとするのが基本のようだ。ちなみに一般的なスノーボードの乗り方とは前後逆のスタイルになるが、スノボに慣れている人は、扱いやすさによってそちらが優先されるかもしれない。
体は正面を向き、バーハンドルを握る。ブレーキレバーは左右にあり、右が前輪、左が後輪用となる。アクセルは右の人差し指でレバーを操作。一般的なスノーモービルのような操作方法だ。そしてウインカーは左の親指で操作する。
自転車やバイクなど、跨って乗るスタイルに慣れていると、やはり動力のあるキックボードというのはかなり特異な感じがする。特にスタートでは後方を確認し、路面を足で蹴りながらアクセルをゆっくりと開けて行く、ということにちょっとコツがいるように感じた。しかし乗ってしまえば、その加速感はまさに電動バイク。こんなに細いボディのどこにそのパワーがあるのかと思えるほど力強く加速する。
原付自転車の法定速度は30 km/h だが、簡単にその速度には乗ってしまう。ただし周囲の車はもっと早く走っているので、追い越されるのはちょっと怖い感じは残る。やはり慣れが必要な乗り物で、慣れてくればその軽快さが大きな魅力となってくることは間違いない。今回の取材に対応いただいた牧野社長は、毎日出社するのにこの電動キックボードを利用しているという。
むしろもっとスピードが出る仕様があってもいいと考えているほどだそうで、やはり慣れてしまうと自在に乗りこなせるようだ。
バスを待つ時間が惜しい、歩いてはちょっと遠い、そんな場所にも
バイクのように大掛かりなものはなかなかシェアリングには向かず、自転車とは段違いの行動範囲が約束される。交通網の整備された都内であっても、実は陸の孤島のようなところは多く、電車を降りた後にどうやって行っていいのか分からなくなってしまう地域も少なくない。また郊外となれば、時間によっては長時間バスを待たなければならないこともある。さらにその地域で複数寄り道をしようと思ったら、なかなか大変だ。そんな時に、気軽に車のようなスピードで移動ができるのが電動キックボード。
今後、地域との連携が取れて、よりシェアリングとしての利用スタイルが広がれば、その可能性はますます発展するだろう。電動化が一般化していく中にあって、さまざまなモビリティが共存できることがリアルな移動の自由を支える。そして、それがどんなに楽しいことか、それを実感させてもらうのにもますますの普及に期待したい。