自動車業界は今、100年に一度の大変革時代を迎えていると言われているが、クルマを所有しメンテナンスする私たちユーザーが直に接するアフターマーケットも決して例外ではない。当企画では、そうしたアフターマーケットの現状を、近年生まれた新しいキーワードを切り口として解説する。
今回も若干古い話になるが、前回採り上げた自動車保険の等級制度改定をきっかけとして再び脚光を浴びた、「軽補修」と「デントリペア」について紹介したい。
TEXT&PHOTO●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
自動車保険の「ノンフリート等級別料率制度」(等級制度)を損害保険料率算出機構が2011年10月に改定し、翌2012年10月より各損害保険会社が順次導入したことで、自動車保険を使うと「1等級ダウン事故」なら1年間、「3等級ダウン事故」なら3年間、次回契約時の割引率が大きく下がる「事故有(じこあり)係数」が適用されるようになる。
それに伴い、総修理費を等級ダウン&「事故有係数」による保険料の値上がり分が上回るケースが大幅に増えたため、総修理費が安い事故では保険が使いづらくなった。
このことをきっかけとして、軽微な凹み・擦り傷などを短期間で安価に修理する「軽補修」と「デントリペア」が、保険を使わず自費で修理する自動車ユーザーに適した修理方法として、自動車アフターマーケットの業界関係者から再評価されていった。裏を返せば、当の自動車ユーザーには今なお広くは浸透していない、というのが筆者の率直な印象だ。
では「軽補修」と「デントリペア」は、一体どんな修理方法なのか……を説明する前に、通常の鈑金塗装について、簡単に触れておきたい。
例えば、ドアパネルについた擦り傷や凹みを修理する場合、大まかには、
ドアトリム(内張り)取り外し *引き出し鈑金を行う場合は省略
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ハンマーなどで叩くor引き出すことで凹みを可能な限り取る
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損傷箇所周辺の塗膜をサンダーなどで剥がしてエアブロー、脱脂、足付け
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パテを塗布し乾燥、その後研磨して元の形状に整える
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プライマーサフェーサー(プラサフとも。下塗りと中塗りを兼ねた塗料)を塗布、乾燥、研磨
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車両の塗色コードを確認し、そのボディカラーの調色データを確認して調色、その後可能な限り実車の色に近づけていく
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マスキング
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上塗りを塗布、乾燥 *上塗りの構成はボディカラーによって異なる。多いのはベースコートとクリヤーの二層
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補修塗装した箇所を磨いて仕上げる
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ドアトリムを元に戻す *引き出し鈑金を行う場合は省略
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修理完了
となるのだが、ではなぜ「軽補修」が、通常の鈑金塗装よりも作業時間が短く安価なのか。
その理由の一つは、まず“完璧”を追求しないことにある。
具体的には、凹みの修正はハンマリングor引き出し鈑金主体ではなく可能な限りパテで埋める、調色にはコンピューター測色機などを使うが一回塗料を配合したらそれ以上微調整しない。パネルの端を損傷していても隣のパネルまで上塗りのボカシ塗装をしない、などが挙げられる。
こうして工数を減らし作業時間を短縮することで、通常の鈑金塗装より価格を下げることを可能にしているのだが、これはあくまで「目立たない程度に損傷を直してもらう簡易的なもの」。我々ユーザー側も、よく見れば修理した箇所とその周辺とで色が違っていることは当然のものと理解し割り切ったうえで、修理を依頼するよう心がけたい。
もう一つは、修理に使用するツールや塗料などを、通常の鈑金塗装より簡便な、DIY用品またはそれに近いもので済ませることだ。修理に関しては軽補修に特化した鈑金塗装工場や整備工場、ディテーリングショップなどの場合、特にこのケースが多い。
それ以前に、骨格修正機やボディ寸法計測装置、溶接機、塗料のミキシングマシン、全面パネルで覆われて換気・乾燥がしやすくゴミやホコリもつきにくい塗装ブースといった、中破以上の修理に必要不可欠となる高額な設備を所有していないことも多い。
そのため、損傷が骨格にまで及んでいる事故の場合は、修理できない可能性が高いことも、事前に留意すべきだろう。
では「デントリペア」はどうか。こちらは正確には「ペイントレス・デントリペア」と言い、その名の通り塗料を用いないのが大きな特徴。狭義には多彩な長さ・形状の棒状のツールを駆使し、パネルの間などに入れて裏側から凹みを叩いて戻す修理方法のことを指す。
この修理方法は、傷がなく凹みだけの外板損傷を修理するには最も合理的と言えるもので、作業時間は圧倒的に短く修理費用も安価。しかも近年は大きな凹みやプレスライン上にある凹み、高張力鋼板やアルミ合金製の外板も修理可能となっている。
そして、塗料や塗装ブースのみならずあらゆる副資材が不要で、出張サービスにも容易に対応できるのが大きな強みだ。しかし、設備や副資材に頼らない分、技術者の力量に負う所が大きく、修理品質のバラつきが大きい傾向にある。