自動車業界は今、100年に一度の大変革時代を迎えていると言われているが、クルマを所有しメンテナンスする私たちユーザーが直に接するアフターマーケットも決して例外ではない。当企画では、そうしたアフターマーケットの現状を、近年生まれた新しいキーワードを切り口として解説する。今回は、これまでに取り上げた「特定整備」制度と「OBD検査」(OBD車検)とも密接に関係する、ADAS(先進運転支援システム)の「エーミング」についてご紹介したい。
TEXT&PHOTO●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) FIGURE●国土交通省
過去2回は「特定整備」制度と「OBD検査」(OBD車検)について取り上げたが、これらが正式に制度化された背景はいずれも、ADASがここ10年ほどで爆発的に普及・進化し、これからもその傾向はますます加速すること、そしてADAS用センサーの不具合を原因とした事故がすでに起き始めていることにある。
こうした事故を未然に防ぐため、ADASおよび今後の自動運転システム(=「電子制御装置」)の点検整備に必要な人・場所・設備の要件を決め、12ヵ月点検の対象としたのが「特定整備」制度であり、車検ごとに法定スキャンツール(故障診断機)を使って点検・整備することを義務づけたのが「OBD検査」(OBD車検)だ。
だが問題は、両制度の要件や対象車両がどうあれ、2018年の時点ですでに新車の8割弱に衝突被害軽減ブレーキが装着されている((341万3936台+低速域限定24万4245台)÷総生産台数463万4449台=約78.9%、国土交通省調べ)こと、そして少なくとも現時点では、ADAS用センサーとECU、センサーが装着されているバンパーやガラスの脱着を伴う整備を行った際に必要となる「エーミング」、つまりセンサーの調整作業を実際に行える整備工場がごく限られていることにある。
なお、「エーミング」には以下の三種類があるが、
静的エーミング:
ターゲットを車両に正対させた状態でスキャンツールによりセンサーやECUを調整する
動的エーミング:
一定の条件下で走行することにより自動的にセンサーやECUを調整する
自動エーミング:
車両が自動的にセンサーやECUを補正する
特に問題なのは、多くの車両が該当し、かつ整備工場が実際に作業を行うには「電子制御装置」の「特定整備」認証を取得しなければならなくなった「静的エーミング」だ。
人:
一級整備士または必要な講習を受けた二級整備士が一人以上所属していること
場所:
最も小さい軽自動車でも屋内4m・トータル5.5mの奥行きと2mの幅、最も大きい大型車なら屋内7m・トータル16mの奥行きと5mの幅があり、かつ水平な作業場所があること
設備:
最低でも一車種の静的エーミングが行えるだけの水準器と整備用スキャンツールを保有し、ターゲットおよび整備マニュアルを入手できる体制を整えていること
いずれも少人数あるいは都心の狭い場所で営む整備工場には厳しい要件だが、「特定整備」や「OBD検査」(OBD車検)の対象車種であるなしを問わず、実際に作業できる環境を整えるうえで、とりわけハードルが高いのは設備だ。