自動車業界は今、100年に一度の大変革時代を迎えていると言われているが、クルマを所有しメンテナンスする私たちユーザーが直に接するアフターマーケットも決して例外ではない。当企画では、そうしたアフターマーケットの現状を、近年生まれた新しいキーワードを切り口として解説する。今回は、2024年10月1日より開始予定の「OBD検査」(OBD車検)についてご紹介したい。
TEXT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) FIGURE●国土交通省
「OBD」についてはご存じの読者も多いと思うので簡単にだけ説明すると、OBDとは「On-Board Diagnostics」の略で、国土交通省は「車載式故障診断装置」と訳している。
このOBDのコネクタにスキャンツール(外部診断機)を接続すれば、ECU(Electronic Control Unit。電子制御装置)が検知するパワートレインやシャシー、安全装備などのリアルタイムの状態に加え、DTC(Diagnostic Trouble Code。故障コード)として記録された不具合の有無を読み取って、点検整備に役立てることが可能だ。
いやむしろ、エンジンの燃料噴射から始まり、ATの変速や電動パワーステアリング、ABSやESCの制御、近年はハイブリッドシステムや電動パーキングブレーキ、ADASに至るまで、OBDを活用しなければ不具合の有無や予兆を点検し整備することができない電子制御部品が、年々増え続けている。
しかしながら、不具合が発生しDTCが記録されても、さらにはメーター上に警告灯が点灯しても、現行の継続検査=車検制度はこうした電子制御システムの機能確認に対応しておらず、目視や専用のテスターによる検査にさえ合格すれば、法的には公道を走り続けることができる。たとえその不具合が、クルマをコントロール不能にし、重大な事故を起こすリスクをはらんだものだとしても。
とりわけそのリスクが高いのがADAS(Advanced Driver-Assistance Systems。先進運転支援システム)であり、10年ほど前から急速に普及・進化していくのに伴い、ADAS用センサーの不具合を原因とした事故も発生するようになっていった。
こうした状況に対応するため新たに制度化されたのが、前回ご紹介した「特定整備」制度、そして今回の、車検時にスキャンツールを用いる「OBD検査」(OBD車検)である。
このOBD検査(OBD車検)については、国交省自動車局整備課が2017年12月から2019年1月まで計8回開催した「車載式故障診断装置を活用した自動車検査手法のあり方検討会」で、自動車技術総合機構および自動車メーカー・インポーター、自動車整備・修理関連の団体をメンバーとして議論が進められ、2019年3月に最終報告書が公表された。
その後2020年8月5日、国交省はこの最終報告書の内容を踏まえ、道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部を改正する告示を公布。これにより、OBD検査の開始が正式に確定した。なお、その開始時期は、
国産車…2021年10月1日以降の新型車が対象。2024年10月1日より検査開始
輸入車…2022年10月1日以降の新型車が対象。2025年10月1日より検査開始
となっている。
また、OBD検査(OBD車検)の対象となる装置には、現時点では保安基準に規定があるADASや自動運転システムの一部に加え、OBD本来の目的である排ガス規制に関連する部位も指定されているが、今後保安基準が追加されればOBD検査(OBD車検)の対象装置も順次追加される見込みだ。
OBD検査(OBD車検)の制度概要は別表の通りだが、こうした車検が制度化されることで、私たちユーザーは、所有・使用するクルマのADASや自動運転システム、電子制御化されたパワートレインなどを常に、保安基準に適合し安全に使える状態にメンテナンスする義務を負うことになる。
だが裏を返せば、国産車なら2021年9月30日以前、輸入車なら2022年9月30日以前に発売された新型車であれば、このOBD検査(OBD車検)の対象にはならない、ということだ。
ならば対象外のクルマのユーザーは、何もせずよいかと言えば、そんなことは決してない。むしろ点検整備を強制する法律や制度が適用されないからこそ、ユーザーは自らの身を守るため自発的に、ADASや自動運転システム、電子制御システムのメンテナンスをしなければならない。そういう意味では、言葉を選ばずに言えばむしろ面倒でさえあるだろう。
ともあれ、OBD検査(OBD車検)の開始を機に、対象であるなしを問わず、自分のクルマに搭載されているADASや自動運転システム、電子制御システムが正常に機能しているか、常日頃意識するよう心がけたい。