スギ花粉やダニの死骸などのアレルゲン物質と、インフルエンザウイルスを不活性化させる機能を持ったホンダ自慢のシート生地「アレルクリーンプラス」が、オフィス機器で有名な内田洋行のオフィスチェアに採用された。この前代未聞のタッグは、ホンダの技術を広く活用してもらう取り組み「オープンイノベーション活動」の一貫として実現したものだ。
クルマのシートがオフィスチェアに変身!?
内田洋行が7月30日に発売したオフィスチェアに採用された「アレルクリーンプラス」生地。これは、ホンダがN-BOXとN-WGNのシートに使用している生地である。
アレルクリーンプラスは、アレルゲン物質(ダニ・スギ花粉)とインフルエンザA型ウイルスを低減させる機能が特徴だ。生地には、抗ウイルス剤付着したアレルゲン物質とウイルスを不活性化する加工剤が施されている。
もともとはホンダは、抗アレルゲン加工のみを施した表皮材を採用していた。しかし、対象物質であるスギ花粉は2〜4月、ダニは6月〜8月と飛散(流行)時期が限定的なのが課題であった。そこで、それらのアレルゲン物質の飛散時期が少なくなる秋〜冬にかけてユーザーの関心が高まるインフルエンザウイルスを不活性化する機能を追加することで、年間を通して効果を発揮する表皮「アレルクリーンプラス」を開発したという。
アレルクリーンプラスの機能として欠かせないのは、耐久性の確保だ。自動車用のシートは太陽光に常時されされたり、時には車内が80度という高温になったりと、過酷な条件で使用されることが多い。また、乗降時に体が擦れて摩耗しやすいということもある。そうした状況下でも高い不活性化性能を発揮するために、加工剤の選定や配合の最適化、加工方法を工夫したという。
ホンダと内田洋行の根底にある「人間中心」という思想
さて、内田洋行がオフィスチェアにアレルクリーンプラスを採用したきっかけは、ホンダからのアプローチだったという。内田洋行には様々な材料メーカーとの付き合いがあるが、異例なのは、ホンダは営業セクションからではなく知的財産部から提案があったということだ。
そのキーマンとなったのが、ホンダで知的財産に関わる業務に携わっている森 隆将さん。ホンダでは自社の技術を他社と共同で活用するオープンイノベーション活動を行っているが、その一環が内田洋行との取り組みであり、内田洋行との架け橋役を努めたのが森さんだったのである。
内田洋行がオフィスチェアにおいて、自動車メーカーとタッグを組むのはもちろん初めてのこと。内田洋行の門元英憲さんによると「ホンダさんも内田洋行も、人が中心の物づくりをしているという共通点がある」と語る。2018年末にホンダから提案があった時期は、ちょうどインフルエンザが流行しつつある時期でもあり、「ちょうど良いものが来た(門元さん)」という感じだったそうだ。
他分野でも認められたホンダの技術。今後の展開にも期待
内田洋行が今回発売する、アレルクリーンプラスを採用した椅子は5種類。オフィスチェアが2タイプあり5万8900円〜10万5700円、ミーティングチェアは3タイプで4万2000円〜7万9500円(価格はいずれも税別)となっている。通常の生地を使ったモデルより、だいたい2割くらい価格はアップしているという。
生地は、ホンダの軽自動車Nシリーズに使われているものとまったく同じもの。ただ、クルマのシートは立体縫製なのに対してオフィスチェアは一枚張りという違いがあるほか、生地のロールを載せる設備がクルマ業界とオフィス業界では異なるため、生産できる設備を持っている工場を探すのが大変だったという。そのため、商品化には1年半くらいと通常よりも少し長い時間を要したそうだ。
「開発をしているときは自動車用のシート表皮としてしか使用しない前提だったので、オフィスチェアに採用してもらえると聞いて驚きました」とアレルクリーンプラスを開発したホンダの林里恵さん。「ホンダの技術が自動車だけでなく、そのほかの分野でも活用していただけるチャンスがあることが今回の取り組みで分かりました。今後はすべてのお客様に便利だと思っていただける商品を開発していきたい」と、抱負を語ってくれた。
ちなみに、今話題の新型コロナウイルスに関しては、試験をするところがないため効果があるかどうかは確認できていない。今後、試験方法が確立できれば、生地の実力を検証したいと考えているそうだ。