単質排気量500cc。これが、諸星陽一さんが選んだ2種類の気持ち良いエンジンに共通するキーワードだ。もう1台は、日本が誇る小さな巨人、スズキ・ジムニーに搭載される660ccエンジン。高いお金を払わなくても、気持ち良いエンジンには出会えるのだ。
TEXT●諸星陽一(MOROHOSHI Yoichi)
1台目:メルセデス・ベンツ S450【エンジン:M256】
メルセデス・ベンツS450はM256と呼ばれるエンジンを搭載している。このエンジンは今はかなり少なくなった直列6気筒エンジンである。排気量は3リットル、つまり単室排気量は500ccとなる。私の経験では単室排気量500ccのガソリンエンジンというのは、じつに好フィーリングという印象を持っている。
燃料が燃えるときの火炎伝播速度は燃焼室容量の大小に関わらず同一だ。排気量が大きくなれば燃焼室容量も大きくなり、火炎が隅々に行き渡るのに時間がかかる。そのちょうどいい大きさがおそらく単室排気量で500ccなのだろう。加えてM256は直列6気筒らしいスムーズさも兼ね備えている。
2台目:トヨタ・スープラ SZ
スープラは直列6気筒を積むことをウリにして復活した。たしかに試乗してみると6気筒のスープラは力強く魅力的なクルマに仕上げられていた。
しかし、同時に乗った4気筒はさらにいいフィーリングだったのだ。スープラの歴史のなかで4気筒エンジンが搭載されるのは初の出来事なのだが、これはある意味成功といえる。3リットルエンジンに比べると150馬力くらい出力が落ちるのだが、それでも最高出力は197馬力、つまりリッターあたり100馬力程度は絞りだしている。なによりもクルマとエンジンとのマッチングがよく、扱いやすいフィーリングであることがこのエンジンを選んだ理由だ。
B48型と呼ばれるこの4気筒エンジンもじつは単室排気量が500ccだ。
3台目:スズキ・ジムニー【エンジン:R06A】
高いコストを支払っていいものが得られるのは当たり前だ。ベンツの6気筒に乗るためには新車なら1000万円を超えるコストが必要となる。しかし、そこまで高いコストを負担せずとも、いいエンジンには出会えるものだ。
そこで日本が誇るガラパゴスなセグメントである軽自動車からも1台選んだ。ジムニーである。ジムニーに搭載される3気筒660ccエンジンはR06Aと呼ばれるタイプで、最高出力は自主規制値である64馬力、最大トルクは96Nmとなる。
昔の軽自動車のエンジンはターボの効き方がピーキーで、過給圧を抑えるようなチューニングもあった。しかし、今のエンジンは低速トルクもしっかりとしていて、じつに乗りやすい。660ccという排気量の3気筒でこんなフィーリングのエンジンが作れるのは日本だけ。世界に誇っていい立派な技術である。
【近況報告】
最近、飼い猫のくるみちゃんが階段の最上段で寝るので、それを避けて階段を使わないとならず、かなり危ない状態で家の中を行き来しています。環境に合わせた生活態度が大切!
【プロフィール】
23歳で某自動車雑誌編集部員となるが、1年を待たずに独立。その後フリーランスのライター、カメラマン、編集者として活動。29歳からは富士フレッシュマンレース(シリーズ途中からチャンピオンレース)に7年間参戦。国内自動車メーカーの安全運転講習会のインストラクターなども務めた経験を持つ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)