新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は水素社会構築に向けた事業の一環として、次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)とともに、世界初となる国際間で水素を輸送する実証試験を本格的に開始した。
水素社会の構築に向けて、水素の安定供給システムを確立するために、海外の未利用資源を用いて水素を製造し日本へ輸送する水素サプライチェーンを構築する一体的な取り組みへの必要性が高まっている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2015年から世界に先駆けて水素社会構築に向けた事業(※1)を推進しており、海外の未利用資源を活用した水素の製造・貯蔵・輸送、さらには国内における水素エネルギーの利用までをサプライチェーンとして構築するための実証事業を行っている。
今般、NEDOは次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD ※2)とともに、水素キャリアとしてトルエンを活用する「有機ケミカルハイドライド法」により、未利用エネルギー由来の水素を国際的に輸送するサプライチェーン構築を目的とする国際実証試験を本格的に開始した。本事業では、ブルネイ・ダルサラーム国のプラントで水素とトルエンを結合させることで生成したメチルシクロヘキサン(MCH)をコンテナで海上輸送し、川崎市内に設置した脱水素プラントで水素を分離し、東亜石油株式会社京浜製油所内の水江発電所のガスタービンに供給する。また、水素を取り出した後のトルエンは再度ブルネイへ輸送し、繰り返し水素輸送に使用する。
水素は体積当たりのエネルギー密度が低く、輸送が課題と言われてきたが、MCHに変換することで、気体の水素と比べて体積が500分の1になり、常温・常圧で水素を運ぶことができる。そのため、取り扱いが容易で、既成規格品であるISOタンクコンテナ(※3)を用いても輸送や貯蔵が可能。さらに本事業で、これまで困難とされてきたMCHの大規模な脱水素処理技術を開発したこと、および水素の大量輸送・供給技術を確立することで、将来の低コストでの運用可能性を高めることができる。
今回の成果
2019年11月にブルネイにて、実証事業の起点となる水素化プラントが完成、製造されたMCHが、同12月に初めて日本に到着した。2020年4月に水素を取り出す川崎側の脱水素プラントが稼働を開始、5月にはMCHから取り出した水素を、川崎側プラントを設置した東亜石油・京浜製油所内の水江発電所のガスタービンに供給し始めた。
そしてこのたび、川崎側プラントで脱水素処理により分離したトルエンをブルネイへ輸送し、再度水素と結合させる処理を6月より開始した。これにより、ブルネイでのMCH生成、海上輸送、日本でのMCHから水素の分離、海上輸送、ブルネイでの再度のMCH生成、という一連のプロセスで構成される水素サプライチェーンが完成し、安定稼働に入った。
<実証事業の詳細>
水素輸送能力:フル稼働時 210トン/年(燃料電池自動車フル充填 約4万台相当)
チェーン運用期間:2020年 1年間
水素供給源:LNGプラントのプロセス発生ガスから水蒸気改質により水素製造(ブルネイ)
水素供給先:火力発電設備の燃料用途等(川崎臨海部)
輸送方法:ISOタンクコンテナ(コンテナ船/トラック輸送)
今後、2020年末まで本実証試験を行うことにより、水素化・脱水素化プラント設備の性能検証や課題の抽出を行い、運用技術の確立や国際取引のノウハウ蓄積を図る。これにより、海外から水素を輸送し、国内の水素発電などで利用する大規模な水素利用システム技術を確立し、本格的な水素社会の実現を目指す。
※1 水素社会構築に向けた事業
事業名:水素社会構築技術開発事業
事業期間:2015年度~2020年度
※2 次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合
英語名:Advanced Hydrogen Energy Chain Association for Technology Development
組合員:千代田化工建設株式会社、三菱商事株式会社、三井物産株式会社、日本郵船株式会社
※3 ISOタンクコンテナ
国際規格(ISO)に準じた液体輸送用のコンテナ