フリーランスのエディター&ライターである塩見智さんは、伝説の自動車雑誌『NAVI』の最後の編集長でもある。それだけに(!?)、クルマ選びも個性的。ホンダ・クラリティ フューエルセルは天然記念物並みに見かけることのない燃料電池車だし、モーガン3ホイーラーは2020年に新車で購入できるとは思えない出で立ちだ。
TEXT●塩見智(Shiomi Satoshi
1台目:ホンダ・クラリティ フューエルセル
水素を圧縮して車載し、必要に応じて水素とそこらじゅうにある酸素を化学反応させて電気を生み出す燃料電池車。排ガスの代わりに出すのは水だけ。こんな理科室での実験みたいなことを連続的、日常的に行いながら動く自動車。学研の『科学』と『学習』の特に『科学』のほうに熱中した子供時代を過ごしたくせに、高校時代の数学でのつまずきの結果、使えない文系に進んでしまった私にとって、燃料電池車にワクワクせずにいったい何にワクワクしろというのだ!
燃料電池車は電気自動車の一種であり、エネルギーの車載方法が異なるだけなのだが、バッテリー電気自動車にはない、シューッという音を立てながら加速する燃料電池車のほうが好きだ。シューッという音が聞こえる度、ああ今水素が電力に変わって副産物として水もできてんだなーと思え、夢を感じるからだ。
それに私は集合住宅に住むため、自宅ガレージをもたない。つまり自宅に充電環境がない。その時点でバッテリー電気自動車は候補から消えるのだ。
トヨタが20年末に発売し、それをもって燃料電池車を実験的販売のフェーズからマジで数を売るフェーズに入るとされる新型ミライを挙げてもよいのだが、現在市販されているクルマから選べというレギュレーションなので、ここはちょうど6月11日に個人向けリースが始まったホンダ・クラリティFUEL CELLを挙げておきたい。
登場時、特徴的外観を理解、消化できず、はっきりカッコ悪いと思ったクラリティだが、時を経るに連れペキペキとした面構成がキュービズムに見えてきて、今ではすごく好きなデザインだ。マルチェロ・ガンディーニでもあのデザインにするのではないかと思えてきている。そしてインサイトとプリウスの関係と同じで、後年振り返ればやっぱりクラリティもミライに世間一般の評価としては壮絶に負けるんだろうなと予想でき、そのこともクラリティに対しシンパシーを感じさせるのである。
2台目:スズキ・ジムニー
ジープ・ラングラーにもランドローバー・ディフェンダーにも負けない実力と世界的な評価を獲得しているオフローダーが、日本にあることの誇りを味わいながら乗りたい。もっと乗りたいクルマがたくさんあるのであと回しになっているが、運転人生を終える前に一度は所有したい。
3台目:モーガン3ホイラー
燃料電池車という新しいモノへ興味があるのと同じように、プリミティブなモノへも興味は尽きない。未来へ行ってみたいのと同じように過去へも戻ってみたい。3ホイーラーが最もプリミティブなクルマというわけではないのだろうが、象徴的な姿をしているのでそういうモノの代表として。
■塩見智(しおみ・さとし)
1972年岡山県生まれ。関西学院大学文学部仏文科卒。ベストカー編集部、NAVI編集部を経てフリーランスのエディター/ライターへ。自動車専門誌、ウェブサイトなどへ寄稿中。
人生で、あとどれだけクルマに乗れるだろうか。一度きりの人生ならば、好きなクルマのアクセルを全開にしてから死にたいもの。ということで、『乗らずに後悔したくない! 人生最後に乗るならこの3台』と題して、現行モデルのなかから3台を、これから毎日、自動車評論家・業界関係者の方々に選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)
【過去記事:乗らずに後悔したくない! 人生最後に乗るならこの3台】