日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員としても活躍する、自動車ライターの工藤貴宏さん。かつて日産シルビアやポルシェ・ボクスターを所有するなどスポーツカー好きの一面も持つ工藤さんが選んだ3台は、それぞれがひとかたならぬ走りのキャラクターを有する。筆頭に挙げられたアルピーヌA110は、そのピュアなハンドリングが大のお気に入りのようだ。
TEXT●工藤貴宏(KUDO Takahiro)
1台目:アルピーヌA110
嘘偽りなく、これまで運転したクルマのなかでもっともピュアなハンドリングだと思う。足りなすぎず、そして過剰すぎず、イメージしたとおりにスッと曲がる様子は脳の命令をダイレクトに受けてクルマが曲がっているのかと錯覚するほど。ミッドシップなのにスリリングさはなく、滑らせることを前提にコントロール性を高めてハンドリングが調教されているからボクのような素人でも気持ちよくテールスライドを味わえるのもさすが。まさに人馬一体だ。
人生最後なのでぜいたくを言わせてもらえれば、高性能仕様の「A110S」よりも、限界こそ低いものの純粋な「A110」だったらサイコーだ。トランスミッションはDCTだけど、このクルマなら「MTじゃなきゃヤダ」なんて口が裂けても言わない。
2台目:ダッジ・チャレンジャー ヘルキャット・レッドアイ
これまであまり興味がなくて一度も所有したことがないマッスルカーだけど、人生最後には心行くまで味わってメイドの土産としたい気がする。
というわけで選んだのはアメリカンマッスルブランド「ダッジ」の、絵にかいたようなマッスルカーの「チャレンジャー」。チャレンジャーには毎年のように凄いモデルが登場するけれど、「毒を食わらば...」というわけで狙うはもっとも変態...じゃなくて現時点でもっともスゴイ「ヘルキャット・レッドアイ」というやつ。
エンジンは排気量6.2ℓのV8スーパーチャージャー付で797HPだから日本式で言えば808ps。噂によると、アクセル全開を11分間続けると燃料タンクが空になるらしい。
環境? 二酸化炭素? なにそれ?
3台目:ホンダS660
日本男児たるもの、最後には清く正しく武士道にのっとり軽自動車でキメるべきだと思う。日本が世界に誇る軽自動車のなかでも、究極の盆栽カーといえるのがホンダS660だ。専用設計の車体に実質的に専用設計のエンジンをミッドシップに積んで後輪駆動、車体サイズだけは普通のスポーツカーのだいたい2/3という世界に誇らずにはいられないラストサムライである。
欧米のクルマ好きが見たら、その緻密さに驚くに違いない。乗れるのは2人だけ、荷物を置くスペースは無きに等しい。ゼロ戦にもどこか通じるそんなストイックなクルマは、乗り味も素晴らしい。重いスポーツカーをあざ笑うかのような軽量設計で、すばしっこく峠道を駆け回る様子はまるで隠密行動を得意とする忍者。車幅を肩幅くらいに感じる等身大の感覚はまるでバイクだ。
適度に非力なエンジンも、その性能を引き出す喜びに満ち溢れている。最後にこれに乗れず死ねるわけがない。ただし、軽量2シーター後輪駆動+MTで爽快な走りが楽しめるという意味では、ススキ・キャリイ(できればシート調整範囲が広いスーパーキャリイがいい)にもひかれるものがある。
■工藤貴宏(くどう・たかひろ)
自動車ライターとして生計を立てて暮らしている、単なるクルマ好き。人生最初にクラッチをつないだクルマは、R30型スカイラインのTI。はじめて所有したクルマはS13型シルビアで、その後S15型シルビア、ポルシェ・ボクスターS、ルノー・ルーテシアR.S.、ファミリーカーとしてはアコードワゴン、マツダ・プレマシー、そしてマツダCX-5などを乗り継ぐ。そろそろ12気筒のクルマを買ってみたい今日この頃。
選んだのはあとどれだけクルマに乗れるだろうか。一度きりの人生ならば、好きなクルマのアクセルを全開にしてから死にたいもの。ということで、『乗らずに後悔したくない! 人生最後に乗るならこの3台』と題して、現行モデルのなかから3台を、これから毎日、自動車評論家・業界関係者の方々に選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)