小さな本格オフローダーとして、唯一無二の存在であるスズキ・ジムニー。2018年、20年ぶりのフルモデルチェンジを遂げて登場した新型は、瞬く間に大人気モデルに。そんなJB63型ジムニー&JB74型ジムニーシエラだが、ジムニーの世界に詳しい自動車ライターの山崎友貴さんは「買うならATがオススメ」だという。その理由とは、何だろうか?
TEXT:山崎友貴(YAMASAKI Tomotaka)
20年ぶりのフルモデルチェンジで登場した現行型は、乗り味が大きく変わった
JB63型ジムニー、JB74型ジムニーシエラがデビューして久しいが、相変わらず所有をできているのはごく一部のユーザーに過ぎない。このコロナ禍の影響によって生産が滞っているという話も聞くので、納車に待ちくたびれた人も少なくないと思う。
僕自身も今年に入り、シエラを注文するつもりでいた。だが、さすがに1年待ちのデリバリーに腰がひけて、今は様子見という状態だ。それでも僕は、仕事でジムニーやジムニーシエラに乗れるので幸運だ。定期的にノーマル、カスタムカーを問わず、乗り回すことができる。特に仕事では、林道やオフロードに行く機会が多く、往復で走る高速道路も含めて、同モデルの実力を十分に知ることができるのはありがたい。
乗りやすくなったものの、面白味は減った現行型のエンジン
さて、現行型ジムニーは様々な点で、先代とは乗り味が違っているが、その要因のひとつがエンジンだ。まず、現行型に搭載されているR06A型660cc直列3気筒ターボだが、先代のK6A型がいわゆるターボラグがあったことに対して、圧縮比を高めることで割と早い段階からトルクが立ち上がるセッティングに変わり、中間加速性能を高めている。
先代はどちらかという回転を上げ気味にしないと気持ち良く走れないバイクのようなフィーリングだったが、現行型ではそれほど引っ張らなくても楽に走れるようになった。ただしその分、クルマを全開で走らせるという面白みは減ったと思う。
ジムニーシエラに搭載されているK15B型1.5ℓ直列4気筒エンジンにいたっては、いい意味でまるで別物である。先代のパワーユニット・M134A型が酷かったというとユーザーに申し訳ないが、小型エンジンとしては平均的な性能だとは思うが、とにかくトランスミッションやファイナルとのマッチングが悪い。
トルクのおいしいところを高速域で活かすのが難しく、高速道路では少しでも勾配がきつくなるとシフトダウンしようがアップしようが、軽自動車にバンバン抜かれるほどだった。しかし現行型のエンジンの搭載によって、ジムニーシエラはようやく「普通車」の税金を払うに値するようになった。
ちなみに、先代の660cc車はピーキー、1300cc車はATでパワーバンドを掴むのが困難だったこともあり、4ATよりも5MT車を選ぶ人が多かったように思う。高速域で速度が伸びず、ちょっと坂道になれば失速するようでは、当然のことと言える。では5MTがことさら4ATよりも優れていたかというと、そうとも言えない。
660ccで言えば、2速、3速あたりのギアが離れており、常にパワーバンドに入れておきたいダートなどではどちらのギアも中途半端な気がするのである。そのため4Lにシフトしなければ頻繁なシフトチェンジを要し、林道を走り終わる頃には左肘が痛くなっていたこと思い出す。
こうしたトランスミッションやファイナルの問題は、ジムニーというモデルのキャラクターに起因していると思う。ジムニーは市街地、高速道路、ダートや雪道、さらに完全なオフロードという、まさに地球でクルマが走りうる道すべてがその範疇だからだ。開発陣も歯車関係をどこに着地させればいいのか、エンジンとのマッチングを考えながら苦慮していたはずだ。
乗りやすくなったMT車に対して、ATは先代からのキャリーオーバー
では現行型はどうかというと、まず660cc車の5MTは1速から3速は約1%ローレシオ、4速は約5%、5速は約11%もハイレシオ化された。1500cc車の5MTは、ギアレシオは変わっていないものの、トランスファーのリダクションギアとファイナルドライブレシオを変更し、全体で約9%のハイレシオ化を行った。シエラに関しては先代よりも装着タイヤの径が大きくなっているため、約13%ハイレシオになっていることになる。
乗ってみると乗り味の差は明らかで、市街地や高速道路といった日常では乗りやすくなっていることは間違いない。ちなみに、MTはシフトチェンジ時のフィリーングを変えたり、シフトレバーの振動を新機構で低減させたりと、エンジニアは細かいところにまでこだわり抜いていることも、旧型からの乗り替えオーナーなら体感できるはずだ。
4ATを現行型と先代を比較してみると、なんと660cc車に搭載されているものに関してはギヤ比も最終減速比も全く同じ。1500cc車はファイナルのみをローレシオ化。つまり4ATに関しては、実は先代からのキャリオーバーなのである。
真骨頂であるはずのオフロード走行、そこで気になることが...
さて、20年も経つと世の中は大きく変わるもので、今や日本の道は20年前では考えられないほどSUVで溢れている。あまりにもSUV増えすぎて、ジムニーのようなレトロフューチャーな“四駆”がウケるわけだが、走行性能もレトロでいいのかと言えばそうはいかない。もはやロードクリアランスの大きいSUVやクロスオーバーでも、高速や市街路で気持ち良く走れるのは当然であって、90年代のように「四駆だから我慢するか」とはならない。さらに昨今のクルマは環境性能も高めないと、なんとなく世間の目が冷たい。
それゆえ現行型ジムニーやジムニーシエラにも、開発陣の苦悩が見える。高速でキビキビ移動できないと現代のクルマとしては失格だし、かといってジムニーである以上はオフロードでの性能も命題となる。燃費も良くしないとユーザーにそっぽを向かれる。こうした難題にエンジニアは立ち向かい、様々なメカニズムを改善して新型を造ったことにはリスペクトするが、必ずしもそれがパーフェクトな結果になるとは限らない。
それを殊に感じたのは、やはりオフロード。MT車で凹凸の激しいモーグルなどを走ると、ブレーキLSDトラクションコントロールがカットされる4Lにおいても、実にエンジンストールすることが多い。とにかくアクセルの踏み出し直後はトルクが足りず、大径タイヤを履いている場合などは、ちょっとした段差を越えるのにもスロットルを大げさに開けなければならない。
これは、新型660ccエンジンが先代より最大トルクが9Nmも下がっているというスペックよりも、実は現行型から電子スロットル化されたことが大きいのではないないかと思っている。ここでトルクが欲しい! というようなヒルクライムや凹凸の激しいモーグル地形では、アクセルを踏みつけてもエンジンの反応が鈍く、なんとなくモタモタついた感じになってしまうのである。
アフター品の電子スロットコントローラーを装着すれば解消はされるが、ノーマルのままではアクセルワークやシフトチェンジにコツがいりすぎて、四駆の運転に不慣れなオーナーでは深雪や河原ですらも苦戦するに違いない。しかも、5MTは3速と4速のギア比が先代よりも離れてしまったことから、林道では相変わらず中高速での頻繁なシフトチェンジが待っている。
4ATならば、アフセルワークやシフト操作のコツが不要
このネガティブな面を解消してくれるのが、4ATだ。なにせATにはトルクコンバーターという機構があるので細い低回転域のトルクでも増幅してくれるし、基本的にエンストがないのでモーグルなどでも走行ラインをしっかりと確認しながら、慌てることなく走ることができる。
もちろん、本格的なオフロード走行をする現行型ジムニーオーナーは少ないとは思うが、そういうユーザーでも昨今のアウトドアブームで河原や砂地を走ることはあるだろうし、降雪地域であれば深雪の中を走ることもあるだろう。そんな時にATであれば慌てることはないし、4Hに入れておけばブレーキLSDトラクションコントールの恩恵でスタックする心配もさほどない。
ちなみにジムニー、ジムニーシエラの4ATとも現行型から待望のロックアップが付き、高速ドライブが本当に快適になった。以前のように高速域での加速でもたつくことが少なくなり、無駄にエンジンを回す必要がなくなったのは、ガソリン高騰時代にはありがたい。そしてこの高速でもATであれば、トルコンに溜められたトルクを加速などでしっかり使えるというメリットが生まれる。
ジムニーを所有しているうちに「非常」のシーンがどれだけあるかというと希だろうが、昨今の自然災害の驚異なども考慮すれば、やはりジムニーというクルマの能力を100%活かし切れた方がいいに決まっている。もちろん、クルマを操るという楽しみはMTに勝ることはないが、最初から難しいモノを持って嫌になってしまうくらいなら、楽しみを十二分に享受できるモノを長く使った方が、人生が楽しいような気がする。ましてやジムニーのようなクルマでは。
...というわけで、「ジムニーを買うならATがオススメ」な理由を山崎友貴さんに解説していただいた。これから定期的にジムニーに関する話題を硬軟織り混ぜてお届けしていく予定なので、今後もご期待ください!