11年前にセンセーショナルなデビューを飾ったBMW・S1000RR。熟成に熟成を重ねて2019年にフルモデルチェンジを決行。5代目となった当モデルは多方面からの評判がすこぶる高い。そのスーパースポーツを長年BMWに親しんできたライダーが満を持して試乗レポート! とは言っても公道オンリーなので普段使いでの情報としてお役立てくださいませ!!
REPORT●川越 憲(KAWAGOE Ken)
PHOTO&EDIT●佐藤恭央(SATO Yasuo)
BMW・S1000RR……2,313,000円〜
BMW初のスーパースポーツ、S1000RRは、2009年にレース(WSB)で好成績を収めた後に、2010年に市販されるという経歴を持つ異色の一台で、発売当時はひどく衝撃を受けたものだ。当時、筆者はバイク雑誌の企画でスーパースポーツ(以下、SS)対決と称し、国内4メーカーのフラッグシップSSとS1000RRを比較試乗したことがある。私的に「サーキットでの速さは、もはやライダーの腕次第である」という結論にいたった。
一方、S1000RRはアルミツインスパーフレームに直4エンジンを搭載し、サスペンションはフロントにテレスコピック、リヤにリンク式モノサスを採用。湾曲したスイングアームやチェーンドライブなど、国産SSと同等の仕様で登場したのだが、パワー、軽さ、操安性など、全ての面で国産SSを凌駕するパフォーマンスを持っていたのだ!
国産SSは試行錯誤を繰り返して熟成を重ねて「国産の敵は国産でしかありえない」と言われる性能を獲得してきた。それだけに、BMWの本気(マジ)は恐ろしいと実感したのである。
エンジンをスタートさせると、ハイパワーマシンらしい迫力の重低音が響く。このサウンドを聞いただけでは、数々のバイクを乗りこなしてきたベテランライダーであってもBMWとは思わないほど自然なもの。またがってみると、シートがほとんど沈み込まず、身長182cmの筆者でさえしっかりと両足が着かないが、SSの中では標準的と言える。発進はアイドリングでゆっくりとクラッチをつなぐ。すると、スロットル操作は必要ないくらいスルスルゥ~っと加速していく。筆者が普段乗っているのは、旧型フラットツインエンジンを積んだR1150GSなので、S1000RRの低回転から溢れる怒涛のトルクに緊張が隠せない。
回転計のメモリは1万6000rpmまで刻まれ、レッドゾーンは1万4000rpmに設定。しかし、街中では6000rpmも回せば十分。シフトカム機構の高速カムシャフトに切り替わる9000rpm以上の回転数を使う機会は、公道ではほぼないだろう。
●足つきチェック(ライダー身長182cm)
ブーツを履いているから見た目は不安なさそうだが、身長182cm体重70kgの筆者で、かかとが大きく浮いてしまう。先代モデルよりハンドルがライダー側に近付いたようで自然に前傾姿勢がとれるため、ポジションはコンパクトに感じる。一旦走り出してしまえば、スポーツ走行をするのにベストポジションと言えるだろう。
今回の試乗では試していないが、スイングアームのピボット位置を変更できるMシャシーキットを装備しており、リヤサスペンションの車高調整機構と合わせて、自分に合ったポジションや乗り味を探る楽しみもある。
●ディテール解説
4ピストンのラジアルマウントキャリパーはHAYES(ヘイズ)製を採用。φ320mmダブルディスクとの組み合わせは申し分なしのストッピングパワーを発揮!
リヤブレーキはφ220mmシングルディスクと、ブレンボ製1ポットフローティングキャリパーのコンビ。フロントと同じくリヤホイールもカーボン製だ。
フロントマスクは先代までのアシンメトリー形状から、左右対称型のデザインとなった。ヘッドライトはLED化とともに小型化され、ウインカーがミラー一体型となったため、よりソリッドな顔つきに! ちなみにウインカーにはオートキャンセラーが追加されている。
ナンバープレートホルダーにLEDウインカーを配置。テールランプはLEDウインカー内に収められ、リヤビューがさらに先鋭化された。ウインカーとテールランプを一体化することで、サーキットでの保安部品の着脱が大幅に簡略化された。
倒立式のテレスコピック式フォークは先代のザックス製からマルゾッキ製に変更。太さはφ46mm→φ45mmへと細身になった。左側フロントフォークの電子制御システム「DDC(ダイナミック・ダンピング・コントロール)」が伸び側・縮み側も調整し、速度や路面状況に応じて最適な車体姿勢を作り出す。右側フロントフォークはスプリングを内蔵したセパレート方式でプリロード調整も右側のみで行う。
フロントと同じく電子制御システム「DDC」が伸び側・縮み側のダンピングを調整。エンジンの熱の影響を受けにくくするため、ボトムリンク式からアッパーリンク式に変更された。ストローク量を増やしつつスプリングレートを低めに設定することで、しなやかで初期動作から理想的な減衰圧を生み出せるようになった。
新たに可変バルブ機構「BMW Shift Cam(シフトカム)」を搭載しながら、車両重量は約4kgの軽量化に成功! 排気量やボア×ストロークは先代と同じだが、最高出力は199ps→207psへ8psアップ。最大トルクは先代と同じ113Nmだが、発生回転数を1万500rpm→1万1000rpmへと微変動してトルクカーブを適正化している。
シフトペダルにはshiftアシストコントロール機構を装備。クラッチは発進時と停止時以外に使用することなく、いたって普通に走ることが可能だ。シーソータイプのリンクになり、簡単に逆チェンジに変更できるようになった。
ハンドルは先代モデルから絞り角が緩やかになり、さらに幅広となった。キーレス仕様ではないので、中央からすこし左にずらした位置にメインキーシリンダーを配置している。
メーターは他の新型モデルと同様に6.5インチのTFTディスプレイとなり、画面を切り替えることで表示される情報量が格段に増えた。回転計はエンジンのコンディションでレッドゾーンが変化する。
■主要諸元■
■車体寸法・重量
全長:2,070 mm
全幅(ミラーを除く):740 mm
全高(ミラーを除く):1,160 mm
シート高:824 mm
インナーレッグ曲線:1,827 mm
車両重量:200 kg (Mパッケージは196.5 kg)
燃料タンク容量:16.5 L(リザーブ約4L)
■エンジン
エンジン型式:水冷並列4気筒4ストロークエンジン4バルブ(チタン製)
ボア×ストローク:80 mm x 49.7 mm
排気量:999 cc
最高出力:152 kW (207 hp) / 13,500 rpm
最大トルク:113 Nm / 11,000 rpm
圧縮比:13.3:1
点火/噴射制御:電子制御インジェクション、可変インテークパイプ長
エミッション制御:クローズドループ制御式触媒コンバーター(EURO4排ガス規制適合)
最高速度:305 km/h
燃料消費率(WMTCモード値クラス3 ※1名乗車時):15.62km/L
燃料種類:無鉛プレミアムガソリン
■電装係
オルタネータ:450 W
バッテリー:12V / 8Ah(メンテナンスフリー)
■パワートランスミッション
クラッチ:湿式多板(アンチホッピング)
ミッション:6速
駆動方式:チェーン式
■車体・サスペンション
フレーム:アルミ合金製ブリッジフレーム
フロントサスペンション:倒立式テレスコピックフォーク(45mm径)、調整式スプリングプリロード、調整式リバウンド/圧縮ダンピング
リヤサスペンション:アルミニウム製ビームスイングアーム、フル フロート Pro、センタースプリングストラット、調整式リバウンド/圧縮ダンピング、プリロード調整機能付き
サスペンサスペンションストローク(フロント/リヤ):120mm/117 mm
軸間距離:1,440 mm
キャスター距離(トレール):93.9 mm
ステアリングヘッド角度:66.9°
ホイールアルミキャストホイール(Mパッケージはカーボンホイール)
ホイールサイズ:
フロント3.50 - 17"
リヤ:6.00 - 17"
タイヤサイズ:
フロント:120/70 ZR 17
リヤ:190/55 ZR 17(Mパッケージは200/55 ZR 17)
ブレーキ:
フロント:ツインディスクブレーキ、直径320mm、ラジアル4ピストン固定式キャリパー
リヤ:シングルディスクブレーキ、直径220mm、1ピストンフローティングキャリパー
ABS:BMW Motorrad Race ABS 、パーシャリーインテグラル