2020年3月末、BMWグループが、BMW i Hydrogen NEXTのパワートレインシステムの概要を明らかにした。そこで今回は、BMW i Hydrogen NEXTが開発される背景を説明しつつ、遂に姿を現したパワートレインを眺めてみよう。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro) PHOTO:BMW
i Hydrogen NEXTの開発背景
ご存知の通り、BMWは代替パワートレインに特に力を入れているメーカーである。フルEVのi3が着々と販売台数を伸ばしているうえ、BMW初の完全な電動SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)となるiX3の発売を控えている。2021年には4ドア・クーペのi4が登場予定だ。PHEVのラインナップは日本市場で6車種を数える(筆者調べ)。
それでいてBMWは燃料電池自動車も開発している。今回のプレスリリースでは、その理由や背景から説明された。
研究開発担当役員のクラウス・フレーリッヒ氏によると、単一の解決策がない今、BMWグループでは、将来は様々な代替パワートレインシステムが共存する、と予想している。プラミアムカーメーカーとして地位を確立したBMWであっても、更にグローバル化が進むであろう未来においては、現在より更に多様な環境下で、多様なニーズに応える必要がある。それに対応するには、燃料電池自動車も一つのソリューションとなる、と踏んでいるのである。具体的には、燃料電池自動車は、主に長距離輸送などの直接電化できないアプリケーションでの使用を想定しているようだ。課題には、インフラ整備をあげていた。
ところでBMWは、2011年末にトヨタと環境技術に関して提携したが、その重点技術が燃料電池である。そして2013年からは、水素燃料電池技術を使用した駆動システムを共同開発している。しかし周知の通り、燃料電池自動車においてはトヨタが一歩も二歩もBMWよりも先んじている。実際、2016年9月に日本の報道陣に公開されたBMWの燃料電池テスト車両(5シリーズGTベース)は、FC(燃料電池)スタックのみならず駆動システムまでが、トヨタ製であった。同年に両社は、提携から一歩進めて、製品開発パートナーシップ契約を締結した。今回のリリースにあたってフレーリッヒ氏は「BMWは何十年も水素エンジンを開発してきた経緯がある」と述べているが、共同開発製品とトヨタ製品との違いや、BMW独自開発技術について発表されたのだろうか?
i Hydrogen NEXTのパワートレイン技術が初めて公開された
BMWは2019年のフランクフルトモーターショーでi Hydrogen NEXTを発表した。それはX5ベースの小型車であり、そこに水素燃料電池電気駆動システムを搭載していた。市販予定は2025年とされていた。当時は、技術的事柄や性能に関しては、FCスタックの画像と、燃料補給時間が4分未満であること以外は、一切公開されなかった。ちなみにFCスタックとは、電池の最小単位となるセルを100枚程度直列に積層して結合した構造体のこと。一般的に燃料電池自動車では、このFCスタック数個を直列にして搭載している。
いよいよ、今回発表されたi Hydrogen NEXTについて。その水素燃料電池システムは、水素と酸素の化学反応から最大 125 kW(170 hp)の電気エネルギーを発生する、と発表された。電気コンバーターは燃料電池の下に配置する。そして、前述した2020年中にデビュー予定のフルEVモデルiX3が搭載する予定の、第5世代eDriveユニットを大いに流用する。ピークパワーバッテリーをモータの上に配置する。コレが追い越しや加速時に効力を発揮する。iX3のリリース(2019年12月発表)には、iX3の高電圧バッテリーユニットはBMWの第5世代eDrive世代の不可欠な部分である、とされていた。これがトヨタの協力によりBMWが自社開発したもので、自社で製造する。原料のコバルトとリチウムはBMW自身が購入し、バッテリーセルの生産者に提供されるようだ。
システムの総出力は275 kW(374 hp)となる。燃料電池の下にコンバーターを配置。700バールタンクを二つ搭載している。このタンクは、それぞれが6kgの水素を保持する。水素燃料補給にかかる時間は、今回の発表では3〜4分とされた。
この水素燃料電池電動パワートレインはX5に搭載予定であり、車両は2022年に発表される、とのこと。市販は世界市場の動向を見つつ、今後10年以内となる見込みである。