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【BMW・X3 M対BMW・Alpina XD3比較試乗】千秋楽の横綱対横綱だ!


かたや510㎰を発生する最新の3.0ℓ直6ターボを搭載するX3Mコンペティション。こなた700Nmのトルキーな3.0ℓ直6ディーゼルターボを積むアルピナXD3。X3を素材として扱いながら、まったく異なる価値観を創出した2台。どちらも強烈な印象を残す、濃厚な2モデルを箱根のワインディングで味わった。




REPORT◉吉田 拓生(YOSHIDA Takuo)


PHOTO◉市 健治(ICHI Kenji)




※本記事は『GENROQ』2020年2月号の記事を再編集・再構成したものです。

 SUV人気が凄まじい。それが小型になり、スポーツ性能を高めてくると、多くのカスタマーを射程に収めることになる。ポルシェやジャガー、マセラティといったスポーティを是とするブランドがSUVをリリースし、そのイメージを引き上げているのである。




 だが正直に言うならば、これまでただの1度も、SUVがスポーツカーの代替になると感じたことはない。どんなにSUVが車高を下げ、電子制御で路面を捉えたところで、地球上を走る限り、物理の法則を歪めることはできないのである。




 以前BMW X3の高性能モデルであるM40dに試乗した。このクルマの3.0ℓ直6のディーゼルのベースはアルピナのXD3と同じ。けれどスポーツというテーマで切ると、どちらのモデルにも溜飲を下げることができなかった。




 M40dはMらしい快速モデルだったが、シャシーの味付けが安定方向過ぎ、ドライブしていて楽しいとは思えなかった。一方のXD3は、こちらが挑発してもいつもの「アルピナ・スタンス」を崩さない大人の乗り物であり、カーブの曲率がタイトになると少し物足りなさを感じた。




 だが今回の乗り比べの話をもらった時、頭の中のモヤモヤに整理が付きそうな気がした。新開発、正真正銘のMユニットであるガソリン直6ターボのS58のデビューモデルとなったX3Mコンペティションと、アルピナ仕立てのディーゼルを搭載したアルピナXD3である。今回のアルピナの役どころは、新登場となる「真性のMのSUV」の実力を計るモノサシといったところか。

走行モードをメモリできるM1/M2ボタンをステアリング上に配置するM専用レザーステアリングを採用。
一体型ヘッドレストのMスポーツシートはホールド性に優れている。


NAエンジンのようなフィーリングを持つS58B30A型3.0ℓ直6ツインターボエンジン。510㎰/600Nmのパワーは圧巻だ。

 両車のエンジンはガソリンとディーゼルという違いはあっても、排気量はともに2992㏄であり、ボア×ストロークも84×90㎜で同一。21世紀のモジュラー・エンジンはマニアをあまり興奮させてくれないのだ。だが出力特性は大きく違っている。




 333㎰の最高出力と700Nmもの最大トルクを誇るアルピナ・ディーゼルに対し、Mのガソリンは510㎰、600NmとこちらもSUV界の常識を超えているのだ。




 箱根の山を駆け上がるため、最初にステアリングを握ったのはXD3。先日アルピナのアンドレアス・ボーフェンジーペン社長にインタビューする機会があった。彼はMをライバル視していないし、BMW側に忖度することもないと言っていた。自分たちの理想を実現する、ただそれだけ。その理想とはロングツアラーなのだと強調していた。




 であるならばXD3がタイトコーナーの途中でスロットルワークに対し鼻先の反応が少し鈍いのは狙ってのことかもしれない。1750rpmという低域から700Nm越えのトルクが後押しするアルピナXD3は、不思議なくらいに乗り手の心拍数を上げない乗り物だ。ひとたび回りはじめるとガソリンエンジンよりも静かなディーゼルユニットによって、スピードだけが上昇していく。


 


 21インチ、40扁平のミシュランを履くMに比べ、22インチ、35扁平のピレリを履いたXD3は、スクエアなタイヤショルダーの形状から想像される通り直進性に重きを置いている。リヤ3サイズアップ(フロント255、リヤ285)という極端なタイヤ幅の違いも、安定方向のハンドリングを担保している。XD3はアンドレアス社長の証言がピタリと当てはまるロングツアラーなのだ。

〈SPECIFICATIONS〉BMW X3 Mコンペティション


■ボディスペック


全長(㎜):4730


全幅(㎜):1895


全高(㎜):1675


ホイールベース(㎜):2865


車両重量(㎏):2030


■パワートレイン


エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ


総排気量(㏄):2992


最高出力:375kW(510㎰)/6250rpm


最大トルク:600Nm(61.2㎏m)/2600~5950rpm


■トランスミッション


タイプ:8速AT


■シャシー


駆動方式:AWD


サスペンション フロント:マクファーソンストラット


サスペンション リヤ:5リンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:255/40ZR21


リヤ:265/40ZR21


■環境性能


燃料消費率(㎞/ℓ:WLTCモード) 9.1


■車両本体価格(万円) 1394

 今回が初となるX3Mコンペティションは、エッジが立ったフロントバンパーが彫りの深い表情を作り出している。一方室内も、標準のX3に準拠していたXD3に対し、Mのそれはステアリングやシフト周りが思う存分にM化されている。赤いM1、M2スイッチでドライビングモードを呼び出せるステアリングはM5コンペティションと同一である。




 X3Mコンペティションで走りはじめてすぐ、妙な感じに襲われた。ターボラグがないというか、圧倒的にパワーがあるNAというか、そんな感じなのだ。エンジンがかなりパワフルであることは予測していたが、ここまでダイレクトだとは思っていなかった。SUVでは感じたことがないフィーリングだ。




 アルピナは大トルクによって2tちょっとの車重を質感向上につなげている。だがMは2t弱という車重が1.5tほどに感じられるほど走りが軽快だ。しかも微かなスロットルオフをきっかけにして喜んでコーナーに飛び込んでいく。リヤのグリップが心配になるくらい、X3Mのハンドリングは鋭いのだ。




 リヤ3サイズアップで、しかもタイヤの弾性に頼らずサスペンションで正確にボディをコントロールするアルピナ。それに対しリヤ1サイズアップのMはリヤのブレークを辞さないほど全身を使ってコーナリングを表現する。活発で谷間のないエンジンパワーがハンドリングにも好影響を与えているし、回せば回すほど気持ちよさも倍増する。



ラヴァリナレザー張りのステアリングの手触りはまさに上質そのもの。デジタルメーターはアルピナ独自のデザインに変更されている。シートは厚みもあり、快適性が高い。

わずか1750rpmから700Nmを発生する3ℓ直6ディーゼルターボを搭載。0→100㎞/h加速4.9秒、最高速254㎞/hの俊足の持ち主だ。

 ドライビングモードを変えて気づくのはロールがはっきりと減少することで、スポーツプラスとトラックDSCを組み合わせた状態でドライブすると、スロットルに対する電制デフの反応もさらに鋭さを増し、乗り手との完璧な調和が生まれる。X3MコンペティションはSUV版のM3を名乗る資格が確かにある。




 自動車世界最高の質感を誇るラヴァリナレザー張りのアルピナの細身のステアリングと、路面の状況を生々しく伝える極太のMステアリング。クルマ全体の傑出した性格が末端にまで精緻に表現されている点に、両者の造り込みの、これ以上ないレベルの高さが伺えるのである。

〈SPECIFICATIONS〉BMWアルピナXD3


■ボディスペック


全長(㎜):4720


全幅(㎜):1895


全高(㎜):1675


ホイールベース(㎜):2865


車両重量(㎏):2090


■パワートレイン


エンジンタイプ:直列6気筒DOHCディーゼルターボ


総排気量(㏄):2992


最高出力:245kW(333㎰)/4000~4600rpm


最大トルク:700Nm(71.4㎏m)/1750~2500rpm


■トランスミッション


タイプ:8速AT


■シャシー


駆動方式:AWD


サスペンション フロント:マクファーソンストラット


サスペンション リヤ:5リンク


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク


■タイヤ&ホイール


フロント:255/45ZR20


リヤ:285/40ZR20


■環境性能


燃料消費率(㎞/ℓ:WLTCモード)12.6


■車両本体価格(万円) 1115
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